湿原工房あるいは失言工房

短編「金星 平和の神」

2016/04/17 20:57 投稿

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(これはホルストの組曲『惑星』を聴きながらイメージで作った話。書いた時期は高校2年~3年のころかと思う。美術教師に見せて感想を乞うた記憶がある。)

 あるところに、のどかな村がありました。そこに平和の神がやってきました。彼女が歩けば、花々が足元から咲いてきます。
 村では小さな子供たちが、戯れあっています。
 平和の神はさらに村の奥へと進んでいきます。するととても背の高い塔がありました。入口があり、神は中へと足を踏み入れました。壁に沿って設けられた螺旋階段を上っていると、一定の間隔にぽつり、ぽつりと外光の射しこむ窓があります。窓は四角に半円をかぶせた形をしていました。覗いてみると村の景色が一望できました。いえ、村だけではありません。村の外の美しい自然の姿まで見えるのでした。それはこの暗い塔の中にあって、光る絵画のようで、とても美しいものでした。
 神はまだ上ります。緩やかに、やさしく。
 そしてとうとう、塔の頂上へと到達しました。神は塔の頭に顔を出したのです。
 その瞬間、彼女の目の中にものすごい勢いで光という光が飛び込んできました。そこのでは村の隅から隅まで、そしてその向こうまで、360度見渡す限りの美しい風景が一望できるのでした。今まで見てきた光の絵画の、最後の一枚。彼女はこの絵画に心打たれました。
 彼女はその絵画の隅々に視線を投げました。そこには、さっきの子供たちの姿も見てとれます。ああ――この絵画は本当の出来事なのだと、彼女はこの世界に住まわしてもらっていることに、心より感謝したのです。
 平和の神は塔を後にしました。
 蝶がひらひらと宙を踊っています。

 村を出て、しばらく行くと小さな森の真ん中ほどに、小さな泉にたどり着きました。彼女はそこに近寄ってみます。光に反射する泉が眩しいくらいに美しく輝いています。裸足になって泉に足を差し入れました。とても冷たく、心地よいものでした。
 すこし水を掬い上げてみると、水はさらさらと、美しく砂のように粒となって手の隙間からこぼれ落ちていきます。手に掬った水が少しずつ減って、ついに最後の一滴が滴り落ちました。

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