見せかけだけのエゴイスト 本田圭佑
「僕は俊さんにないものがあると思う」
「ボールを持ったら、とりあえずオレを見ておけ」
「状況に応じてチームのためにエゴを消さないといけないが、理想は90分エゴをだすこと」
これらは、ビックマウスとマスコミが報道する本田圭佑の言葉だ。言葉やイメージが先行し、仲間とのトラブルや監督との確執など様々なありもしない憶測を報道されることがつねである。確かに、ビックマウスだ。
ガンバ大阪ジュニアユースからユースチームに昇格できずに進学した星稜高校時代には、スペイン・リーガ・エスパニョーラの名門レアル・マドリードで10番をつけてプレイすることを明言していた。ガンバジュニアユースからユースチームに昇格できなかったにもかかわらずである。
ガンバジュニアユース時代はレギュラーに定着することはなかった。小学校時代に所属していた摂津FCでは王様のようにふるまえた程の本田だったが、ジュニアユースでは生年月日が全く同じ、家長昭博には遠く及ばなかった。当時、ジュニアユースの監督をしていた島田貴裕氏はこう語っている。
「スピードと持久力がなかった。体力がなくて走れなかった。この年代は持久力などが伸びる時期なんですが、素走りでバテていたからね。遅かった。当たりは強いんだけど、体つきもひょろっとしていてね。他の選手と比べて、そのあたりの最低の能力が足りなかったので、どうしても使うチャンスがなかった。技術や判断力は、家長に負けんものを持っていたんですが」
人一倍練習熱心であった本田がなぜ、基礎体力で劣っていたのだろうか。その理由の原因のひとつについて、本田をガンバ大阪ジュニアユースへと送りだした当時、摂津4中の田中章博氏は説明している。
「自分で自分がコントロールできなくなるんですよ。骨格系の発育は急激にしたけど、筋肉、心肺機能などの発達は間に合っていないから感覚的に遅れてバランスを崩す。瞬発力も失う。それが1年ほど続いたんやなかったかな」
中学時代の本田は体が急成長したため、骨格、筋肉、心肺機能のバランスを崩してしまったのだ。ジュニアユースの練習の前に中学で練習してから向かい、居残り練習に励み、自宅からモノレールを利用せずに40分もかけ自転車で通うなど努力を重ねたが自身の体の成長には勝てなかった。
そこには、常人とは違う一流アスリートの血縁関係が浮かび上がる。本田の祖父、本田満氏の2つ違いの弟に本田大三郎氏がいる。カヌーの元東京オリンピック代表選手だ。学生時代はハンドボールをプレイしていたが、オリンピック競技には採用されなかったためカヌーに転向したのだ。転向3年でみごとにオリンピックに出場している。
その息子が本田多聞だ。アマチュアレスリングで国内243連勝、国内、アジアで16年間無敗だ。オリンピックにも3度、出場しロサンゼルスオリンピックでは5位に入賞している。フリースタイル100キロ級、130キロ級で活躍した。100キロ級を主戦場にしていたが、それには理由がある。レスリング、フリースタイルの100キロ級こそが世界で最も層が厚くレベルの高い階級であり「日本人の体格では無理」と言われていたクラスだからである。
ちなみにロサンゼルスオリンピック出場の際の体力測定、スポーツ科学センターの記録をみると、背筋力360キログラムだったそうだ。
本田家の血統について本田大三郎は言う。
「本田家の男はみな首の骨が太い。ハンマー投げの室伏選手のようです。圭佑や多聞を見るとよくわかります。彼らを後ろから見ると、首が太くて頭と首の差がない。あれが、本田の骨だと私はよく言います。本田の母方ゆずりの血統です」
この様に、本田の身体は、日本人離れした血統を受け継いでいるのだ。外国人にも負けないフィジカルの要因がここにあるのだ。だからこそ、中学時代の身体の成長は一般人とは比べ物にならず、ハードな練習では補いきれなかった。
スピードと持久力がなくユースチームにあがれなかった本田だが、ワールドカップ南アフリカ大会では4試合で45.48キロメートルとトップの遠藤保仁に次ぐ記録を出している。また、パラグアイ戦では瞬間29.43KM/Hの両チーム最速を叩きだすなど、スピード、持久力でもトップレベルにまで登りつめている。
本田家の血統以外に、本田大三郎の教えを受けたことも、本田を語る上では欠かせない。本田が小3の時に「おじちゃん、多聞兄ちゃんみたいになるのはどうしたらええの」と大三郎に質問した。
「おっちゃんが言うことをやっていければサッカー界のチャンピオンになれる。日本のトップクラスにやらせていることを、これから圭佑に伝えるからな」
大三郎は本田にノートを持ってこさせ、まずは横線を何本か引いた。一番上の欄には、前日の就寝時間、起床時間、そして脈拍数。体重は一日3回計る。朝、運動前、運動後の3回。
