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ツチヤの口車 第1332回 土屋賢二「父の職業」

2024/03/07 05:00 投稿

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  • コラム
  • 土屋賢二
 子どものころ、ほとんど何も分かっていなかった。いまと同じである。
 大人は確固とした世界観、倫理観をもち、明確な原理に基づいて行動していると子ども心に思っていた。そうでなければ、わたしにはどうでもいいように思えること(たとえば弟と将棋をするなど)に父がなぜ激怒したのか、説明できない。初めて訪れた外国で自分の知らないゲームをしているのを見て怒ることができるだろうか。世の中の仕組みや善悪の基準がはっきり分かっていなければ、怒る理由がない。天才棋士への道を断たれたわたしは大人には善悪の明確な基準があるに違いないと思っていた。
 だが大人になって分かったが、何事についても確固たる基準や原則はなく、気まぐれで怒り、行き当たりばったりで暮らしている人ばかりだった。わたしもめでたくその一人になった。 

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