十八歳で上京したとき、東京の情報はほとんどなかった。『東京だョおっ母さん』という歌謡曲で橋が二十本かかった川があることを知った程度だった。
 店で「これなんぼでえ」と聞いても理解されず、「はよとらげんとめげてしまうが(早く片づけないと壊れてしまう)」と言えば不審そうな顔をされ、そのたびにバカにされてたまるかという意地が芽生えた。
 それから六年ほどたち、友人のアパートに遊びに行ったときも、その気持ちは変わらなかった。
 アパートは六本木にある。 
週刊文春デジタル