また、朝、昼、夜の食事メニューを書きだし、炭水化物、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラル、繊維質の6大栄養素をどれだけ摂取することができたかを5点満点でつけさせた。排便についても、回数、大きさ、色、硬さなどにまで点検するように命じた。練習内容もできるだけ具体的に書くように指導した。
「気持ちの問題を書いてもいいが、人の涙を誘うものは練習日誌じゃない。文学はいらない。人間の体を科学するんだ。科学的な考え方を書いていきなさい」
このノートが3冊続けばいい選手になれる、10冊も続けば日本代表クラスになれると予言したノートは星稜高校の卒業時には30冊になり、マイナーチェンジを行いながら現在進行形で続いているとのことだ。そして、高校時代のノートには「世界一まで、後○○日」と書いてあったそうだ。世界一になるために、科学的に分析しビックマウスになりエゴイストになったのだ。
何が何でも自分が点をとり試合を決めるようなスタイルになったのは、2008年、21歳の時にオランダ2部リーグに落ちてからだ。Jリーグではコンスタントに出場していた3年間で通算13得点しか決めていないが、オランダ2部リーグでは1年間で16点決めている。もともとは点をとるのではなく、パスでチームを勝利に導いていくスタイルだったのだ。
しかし、所属チームであるフェンロが2部チームに降格することが転機となった。チームの主力の選手たちが次々に1部のチームに移籍する中で、本田にはオファーがこなかったのだ。技術的に彼らに劣っているものはなかったが、誰もが納得するような数値で表せる結果を残せなかったため評価してもらえなかった。
同時期に北京オリンピックでも3戦全敗し、得点力の重要性を身をもって感じていた。
「何が必要か明確になった。結局浮き彫りになったのは得点力。それ以外ではそんなに差を感じていなかったのに1勝、1引き分けすらできなかった。最後でバベルやマカーイみたいな仕事をするやつがいない。得点を取るための何かが欠けていると感じた」
北京オリンピック後、本田は個人の得点力アップがヨーロッパで活躍するために必要不可欠な要素だと認識し、プレースタイルの改革に取り組み始めた。試合中にできるだけ多くのシュートを打つことから始め、1試合で10本以上のシュートを放ったこともあったが、エクセシオ―ル戦でシーズン初ゴールを決めるまでに実に7試合もかかった。
その後覚醒し16ゴール、13アシストを記録し優勝、1部リーグ昇格に導いた。世界一になる目標のために、本田は得点力を身に付けたのだ。ビックマウスが数字という結果を獲得するために、エゴイストに変身したのだ。代表戦でも、結果を残しレギュラーの座を獲得するために、中村俊輔が君臨していたフリーキッカーの座を奪おうとしたのは有名な話だ。
エゴイストとはうぬぼれの強い自己中心の人と言う意味だが、言動はエゴイストと言われるかもしれないが、実際の本田は違っている。本田が大阪から石川の星稜高校に移り、1年の終わりから卒業まで朝晩の食事をして過ごした「味処 仕出し弁当 新潟」のおかみはこう言っている。
「あの子は、みかんが好きでね。みかんが、どんと出されると自分の分を取らずにまず1個ずつを配る。全員に行き渡ったのを確認すると、ようやく自分の分をとる。それでも余っていたら、もう一度、1個ずつ配って自分の分は最後にポケットにいれた。そうやって、みんなを引っ張っていく子だったね」
当時、摂津市立第4中学校のサッカー顧問の田中章博氏はこうも言っている。
「北京オリンピック前の春のことなんですけど、圭佑は摂津市役所の挨拶が終わった後、学校に寄ってくれました。ちょうどグランドに摂津FCがきていたんです。こどもたちが集まっているのに気づくと、圭佑は、先生スパイクありませんかと言って綿のズボンをたくし上げ、シャツもあり合わせのものを着て、グランドに駈け出したんです。それから1時間半、一瞬も休まんとボールを蹴っていました。(中略)圭佑はすごい毒舌を吐きますけど、裏っかわでは支えてくれる人をとても大事にするという面もある。マスコミ向いてしゃべっている彼と、地域で支えてくれる人に対する彼とのギャップもおもしろいですね。摂津市の広報担当の方も、先生、本田君って思っていたイメージとまったく違っていました。あの子すごい礼儀正しい子ですねって、驚いてましたから」
また、本田は現役選手にもかかわらず、こども向けのサッカースクールも監修し積極的に活動している。スクールの責任者でもある榎森良太氏はこう語る。
「これは、外からは見えづらい部分だと思うのですが、スクールはいわゆる本田の名前貸しじゃないんです。(ロシアにいる)本田とほぼ毎日電話していますけど、8、9割はスクールのことを話しています。本田監修とは謳っているものの、全ての練習メニューのコンセプトやメソッドも本田が現場の責任者と直に連絡をとって議論して決めてるんです」
