時にはシラス.の話を

稚魚、 #ミリオンライブSSR合同 の感想を書く

2019/04/20 21:46 投稿

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 桜も散りはじめ毛虫の季節もいよいよか、という今日このごろ。いろいろとプライベートも落ち着きましたので溜まっていたタスクを消化する毎日です。
 で、その一環で長いこと積んでいた同人誌を少しずつ消化しているのですが、つい先日、またひとつSS同人誌を読み終わりました。

 昨年末の冬コミで頒布され完売という素晴らしい結果を残したSS合同誌。

 そう。

 ミリオンライブSSR合同である。

 「面白いSSしか載せてません」というウリ文句、サイコーですよね。

 実は企画告知アカウントができたくらいの頃からウォッチしておりましてnoteの参加レポや主催エントリも読ませていただきました。村上春樹のミリオンSS見たかったなオイ。
 私は年末は実家で過ごしますのでビッグサイトへは行けませんでしたが、電子版が販売されるということで迷わず購入させていただきました。


 で、遅ればせながら先日読了しました。


 ええやんけ!!


 かなり面白かったです! 六作家六作品がそれぞれ一万文字以上の力作を寄稿しており、標準サイズの合同誌ながら内容の密度は想像以上に濃かったです。
 無料で公開されている作家様の初稿集+解説も読み終わりまして、溢れ出る熱意にあてられて思わず感想を書きたくなりましたのでこの度は筆を執ることとなりました。


 真剣に書きますよ、ええ。


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●杏奈のはなしを聞いて
作者:和歌山狭山

○あらすじ
眠たい目をこすりながら望月杏奈がベッドから出ると、家の様子がいつもと違う……
そう、ゲームのお供だったクッションがない。
寄りかかる場所をなくして、なんだか収まりの悪いまま事務所に向かう杏奈。
果たしてほんとに足りないものは何?

○感想
 いわゆる「ライナスの毛布」についての話。
 読み始めはアイマスSSによくあるドタバタ騒ぎにでもなるのかと思ってましたが、杏奈にとってその"毛布"がどれぐらいの重要度か、というところの設定がとても絶妙。話を魅力あるものにしています。あって当たり前、しかし無ければ無いで困らない……けど物足りない。絶妙に何も起こらないまま始まるこのSSは第一話に相応しいと思いました。

 また、杏奈のけだるげな心理描写もさることながら、福田のり子の生活感がたまりませんね! セルフレジでお金を借りるシーンが特にお気に入りです。この本を冬コミで買われた方はこの後のシーンで思わず鍋をつつきたくなったのではないでしょうか。

○この一行が好き!
「目の前で家族のだんらんを見せつけられて、気さくな会話を聞かされて、その家の匂いがまとわりつく。温かくて甘い匂いに気分が悪くなる。」
※人の家の匂いって、なんというか、馴れ馴れしいですよね……。


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●神の証明
作者:並兵凡太

○あらすじ
空白の家で生まれ空白のまま育てられ、自己すら持たない"私"を導いたのは、
年端も行かぬ黒衣の娘――天空橋朋花。
しかし"私"の信仰とは裏腹に、下劣な民に犯されて、主が地へと堕ちていく。
"Domine Quo Vadis ?" 答えはすでに示されていた。
人が神と出会う時。相応しき空は、晴れか、曇か、それとも嵐か?

○感想
 とある悲惨な事情から天空橋朋花を崇拝することとなった"私"が主人公です。
 タイトルからも分かる通りかなり宗教色が強い作品。"私"の一人称視点で話が進んでいくんですが、この"私"の独白のスピード感がとにかく素晴らしい! 下品な話ですが、まるで射精直前のような高揚感を保ったまま終わりまで突き抜けていく文章の勢いに興奮すら覚えました。

 余談ですが、こちらの作品は今回の掲載作品の中で最も初稿から変更された作品だそうで。初稿の方も読みましたが、確かにまるまるプロットから作り変えられており素人目から見ても物語の没入感がグイッと増していました。作品批評会の重要性はこの作品だけを見ても感じられると思います。

 ただ、本当に朋花Pの感情を揺さぶりたいのなら、もっと"私"の造形を彼らの、ひいては我々のものに近づけたほうがよりエグいものになったのかなぁとは思いました。
 明日は我が身です。くわばらくわばら。

○この一行が好き!
「神が収まるにはあまりにも小さい器だと思った。彼女の偶像としての働きは私に感銘を受けさせるほどでそれを評価しこそすれ、しかしどこか残念な気持ちは拭えなかった。我が神にこの器は矮小だったということだ。」
※一段落まるまる好きです。衒学的な文章は良いですね。


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●今、歩き出す君へ
作者:wizard5121

○あらすじ
最上静香は舞台の袖から望月杏奈を見ていた。
ステージの上の彼女はまるで普段とは別人のように輝いて見える。
十四歳の静香は不安を抱えながら新しいステップへ進もうとしていた。
来週からは杏奈とのペアレッスンが始まる。
最上静香に残された時間は、あとどれほどだろうか。

