「震災前は大丈夫だったんですが、震災後は体調崩して、お酒を飲むとますます体調が悪くなったんです」
こう話すのは宮城県仙台市国分町のキャバクラで働くリカさん(35)だ。リカさんとの出会いは2011年3月21日。つまり、東日本大震災の10日後だ。私は、東北随一の繁華街である国分町が震災でどんな影響を受けたのか気になっていた。
また、震災における避難所取材では、昼間がメインだということもあり、若い世代の話を聞くことが出来ないでいた。そのため、話が聞きたいと思っていた。若い世代の話を聞くにはやはり夜の街ではないかと思い、国分町に出かけた。 すると、若者たちが集まっていた。店がオープンしていないところも多かったが、この時期はラーメン屋や居酒屋を中心に開いていた。そんな中で、徐々にキャバクラも開き始めていたのだ。
そのとき、何人かのキャバクラ嬢と出会った。その中でも私はリカさんのことが忘れられないでいた。リカさんは南三陸町戸倉の出身だった。震災当日、仙台市内にいたリカさんは家族の無事を願った。家は浸水したが、家族は無事だったという。しかし、家族の他、友人たちはどうだったのかと気になって聞いて見ると、「友達がいないんです」との答えだった。いったい、どういうことなのか。
メールアドレスを聞いていた私は、その理由が聞きたいと思い、再び、リカさんに会うために、国分町に向かった。ただ、出会った店ではなく、別の店で働いていた。
メールアドレスを聞いていた私は、その理由が聞きたいと思い、再び、リカさんに会うために、国分町に向かった。ただ、出会った店ではなく、別の店で働いていた。
ー 震災前は何を飲んでいたの?
震災前はシャンパンとビールです。苦いのは飲めないんで。ビールとか飲めないんでシャンパンとか。「すずね」ってお酒わかりますか?「一の蔵」のスパークリングです。
ー いつ頃からお酒を飲んでいるの?
正直に言うと、お酒を飲むのは23歳の頃からなんです。このころからは田舎のスナックで働いていたんです。車で通っていたので、そんなにお酒は呑んでいないですね。よく呑むようになったのは7年前、28歳のときに仙台に来てから。
ー 仙台に来るまでは何をしていたの?
地元の南三陸町で水産加工の工場で働いていたんです。めかぶや牡蠣のパック詰めとかしていましたね。
ー どうして辞めちゃったの?
23歳のときに、仲のよかった女の子とたまたま飲み会で、隣の隣町で、ちょっとした繁華街があるんですよ。(登米市)佐沼なんですが。宮城県では国分町の次に飲み屋さんが多いと言われているところなんです。そこのスナックに友達が飲みに行ったんです。そのときに、「君、働かない?」と友達が言われたんです。でも、その友達は昼の仕事しかやりたくないという子だったんです。「じゃあ、友達、誰か紹介して」って言われたというので、私に話が回って来たんですよ。「やらない?」って言われて、ちょうどそのとき、夜(の仕事を)やってみたいと思っていたんです。キャバクラのテレビとかのイメージですかね。あと、ちょうど失恋したばかりのときで、家に1人でいたくないという感じで、人がいっぱいいるところなら寂しくないかな?と思って。でも知らない世界だから。コネがないと怖いなとは思っていて。そのとき、友達が声をかけられた、っていうから、ちょうどいいかな?って思って。昼の仕事は給料9万しかもらえなかったんですよ。みっちり働いて、さらにサービス残業的な感じで働いても月9万とか。実家だったので、食費と光熱費がかからないからよかったんですけど。水産加工の仕事って、けっこう、きたいなというかハードというか。汚れるんです。そういうのも嫌だったんです。
ー 嫌なのに、どうして働いていたの?
もうしょうがなく。仕事がないわけじゃないんですけど、地元の仕事で。あと、ちょっとトラウマ的なものがあるんです。若い女の子と一緒に働くのが嫌だったんです。だから工場系ならおばさんしかいないじゃないですか。男の人かおばさんしかいないからいいかな?と思って。接客とかはなんか嫌だったんです。表ではなく、裏方の仕事がよくて。
ー トラウマって?
女の子にいじめられたんです。小学校高学年から中学校くらいまで。高校はほとんど行ってないんです。中学はちゃんと出ましたが、高校のときは精神的に病んでしまって。一年生のときは3分2は行っていたんですが、2、3年生のときはほとんど行ってないんです。なんか、先生が「特別な事情だから」といって、卒業させてくれたんですよ。精神的に病んでいる、という事情なんですけど。卒業までには(出席)日数が足りなかったんですけど。
ー どういういじめだったの?
