シドニアの騎士 第九惑星戦役第3話「針路」のストーリー解析を行う。原作未読。→前回 →次回
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■評価
★★★ スタンダード
[ニコニコ本編]http://www.nicovideo.jp/watch/1429686166
■総評
第3話は、中長期的な展望回。大シュガフ船の殲滅宣言や、いくつかの中長期的な展望が含まれ、ストーリーはじっくり落ち着いている。大きくストーリーが動くのは、終盤の新しいガウナ・ガ550が出現してからだが、前半部も色々な示唆を含んでいるので、ストーリーの大きな流れにも注目してみてほしい。
■基本情報
原作 - 弐瓶勉(講談社「月刊アフタヌーン」連載)
監督 - 瀬下寛之
シリーズ構成 - 村井さだゆき
脚本 - 山田哲弥
アニメーション制作 - ポリゴン・ピクチュアズ
→Wikipedia
■登場人物
[主人公たち]
谷風 長道(たにかぜ ながて) - 逢坂良太
科戸瀬 イザナ(しなとせ イザナ) - 豊崎愛生
緑川 纈(みどりかわ ゆはた) - 金元寿子
仄 焔/煉(ほのか えん/れん) - 喜多村英梨
白羽衣 つむぎ(しらうい つむぎ) - 洲崎綾
[シドニア幹部]
小林(こばやし) - 大原さやか
落合(おちあい) - 子安武人
科戸瀬 ユレ(しなとせ ユレ) - 能登麻美子
[岐神開発]
岐神 海苔夫(くなと のりお) - 櫻井孝宏
岐神 海蘊(くなと もずく) - 佐倉綾音
[外生研]
田寛 ヌミ(たひろ ぬみ) - 佐藤利奈
[東亜重工]
丹波 新輔(たんば しんすけ) - 阪脩
佐々木(ささき) - 本田貴子
[寮母]
ヒ山 ララァ(ひやま ララァ) - 新井里美
[衛人操縦士]
サマリ・イッタン - 田中敦子
弦打 攻市(つるうち こういち) - 鳥海浩輔
勢威 一郎(せいい いちろう) - 坪井智浩
■ドライバー分析
第3話のメインドライバーは2つ。
1.シドニアの針路と大シュガフ船殲滅計画の説明(P=G)
2.ガ550が出現し、つむぎが閉じ込められる(E)
また、サブドライバーとして、
3.融合個体の製造方法についての説明(P=E)
4.焔が目を覚ます(P、G)
などがある。
第3話は、接続回。中長期的な展望が多く、ストーリーとしては落ち着いた内容。ストーリー終盤でガ550という新たなガウナとの戦闘に入るが、これは次回の導入部分であり、いわゆる引きになっている。
[新たなに出現したガウナ、ガ550]
ドライバーとしては色々なものが描かれているので、1つ1つ見ていこう。
1つ目は、タイトルにもなっている「針路」について。小林は、不死の船員会を抹殺した後、シドニアの針路をレム恒星系に向けた。その目的は、レム恒星系に向かう大シュガフ船を殲滅することだ。
[大ホールで大シュガフ船について語る小林]
レム恒星系には、第10話で植民者たちが向かった第七惑星セブンがあり、小林は説明に入植者たちを救うというニュアンスを込めている。
ただし、分析的に言えば、ストーリーを牽引するのは、「大シュガフ船の脅威(E)」であり、「植民者の危機(E)」ではない。
元々、植民者は「カビがガウナを引き寄せている」と主張する非武装主義者たちであった。小林にとって非武装主義者たちは邪魔な存在であり、入植の許可を出したのは、それが「厄介払い」だったからだ。だから、小林に植民者を助けるつもりはない。
また、今回の終盤で、植民船がガウナに取り込まれていたことが判明し、その危機は事実上消滅した(E-E)。一度は長道に助けられた命だが、無残な末路である。
[ガウナに取り込まれた植民船]
しかし、一方で大シュガフ船の存在は、第1期第1話から長らく伏線にされてきた重要事項だ。小林や落合曰く、それは避けることのできない戦いなのだという。
タイトルとなっている「第九惑星戦役」は、作戦上向かう第九惑星での大シュガフ船との戦いを意味すると思われ、大シュガフ船との戦いが第2期のストーリーを中長期的に牽引する重要なドライバーであることは間違いない。
ただし、その脅威に対して「大シュガフ船を倒す(G)」が結末なのかはまだ分からない。ストーリー中盤、落合は「大シュガフ船を駆逐するための力を手に入れなければならない」と主張する。だが、それに対し長道は概ね賛成しながらも「ガウナとの対話による解決(G)」の可能性を残している。
大別するなら、小林や落合らは殲滅派、長道や星白、つむぎは対話派と言えるだろう。殲滅か、対話か。2つの異なる結末は、ストーリーの最も中心的な分岐点につながっている。
[掌位を組む長道達。つむぎの母体がエナ星白と知っての纈のこの表情]
人間とガウナのあいのこであるつむぎがどのような役割を果たすのかも注目だ。
さて、残るドライバーについても触れておこう。4つ目のドライバーは、エナ星白と落合についてだ。今回、ユレ博士の回想シーンにて、落合の口から融合個体とは「人をかたどったエナに人間の子を孕ませることによって作られる」ということが明かされた。
[ユレに融合個体の作り方を述べる落合]
それを受け、ユレは落合に協力して良かったのかと疑問を持っており、同時にエナ星白に関する不気味なシーンも描かれている。これは、単なる説明というよりも、それが何らかの「問題」を孕んでいることを表している。
