こんにちは、大井昌和です
最近Kindle版で発行された「一年生になっちゃたら」(全9巻)がなぜか調子がいい感じっぽいので、デビューから「一年生に〜」までモチーフにしてきた高橋留美子先生について語りたいと思います!
自分はデビュー前から高橋留美子先生の漫画史においていかに重要か、というのが
あまり批評界隈や世代的にも理解が足りないと思っておりました。
僕らの世代はジャンプ世代、それ以前の世代は押井守の「うる星」、そして2000年代のギャルゲーインスパイアもののハーレムラブコメ、という感じで、「高橋留美子」という存在の偉大さへの軽視、または当然そこにあるものとして、忘れがちなものとして感謝の念を忘れているというものです。(水や空気がそこにあるのを当然として無駄にしてしまうかのように)
それに疑問を持った自分は、とにかく高橋留美子リスペクトで行こう、と漫画を書き始めました。ジャンプ作家が全員鳥山明リスペクトのように。
ですので、デビュー作の「ひまわり幼稚園物語」では、坂の上に幼稚園を立て、浪人生を主人公にして、ラブコメを作りました。
「風香」では普通の人々を描くショートを
「一年生〜」ではジェンダーの交換性を描きました。
もし自分が幅の広い作家だと思われているのならば、それは高橋留美子の幅の広さなのです。
自分の考えでは、いや間違いなく高橋留美子という存在は、手塚治虫の次に来る重要な作家です。
なぜなら、現状漫画業界で、「萌え」「日常系」「sfラブコメ」「学園ラブコメ」などのものは全て高橋留美子に辿られるからです。
ストーリー漫画を作ったのが手塚だとすると、ラブコメ漫画を作ったのが高橋留美子であると。
まず「萌え」というのは、少女をデータベース的キャラの記号の文脈を理解することになりますが、これを高橋留美子は、日本の民俗的意識のデータベースで行うことにより、「うる星やつら」のキャラクターをつくります。ここで登場した、ラム、というキャラクターが、虎皮パンツ、角、だっちゃ、などが日本のキャラクター記号のはじまりになり、あらゆるところで引用され始め、その引用がまた新しいものを生み、さらに引用されて行き、広大なデータベースができた時に「萌え」と命名されたのです。
ちなみに「萌え」とは昭和ロボットアニメの「燃える」から来ている命名で、いわゆるお約束の文脈を理解することを、「燃える」という言葉で表現していました。
そこから、女性キャラクターの記号を理解することが「燃える」=「萌える」になったのです。
「日常系」というのは、「めぞん一刻」や「うる星やつら」で見られる、キャラクターのお茶をするシーンにはじまります。主人公格である男性キャラクターをシーンから排除し、女性キャラクター同士のおしゃべり、弁天やお雪やラムの、響子さんと一ノ瀬のそれは、劇的な事件もなく、ただただキャラクターたちの日常性を垣間見ることによる快感をはじめて開陳したものでした。そのお茶会が、「けいおん」において「放課後ティータイム」というところまで引き継がれ、「よつばと」などはそれらの日常の羅列で物語を生むところまで完成します。
「sfラブコメ」「学園ラブコメ」などはそのフレームが80年代〜90年代のスタンダードを作り、いまではラノベのような文章媒体にまで波及しています。
そして90年代後半の高橋留美子は「犬夜叉」をはじめます。
ここで自分は、初めて高橋留美子の作品を途中で挫折し、妻にそれを伝えたところ、「わたしは「犬夜叉」が一番最高に萌える」という言葉に納得がいったのは、以前のおたくま新聞さんのインタビューで答えたところです。
つまり「犬夜叉」は、少女漫画的な世界設定や、多様なメロドラマの配置など、女性的なエンターテイメントをデータベースとして採用した唯一の作品であるといえます。もしかしたら、高橋留美子自身の作家性にもっとも近づいたと言える作品といえるかもしれません。
それゆえ支持層をより女性に広げ、高橋留美子の最大の長編になり、欧州にも支持層を広げた最大のヒットになったのです。
この少年向け、女性向け両方で名作を残す万能性も、手塚治虫に並び語られるべき作家であるといえます。
このように、高橋留美子という一点がもしかけていたら、日本のキャラクター産業はここまで隆盛をきわめていたか、と問えばその答えに窮するところは自明であると思われます。ところがこれらのフレームや、キャラクターデータベースに賜与する人間でさえそのデータベースを生み出した存在を知らないでいないでしょうか?
ジャンルを産むのは偉大です。
鳥山が生んだのはバトルスタジアム漫画を生み、
梶原が生んだのはスポーツ劇画を生み、
藤子が生んだのはいそうろう漫画を生み。
しかしながら手塚治虫と、高橋留美子ほどジャンルやキャラクターを産んだ作家がいたでしょうか?
敵を知れば100戦危うからず。
歴史を知れば創作危うからずです。
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