どういういじめ、っていうか。クラスの男子に人気があって、みたいな。他校との交流会が6年生のときあったんです。キャンプをしたり、化石探しをするんですけど、ジュニアリーダーのお兄さん、お姉さんに連れられて。中学生だったのかな。そういうのに参加する行事みたなものがあったんです。みんなが行くというよりは、希望で参加するものだったかな。それに行っていたんです。なんか、他校の男子にちょっとモテちゃったみたいな感じで、全然知らない人なんですが、私のことを知っているんです。それで他校の女子が私のことを知っていて、「何、あいつ!?」みたいな感じになって、それが南三陸町の中心部の学校、志津川小学校、私は戸倉なので、田舎の学校。結局、私も街中にいかないと買い物ができないんで、志津川に行くと、噂されるみたいな。「あいつ、じゃね?」みたいな。なんか、私に好意を寄せていた男の子を好きな女の子がいたと思うんです。それが始まりだったんです。その男の子から手紙をもらったんです。ラブレターみたいな。でも、結局、無理だからフリました。なんか、男子としてあまり考えていなかったし、見た目もタイプじゃなかった。写真と手紙をもらったんですが、付き合うということに全く興味がなかった、というか。男子的なものにむしろ嫌悪感を抱いていたので。
ー このいじめが理由で、震災のときに連絡を取るべき友達がいなかったのですね。でも、どうして嫌悪感を?
なんでですかね。わからんないですね。なんかそういう.....。自分が男になりたかった、というのもあって、女でいることが嫌だったんですよね。
ー なりたい男はどんな?
そこまで考えていなかったんですが、イメージでいうと、キャプテン翼の岬くん(*1)。なんていうか、さわやか美少年みたいな。髪型とかもショートカットだったんです。でも、周りは女として見る訳じゃないですか。そういうのが余計に嫌だったんです。中1の頃になると、胸が出て来たんです。そもそも発育の早い子は小6くらいでおっぱいでかくなっている子がいて、そういうのは気持ち悪かったです。おっぱいというのが気持ち悪いと思い始めて。私の仲良くしていた子が巨乳だったんですが、なんか気持ち悪いなって思っちゃって。私は小6までペチャパイだったんですよ。だから、自分のことを女として意識したことはないんですよ。でも中1になって、急に発育してきて、そんな自分が嫌だなって思って。
ー 告白された男子はさわやか美少年じゃなかったからふったの?
いや。それとはまったく関係ない。タイプじゃないというのが前提だったんで。男子全体が嫌いだったというわけではなかったけど、その人はタイプじゃなかったし、周りにタイプの子がいなかった。
ー 好みの美少年ってどういう?
ラクルアンシェルのhydeとか。ほんとの美少年とか。
ー いまも?
いや、年を取ってから変わりました。いま、自分の好みは変わった。今はワイルド系が好きですね。ワイルド系というか、顔じゃなくて、色気のある人かな。大人の色気がある人。
ー 出会いました?
いやー。何人かで会いましたが、仙台にはあまりそういう人はいないので。ただ、何人か、そういう人はいましたけど。
ー いじめの要因は、リカさんを好きな男子を、他の女子が好きだった、ということだけじゃなく、その男子をふったことも大きかったのかな?
じゃないですかね。ふったことが伝わるじゃないですか。「何、あの女、●●くんをふって!」みたいな感じがあったぽいです。生意気という感じになったみたいです。
ー ふってもふらなくても、同じだったんじゃ?
多分(笑)女の子はよくわからない生き物だと思う。関係ない人に嫌われるわけじゃないですか。その子に何かしたわけではないのに、向こうは私のことを嫌ってる。なんで嫌われるかよくわからない。最初は、男の子のことが原因で分かっていなくて、「なんで私、言われてるんだろう?」と思ったんです。でも、成長してからですね、女の子には焼きもちがあるんだなってわかったのは。自分が相手に嫉妬するようなタイプじゃなかったんで、わからなかったんですね。
ー いつごろわかった?
もう、ほんとに水商売するようになってからじゃないですか。水商売するようになると、やっぱ、競うわけじゃないですか。女の子、人気を競うみたいな感じなので、自分よりきれいな人、人気のある人をねたんだりする気持ちがなんとなくわかるかな。って思うようになりましたね。
ー なんとなく?
私の場合って、私よりきれいな人、すごい人は認めちゃうんですよね。だから、ねたむという気持ちは自分にはあまりないんですけど、そうじゃない人もいるってことがわかりましたね。
ー 水商売をしていて、他の子をねたまないのはなんでだろう。
良い意味で鈍感。人は嘘をついたりとか、悪い人はいないと思っているタイプなんですよ。
ー ちゃんとしようと思ったら、計算しないといけないじゃないですか。
まったく計算しないです。私の場合、営業もほとんどしないし、好きな人に勝手にきてほしい、と思うタイプですかね。ただ、「この人は、どのくらいお金を使える人だな」というのは把握しているんで。お金を使える人のときは、「ちょっとシャンパン飲んでいい?」とか、「この人は、何万までは使わせられるな」とか、そういうのは思うけど、営業という意味で、来させようと言う計算はしていないです。あまりにも成績が悪い月には、「同伴お願い」っていうのはあるけど、なんか、けっこう恵まれているから、そこまでしなくても定期的にきてくれる人がいるんですよね。
ー 同伴はノルマじゃないの?
