夜ふけのなわとび 第1847回 林真理子「七十歳でわかったこと」

　七十歳になったら、してはいけないことがいくつかある、ということに気づいた今日この頃である。

　まずはものを食べながら、新聞や雑誌を読んではいけないということ。

　午前中の長い会議が終わり、自分の席で昼食をとるのは、何よりもホッとする時間。秘書課の女性がお弁当を運んできてくれる。このお弁当は、役員フロアの希望者の分を、まとめて買ってきてくれるものだ。

　飽きないようにと、幕の内だけではなく、カツ丼、茶巾鮨、カレーと毎日工夫してくれているのは本当にありがたい。

　その日は私の好きな金兵衛のお弁当。新聞を拡げながら、タラの粕漬けを口に運ぶ。すると小片がぽろっとブラウスの胸元に落ちた。