[融合個体の母体として使われるエナ星白]
それは、まとめるなら「落合に関する問題(E)」であると言えるだろう。人類の未来を考える際、小林や落合らの「ガウナを滅ぼす事が人類の生存に不可欠」という考え方は一定の理解ができる。しかし、落合が本当に「人類の生存のために」行動しているかは怪しい。
その点において、小林と落合は分離すると言って良いだろう。元々、小林と落合には何らかの因縁があり、手を携える仲ではない。それが100年前、あるいはそれ以前の出来事と関係することは明らかであり、現時点では見えないもう一つの流れになっている。
ガウナとの対話は可能なのか、小林や落合にはどういう因縁、思惑があるのか。そのあたりに注目すると、ストーリーの層はかなり厚い。第3話は、大シュガフ船やガ550といった目の前の脅威を描きつつ、まだ目に見えない問題や可能性をバランスよく含んでいる。
■補足
①焔について
第3話の中で焔に関するストーリーは完全に伏線になっている。ただ、それがどう展開するかは全くの謎である。そもそも、すっかり忘れていたが、焔は星白が戦死した連結型ガウナ討伐戦(第1期第6、7話)で、重症を負って入院していた。
焔(703) - 長道、閑、海苔夫と共に昇格。連結型ガウナ討伐戦で重症を負う。
煉(706) - 連結型ガウナ討伐戦後に昇格。紅天蛾戦、超大型ガウナ殲滅戦に出撃。生還。
烽(705) - 連結型ガウナ討伐戦後に昇格。紅天蛾戦にて戦死。
炉(707) - 連結型ガウナ討伐戦後に昇格。超大型ガウナ殲滅戦に出撃。生還。
燿(708) - 連結型ガウナ討伐戦後に昇格。超大型ガウナ殲滅戦に出撃。生還。
(第12話の記事より)
その原因は、長道が海苔夫に騙され尾部切断の際、起爆タイミングを誤ってしまったからだ。焔が長道をぶっとばしたことを謝れなかったのは、そのわだかまりが残っているからだろう。
[煉につれられ長道に謝りにきた焔。だが、謝れず去ってしまう]
終盤のガ550の出現シーンを見てみると、焔はすでに出撃リストに含まれている。(復帰後の訓練のためだったと思われる。)このことから、ガ550との戦闘中、長道とコンタクトがある可能性は高いだろう。ただし、わだかまりの解決を描くためだけに焔が出てきたと考えるには、仕掛けが大きすぎる感じもするので、何か他の狙いがあるのかもしれない。
ちなみに、焔と煉の見分け方は、気性が荒くビシバシ声なのが焔、女性的で優しい声なのが煉である。長道を吹っ飛ばしているのはいつも焔。
[光合成をしようとしていた焔(左)と煉(右)。仕草にも性格が現れている]
②大シュガフ船について
大シュガフ船の存在が認知されていたのは、第1期第1話から。不死の船員会や小林らはかなり前から大シュガフ船との戦いを重要事項と考えていた事になる。また、第1期第11話でも、小林がさりげなく長道に説明するシーンがある。(一般船員に知らされていたかは不明。)
[初期から認知されていた大シュガフ船(第1期第1話)]
なぜ、存在が発見されていたのかは不明だったが、今回のレム恒星系の図をみると、大シュガフ船の巨大さが理由かもしれない。その巨大さゆえに遠距離からでも捕捉できたということだろうか。
大シュガフ船との戦いが前提だったとすると、小林が融合個体の開発許可を出したのにも納得がいく。また、保身しか考えていない不死の船員会も大シュガフ船との戦いには邪魔だっただろう。
③レム恒星系について
植民者たちがレム恒星系を目指したのは第10話。惑星セブンは入植に適した星であるらしい。また、シドニアが目指す惑星ナインは土星のようなリングを持っている。第9話で、小林はオロシの儀を通じて落合の補助脳から「惑星地球化技術」を引き出していた。小林は、それをエサにして非武装主義者たちを惑星セブンに向かわせたということか。
[レム恒星系の概図(第10話)]
④融合個体の製造方法について
今回、つむぎがエナ星白から産まれたことが判明した。融合個体の製造方法については、基本的には伏せられていたが、第1期第10話で纈が見せた「シドニア不思議物語」に唯一のヒントがあった(詳しくは、第10話の記事参照)。
[噂話を集めたシドニア不思議物語(第1期第10話)]
落合が言っていた「巷で語れている科学者落合の物語のような……」は、この「シドニア不思議物語」(にまとめられるような噂話)を指していると思われる。
この「シドニア不思議物語」によれば、100年前にもエナ星白のような人型のエナは捕獲されており、落合は解剖を通じて「人型のエナには子宮に似た組織がある」ことを発見したという。
つまり、落合の言う「人型のエナに人間の子を孕ませた」というのは、比喩ではなく本当にエナ星白に人間の子供を産ませたということらしい。第1話でエナ星白を見て言った「申し分ない」というセリフもここにつながる。受精については、有能な科学者落合が不確実な方法を選ぶとは思えないので、人工授精のような形だろう。
[エナ星白から伸びた塊]
エナ星白から伸びた謎の塊が、子宮に似た組織が拡張されたものなのか、新しい融合個体なのかはよく分からない。また、つむぎがどんな形で産まれてきたのかや、なぜ操縦席のようなスペースがあるのか、インターフェース(キュッキュちゃん)が自然とできるのかなど、細かい疑問は尽きない。
⑤エナ星白はどうなるのか?