料金も本田の考えで、入会費、年会費は取っておらず、リーズナブルな月謝だけとなっているが、収益を確保しないといけない立場の榎森氏と本田の間で何度も話合いが持たれたと言う。
「(雑費なんて言って)親御さんに明確に説明できないお金はもらうな、と。みんな入会金、年会費って本当は何にかかっているか知らないでしょ、って。収益が大事なことは知っているけど、俺が小さいころは、貧乏とまでは言わないけど、高額なスクールに行きたいとは、気を使って言えなかった。そういった子は一人でも減らしたいと」
この様に、本田は自分だけのことではなく自分の関わる人間までも、より良くなってもらうために、意識し行動しているのだ。高校時代やオランダ、フェンロでもキャプテンを務めていたように、関わる人間、チーム全体にとって何ができるかを考え、行動するのだ。世界一という目標のためには、まわりの人々の協力が必要なことも知っているからこそ、自らまわりに気を使い、貢献しようとするのだろう。
世界一という目標を達成するには、得点という数値、結果が必要だった。だからこそ、点を獲るスタイルに変化し、エゴイストになったのだ。
星稜高校の河崎監督は、本田の本当の顔を知っている。高校時代は「パスをしたら終わり」という選手だった。北京オリンピックでは、そういう負の部分の本田が出た。本田の凄みは自分で自分の弱さを知っていることだ。
もっとエゴイストにならなければいけない。けれど、自分には実のところエゴイストの資格がない。その資格の有無を本田自身が深く知っているからこそ、自分に言い聞かせるような激しい表現方法になっていると河崎監督は見ている。
「人の気持ちがわかっていてこそ人を立てることができる。彼は本当のエゴイストではないんだよね。そして、それでは、この世界では生きていけないことがわかっているんだろうな。自分に言い聞かせるためのビックマウスだよ」
そして、エゴイストに変身した本田は結果を出し続ける。南アフリカワールドカップ予選では、レギュラーに定着できなかったが、本戦ではスタメンの座を獲得した。大会直前に、それまで経験のないセンターフォワードのポジション、事実上のゼロトップに急きょ配され、攻撃の中心として全4試合にフル出場した。決勝トーナメント進出のかかったデンマーク戦では、17分にゴールおよそ35メートルの位置からみごとフリーキックを決め、決勝トーナメントへの扉をこじ開けた。
そのエゴイストの一撃は、決勝リーグ進出だけではなく、偉大なもう一人のフリーキックの名手に潔い引退の決意をも引きだした。まさに、当日32歳になったばかりのチームメイトに。
本田は偉大な先輩に未練なく代表を引退できるように誕生日プレゼントを贈ったのだ。世界一になるためにエゴイストになった本田は、かかわる人たちに様々なギフトを与え続けている。これでは、エゴイスト失格だ。
でも、それはしょうがない、本田圭佑は正真正銘の見せかけだけのエゴイストなのだから。
サッカー日本代表が一つの会社だったら リストラすべきは本田?カズ?ヒデ?
目次
序章 メンバー落ち
見せかけだけのエゴイスト 本田圭祐
もうビックマウスは叩けない ユニクロ
裸の王様からキングへ 三浦和良
小売の王様 セブン―イレブン
度を超えた成り上がり 中田英寿
すべてはマックのために マクドナルド
ホンダを超えた長友佑都
ビリからトップへ スズキ
ただのイケメン 内田篤人
心もイケメン 京セラ
史上初!選手兼監督で優勝 遠藤保仁
逆境からVへ 無印良品
終章 リスタート
ラストパス
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サッカー日本代表はドラッカーが優勝させる
今後の予定作
・こんなサッカー日本代表はいやだ編
・サッカー日本代表を優勝させる方法 アニメ編
・サッカー日本代表が一つの会社だったら パロディ編
・サッカー日本代表が一つの会社だったら リストラすべきは本田・カズ・ヒデ ビジネス編
・サッカー日本代表をつくった言葉
・本田・長友・内田・ヒデ編
・見せかけだけのエゴイスト 本田圭佑
・裸の王様からキングへ 三浦知良
・度を超えた成り上がり 中田英寿
・ただのイケメン 内田篤人
・ホンダを超えた長友佑都
・史上初!選手兼監督で優勝 遠藤保人
その他時事ネタ
著者プロフィール
1976年神戸市生まれ 明治大学農学部卒業後、2009年にチャンスメディア株式会社設立。
代表取締役社長に就任。
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