ノルマじゃないです。いまの店はないです、ノルマは。罰金(*2)もないし、遅刻罰金、当欠罰金すらないです。今の店は、オーナーがすごく寛容。その分、時給はむちゃくちゃ安いんです。大手の店とか早上がりの減給とかあるけど、今の店はそれはない。いたい時にいていい。出勤時間も20時に出たければ20時に出ればいいということになっている。ひどいところになると、0時近くにならないと出勤できないという店もあるんで。今の店は、自由なんですよ。そういうのがよくて入った感じですかね。でも、ある程度、みんな21時前には来るんで。20時には3人くらい。21時にはバーって、5、6人くらい。0時近くに出勤するのは1、2人くらいですね。
ーどの店もそうじゃないよね。
もともと大手にいたんですけど、そのときはねたむというよりは、ねたまれていた方ですかね。私って、人気あったほうなんで。そのときはやっぱ、ヘルプについた子に指名がとられるってこともあるんです。勝手に名刺を渡していたり、携帯番号を教えていたり。そのときは許せないというのはありました。「今度、指名するから、番号教えてよ、ってお客さんが言ったんです」そういう子はたまにいるんですよね。そういう常識を分かっていない子というか。その客が次に店に来たときは、私の指名じゃなく、その子の指名になっている。それは許せないな、って思いますね。基本的に私、女の子にむかつくというよりは、お客さんにむかつく方なので。「なんなの?私を指名じゃなければ、もう店来ないで」って思っちゃう。そのときは文句いいます。「よく来れたね」って。もしくは、(お客さんが)私に言ってくれればいいのに。「次からあの子指名するから、指名を外すね」って。
ー それは言いにくいでしょ?
言うのが礼儀じゃないって思っちゃうんですよ(笑)
ー それは言えないよね。
まあ、たしかに。でも、今となれば、去る者は追わず。だから、勝手にどうぞ、みたな。
ー 同じ店で指名替えはないな。指名を継続しないで、前回はAさん、今回はBさん、次回はCさん、っていうのはしたことがあるけど。
さばけた女の子はいいけど、嫉妬深い女の子もいるんで。
ー いつも指名が違うってことを女の子に言われたことないけど。
知っていても穏便に済ませているとか。うちの店にもいるんですよ、毎回、指名が違うというお客さんが。やっぱり、それを面白くないという女の子は「あの人に付きたくない」と影で言っていますね。「私、前回、あの人に指名されていたのに、もう指名されない」って。私もその人とメアド交換はしていて、何回か、メールしたりしてるんですよね。でも指名されたことはまだないです。その人は、みんなとアドレス交換して、みんなと連絡を取り合っている。みんなとメール交換をしているのに、指名する子としない子がいる。私なんかは、メール交換をしていて、指名されない段階でもうアウト。あ、この人はないな。って。だから後から連絡をよこされても分からないパターンが多いんです。私、切るの早いんで。指名がないとメールアドレスも消しちゃいますね。一回、フリーで付いて、メアド交換して、メール交換をして、次にきた時に、またフリーだったり、他の子を指名だったら、用はないって感じ。そのへんはなんか。いくら頑張ってもダメな人はダメっていうのが日常なんで。他の子よりも見切りは早いですね。ただ基本的に、気に入ってくれる人は、一回着いただけで気に入ってくれるから、2回3回着いて指名をもらおうとは思わないですね。一回着いてアドレス交換もしたのに、指名されないと、もう用はない。
「この前着いたけど、ダメだったからもう着きたくない」って店の人に言う。店側も「そっか、そっか」って。一回アドレス交換したのに指名しないとなると、他の子が目当てかも、って思うじゃないですか。「今度、店に行くよ」ってメールで言われていると、「指名なのかな?」って思うじゃないですか。でも、フリーで入ってくるという人はいるんで。その場合は、あえて着かない。指名しないと着かないんだよ、って形にしないとダメみたいな。お客さんによっては指名制度がわかっていない人もいるんで。スナックとかなら、連絡を取っていれば、自動的に指名ってなるじゃないですか。言わなくても。キャバクラだと、入り口でちゃんと●●ちゃん指名、って言わないといけない。スナックでは連絡を取っている子が「今から私のお客さんくるんで」って言えば指名になる。担当制みたいになっている。
(つづく)
*1 岬くん・・・岬太郎。高橋陽一の漫画「キャプテン翼」の登場人物。愛称は、フィールドのアーティスト。ボジションはMFで、南葛SC時代は、大空翼とはゴールデンコンビと呼ばれていた。画家である父親・一郎と全国各地を転々としていたために転校が多い。
*2 罰金・・・キャバクラの罰金は店によって様々。よくあるのは遅刻や当日欠勤、無断欠勤を理由にするもの。また、売上げ(ノルマ)が少ない場合もある。ボーイがキャバ嬢に手を出すと罰金になったり、お客さんがお金を支払えないと、キャバクラ嬢に罰金が科せられるときがある。就業規則に定めがない場合は違法であり、定められていても、一ヶ月10%以上の減給は違法。
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