「ハヤシさん、古希のお祝い、どうするんですか」
 最近いろいろな人に聞かれるようになった。そのたびに少々いらついて答える私。
「何もしないよ。そんなことお祝いしてもらってどうするのよ」
 いちばんショックを受けているのは私である。
 何度か知り合いの古希のお祝いに出た。そのたびに皆さん挨拶でこう言う。
「古希は、古来まれなり、ということで、昔はここまで生きるのは本当に珍しかった。そして私もついにこの年齢になりました」
 つまり、本当に年寄りになった、ということ。
 還暦の時はまだよかった。百人ぐらい集まって盛大な会を開いてくれた。真っ赤なドルチェ&ガッバーナのジャケットをもらった。
「私ってまだまだイケるじゃん」
 と内心思っていた。事実、まわりの六十代を見てもみんな若く、老いを感じさせなかった。恋愛をしている人もいっぱいいた。もちろん仕事だってバリバリしている。 
週刊文春デジタル