ストーリー上、エナ星白がどうなるのかはよく分からない。星白の生まれ変わりのようなものである限り、いつか平和に暮らせる日が来る気もするが、まだ先は見えない。
■おまけ、今週の長道
寝てた→空腹→おにぎりという旧人類的発想。この馬鹿っぽい表情が何とも言えない。
[光合成→きっと喜ぶぞ~!→……]
[その結果がこれだよ!!(知ってた)]
[そして相変わらずかわいいキュッキュちゃん。真面目話は聞いてなかった可能性(笑)]
■残された謎
①落合とつむぎはどうやって通信しているのか?
②落合の研究室にいた小さな騎士は何か?
③落合はなぜ100年前、極端な行動に出たのか?
④ガウナとはどういう生物なのか?
⑤カビとは何か?
⑥市ヶ谷総一郎とは誰か?
⑦閑の体には秘密が?
⑧閑が衛人操縦士を目指した理由とは?
⑨有機転換炉には秘密が?
■ストーリー詳細
(不死の船員会)
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E(回想)小林の指示で、落合(クローン)が船員会を皆殺しにする。
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P 小林はシドニアの針路をレム恒星系に向ける。
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(ホール)
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P 小林が一般船員に大シュガフ船の存在と、その討伐に関する計画を説明する。
P 針路はレム恒星系の第九惑星ナインへ。
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(寮の食堂)
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P 纈がヒ山に小林が独断指揮を執っていることを話す。
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(道端)
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P 融合個体反対のデモが行われている。
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(東亜重工)
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P 小林、海苔夫らが東亜重工を訪れ、岐神開発と技術提携した新素材を視察する。
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(研究塔)
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P ユレが融合個体についてのデータを確認している。
P(回想)ユレは海苔夫から、融合個体は人の形をしたエナに人間の子を孕ませて作ったという話を聞く。
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(岐神開発)
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P エナ星白から大きなエナの塊が伸びている。
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(シドニア近宙域)
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P 長道、イザナ、海苔夫、つむぎが大シュガフ船について話す。
E 海苔夫はガウナは敵性生物であり対話はやり過ごす事は不可能だと言う。
G それに対し長道は、ガウナと対話できる可能性はあると言う。
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LL つむぎがイザナに猫の画像を見せてもらい喜ぶ。
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P 連結型ガウナの戦闘で意識不明になっていた焔が意識を回復したとの連絡が入る。|
(病院)
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P 煉が焔をケアしている。意識が回復した焔は光合成がしたいという。
LF お見舞いにきた長道が、光合成していた焔と煉の部屋に入り、また焔にぶっ飛ばされる。
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(高所)
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P 長道の所に煉が焔をつれてやってくる。しかし、焔は逃げてしまう。
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(寮、纈の部屋)
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P 纈が融合個体について調べ、融合個体の母体がエナ星白である事を知る。
P そのレポートの閲覧履歴に長道の名前もある。
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(岐神開発)
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P 長道とイザナがつむぎを訪ねると、そこに纈がいる。
L 験担ぎに4人で掌位を組む。
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(宇宙空間)
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E 合同掌位訓練の準備中、植民船の残骸にとりついたガウナ・ガ550が出現する。
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G 先行していたつむぎが出撃する。
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E つむぎが展開したガウナに取り囲まれ、通信が途絶える。
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G 長道らが出撃し、96機掌位で後を追う。
|
(つづく)
→次回
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コメント

インターフェースは公式では小(こ)つむぎと呼ばれていて、原作者曰くあのデザインは「女子高生がストラップにして欲しい」からだそうです。
掌位のシーンですが、纈は元々操縦士になりたかった経緯もあるように感じました。

今年はノイタミナムービーや細田監督作品など、アニメ映画が数多く公開されますが、以前こちら以外のブログでやっていたような劇場アニメのストーリー解析をやる予定はございますか?
個人的に風立ちぬや言の葉の庭などの記事が非常に勉強になったので、是非ともやっていただきたいなと思ってます。

海苔夫,我日你全家。