○感想
 アイドルらしくステージとその裏の奮闘を描いています。直前の話が話なのでギャップにだいぶ癒やされました。

 話の大枠は「ステージに向かうアイドルの葛藤」というアイマスのSSではよく見る主題ですが、さすが批評会を経ているだけあって、文体がしっかりとしてとても読みやすい。そのおかげか最上静香を生意気なアイドルとして描くという典型的な扱いも古臭さを感じにくくなっています。
 また、キャラクターの動作の描写が多く読んでいて場面が賑やかなのが印象的でした。プロデューサーが椅子でくるくる回ったり、杏奈がコタツで丸くなったり……。頭の中に動きが浮かぶからこそ心理の揺れ動きが映える、のかもしれません。

○この一行が好き!
「ステージに立つ時は……アイドルの杏奈じゃないと駄目、だから……」
※杏奈が導き役であり導かれ役である、という構成が良いです。


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●ぷっぷかぷりんは昼歩く
作者:鶏口

○あらすじ
麗花ちゃんは変だ。けれど今日はいつもよりずっと変だ。
どうやら今日は「ルカク」を探しに行きたいみたい。
いつもカワイイ茜ちゃんは、いつも麗花ちゃんに振り回されてばかり。
麗花ちゃんを追いかけて、狭い東京を西へ東へ、不思議な旅のはじまりはじまり……。

○感想
 六話の中で唯一のハッキリとしたコメディです。

 作者本人の作品解説にもある通り、こちらに訴えかけるようなメッセージはほぼなく、ひたすら「北上麗花と野々原茜」の行動を書き続ける形。興味のままの飛び回りコロコロ場面転換していく文章はまるで北上麗花のコミュを見ているようです。765レーサーグランプリの北上麗花がこんな感じだった気がする。

 それでも、最終的に爽やかな終わり方を迎えるのは、なんだかCメロで泣かせてくるギャグ曲みたいですね。他の話が全体的に濃い味付けですので、その中にこういった作品があるのは安心できます。ちょくちょく腕がもげそうになる茜ちゃんに悲哀を感じざるを得ません。
 深いことを考えずに読める、そういうSSもあってしかるべきですね。

○この一行が好き!
「以上、ルカクちゃんのショータイムでしたー! 皆様大きな拍手をー!」

※完全に予想外の展開でしたので、風呂で読みながら笑ってしまいました。


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●特別じゃない夏の一日
作者:だぶれ

○あらすじ
「初めてのお付き合いの話を聞かせてほしい」
星梨花の突然の相談に、馬場このみは苦笑する。
友人の莉緒と酒を飲みながら、彼女は過去を思い出していた。
このみの初めてのお付き合いは中学三年の夏だった。
少し背伸びをしすぎた中学生の、どうということはない、よくある話。
窓の外では、もう蝉が鳴き始めていた。

○感想
 「ほろ苦い失敗談」を中心に据えた話です。以前感想を書かせていただいたSSゴウドウボンといい、馬場このみは苦い過去を背負わせたら天下一品ですね。しかし今回のこのみの回想は、失敗談と呼ぶにはなかなかハード。それをスルスルと話していくこのみに綱渡りのようなスリルを感じていました。
 しかしそこはそこ、作者が着地点をうまく設定しているおかげで読後感は思いの外あっさりとしていて、それが逆に中盤のドロドロとのギャップで異様な空気を作り出しています。解説を読む限り作者の方はそこまで設計されていたようで。まんまと掌の上で踊らされてしまいました。

 私が特に好きなのは小料理店の描写。イカソーメンやノドグロといった酒の肴をかなり上手に心理描写に絡めています。きっとお酒が好きな方なのだろうと楽しんで読んでいました。

○この一行が好き!
「ちょっと熱くなってきたかも。でも次に飲むの、地元のお酒でしょ」

このみは煮え切らない顔になった。
「ふーん、山口の時なのね。初彼氏」
※会話ですので三行で。この大人の掛け合いは私からは絶対に出せません。お見事です。


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●Re/Princess
作者:たう

○あらすじ
徳川家の長女として生まれたまつり。
その従兄弟である主人公は、まつりとのお見合いのため実家に呼ばれた。
名家の血のしがらみから自由を手にするため奮闘する二人。
「お姫様は、最後にかならず幸せにならなければならない」
果たして彼は、プリンセスを魔女の呪いから救うことができるのか?

