大井昌和’sスタジオひまわりch ブログ

漫画家の備忘録・面白さの約束=期待を裏切らない、予想を裏切る

2015/02/24 21:16 投稿

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  • 大井昌和
  • 批評
漫画家の備忘録・面白さの約束=期待を裏切らない、予想を裏切る
こんにちは、大井昌和です。
ようやく某企画会議用のネームも終わり、通常営業に戻ったもののブロマガの記事がなかなか書けない期間が続いて申し訳ありません。
前に書こうと思っていたネタの一つに、黒瀬陽平の運営の思想を引いてきてガンダムビルドファイターズ、夜のヤッターマンを語ろうとか思っていましたが、俺の中のsirobakoブームのおかげでまあいいか、という気になったので概要だけ書いておくと、
・運営の思想で作られるアニメが、過去のコンテンツを文脈に使うことで、傑作を産もうとする制作者たち。逆に個人作家が使えないインダストリアルを使うことで運営の思想と制作の思想を結びつける作品群が夜のヤッターマンやビルドファイターズではないか?
というものでしたが、とりあえずshirobakoが完結したら、それのテキストを書こうかと思っております。
そこで今日は何を書くのかといえば、「漫画家の備忘録」と題して漫画を描く上で頭に入れておくことを小出しにしていこうかと。
なぜ小出しかといえば、一気に書くと本1冊分くらいになって大変なことになるからです^^;
というわけで今回は「面白さの約束=期待を裏切らない、予想を裏切る」
さて漫画家の備忘録とはなにかといえば、大体の漫画家は知っていることを言語化していこうというものです。
「これからの漫画の書き方の話をしよう」とか言ってましたがなんか違うな〜とか思ってました。なぜなら作家はみんな知ってるだろう、これくらい、というのがあって書いてて申し訳なくなってくるからで。
そこで備忘録と言ってしまえば、みんな知ってても何人か忘れてるかもね?ね?とか思い自分的に落ち着けたので、こんなタイトルにしてみました。
・面白さの約束
例えばトリコという漫画がある。これは読み切りの掲載時ですでにマックスの面白さを持っていた。連載を開始してもあの連載の面白さを持ってはじめられた。
だがしかし今のトリコにそれがあるだろうか?
トリコという作品において大きな岐路になったのはクッキングフェスティバルだ。ここで作者の島袋は予想を裏切ることに意識を行かせた。
それはトリコたちの所属するIGOとライバルである美食會の全面戦争という読者の予想を、第三勢力であるNEOの起こす混乱の中の衝突というひねりを加えた。
読者の予想を裏切るためだけに出てきネオという存在。これはつまりそれだけの意義しか持たせられなかったもので読者の予想の裏をかいたのだ。
作家というのは受け手を驚かせたい存在ゆえに、島袋の考えも理解できないではない。
だがしかし、作品の面白さのひとつに「読者の期待」というものがある。「こうなるだろう」「この二人の戦いが始まる」これは予想であると同時に期待なのだ。
例えば、SFを期待して開いた本に宇宙船もサイボーグも超能力も未来も書いてなかったらどうなるか?
対してかつてのジャンプ黄金世代であるゆでたまごや車田正美は読者の期待通りの展開で面白さを保証をし、そこに予想を裏切る敵が現れる展開のさせ方は、ガチンコ対決をしっかりさせた後、より強いものが登場するという、言って見れば今の時代ベタともいわれる形を強固にした。それでも読者が熱狂したのは何かといえば、キャラクターだ。
我々はキャラクターを見ている。
トリコも強烈なキャラクターを配置し、ライバルも強いキャラクターがいた。
そのキャラクターのぶつかり合いや、見たこともない食事を食べるキャラクターを見るのがトリコという作品だった。
そういうものを読者は「予想」していたが、その予想の方にはまらない展開を作家はしようとした。その予想が、期待という言葉に置き換わることを知らなかったわけではないと思う。
ではなぜ島袋がそのようなことをしたのか?
それが僕がいつもいう、漫画を語る言葉の不足だ。
「読者の期待は裏切らずに読者の予想を裏切る」
 

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