○感想
 合同誌の最後を飾るのは主催のたう様の作品。
 私はアイマスSSにおけるオリジナルキャラが結構好きなんですが、今作のオリジナルキャラ、姫を閉じ込める魔女役であるまつりの義理の母・徳川兎群(とむら)の造形が特に好みです。ケラケラと笑いながら主人公たちをあざ笑う姿は清々しいくらいの魔女。ケラケラ笑ってほしいなぁと思ったら本当にケラケラ笑ってました。

 ストーリーもコッテコテで下手するとただの茶番劇にしか映らなくなってしまいそうですが、それでも全体として読みやすく整っているのは、作者が「登場人物を与えられたロール通りに動かす童話のような読後感」というコンセプトに素直に従った賜物ではないでしょうか。

○この一行が好き!
「寂しそうに言い放つ姿は、残念ながら魔女というより、ただの母親のようだった。」

※哀愁のあるオリキャラはいいですね〜!


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★合同誌としての感想

 良かったですよ! この内容で千円は安い。

 主催ならびに参加者が意図したものかはわかりませんが、それぞれの話の根底には「幸福」というテーマがあります。
 登場人物たちは、ある時はチルチルとミチルのように身近な幸せを探したかと思えば、またある時は人生が変わってしまうほどの幸福のために魂を投げ売っています。そのような各々の幸福論をまとめた合同誌の最終話が「めでたしめでたし」で締めくくられるのはとても美しい。やはり主人公は(あらゆる意味で)救われるべきですね。

 また、本編を読んでいる段階から作家の皆様がSSというメディアに対して自分なりの「哲学」を持っていることがヒシヒシと伝わってきました。私は本編を読んだ後に初稿集+解説を読みもう一度本編を読み返したわけですが、それぞれの思惑がどのように文章に残りどのように削られたのか、その痕跡が見て取れるのはとてもワクワクします。
 「SSを作る」ということに真正面からタックルできる作家が集まりそれぞれが腕を振るった結果、ここに強烈な熱量を持つアンソロジーが生まれました。このような事件がミリオンライブという界隈で起きたことは他に誇って良い出来事でしょう。


 しかしそれ故に、文章以外の点をあまり褒められないのがとても惜しいです。

 まず、読み終わった後の一番の感想は「これ本にする必要あったんか……?」でした。
 確かにそれぞれの掲載作品は素晴らしいものでしたが、これらの作品を一つの合同誌に集める必要性はあまり読み取れません。なんだかポータルサイトで閲覧数順ソートかけたあとの検索結果を上から順に読んでいる感覚です。おそらく書籍の頭から尻尾までを通してのテーマ、一貫性が明文化されていないからだと思います。

 またデザイン面についても疑問が残ります。デザイン担当の方を責めるつもりはございませんが、始めて表紙を見た時はどっかの高校の文化祭ポスターみたいだなと思いました。高校の文化祭では面白いSSは読めませんよね。だから初めて表紙を見た段階では「本当に面白いんか、この本」と思っていました。

 これは予想ですが、おそらく主催と参加者が話し合った時間の大半は「掲載作品の質を上げる」ことに費やされ、肝心の「『SSR合同』という同人誌をどういう本にしたいか」という討論はほとんど行われていなかったんじゃないでしょうか。
 その結果、魅力あるコンセプトの合同誌にも関わらず、いわゆるアンソロジーとしては並の完成度となっています。普通は同人誌に対してここまでは求めないのですが、企画告知noteで大きく出られてしまうとそれなりのレベルを期待してしまいます。

 主催は作品解説の中でこの合同誌を「荒野に送るモールス信号」と例えています。つまり、挿絵や表紙の美麗さ、参加者の知名度ではなく話の面白さだけを求める読者に向けて作られた本だ、と。
 しかしその選民思想はnoteに書かれた『SS本はどうして読まれないんだ』という疑問の打破」と真っ向から矛盾します。残念ながら多くのアイマスユーザーはモールス信号を受信する器官を持ち合わせていません。そのような方々に受け取れる波長に変換するために美しい表紙や豪華執筆陣(笑)が存在するのです。

 「内容の品質を保証する」という発想は同人誌のコンセプトとして個人的に超好きですが、その一方で「同人誌のコンセプト、装丁、表紙デザイン、イベント前までのサンプル等の出し方は内容以上に同人誌の売上を左右する」という現実を無視することはできません。SSの添削にかけたのと同じくらいその現実に向き合い続けることが、界隈の現状を打破する一つのアンサーとなるのではないでしょうか。

 面白いSSしか載っていない合同誌は、それに相応しい姿を与え世に打ち出すべきです。今回寄稿された作家様六人はいかなる表紙イラストよりも魅力あるSS作品を書かれた六人です。きちんと読ませることができれば「表紙詐欺」などと言う人はいないでしょう。

 喜ばしいことに、第二弾の制作が既に始まっているそうです。もちろん買わせていただきますので、ぜひとも電子版を頒布していただきたい所存でございます。

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 長々と綴ってきましたが、そろそろお開きということで。
 最後は今合同誌において最も心に強く残った、並兵凡太様の作品『神の証明』のファンアートで締めくくらせていただきます。
 お読みいただきありがとうございました。




シラス.





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