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『たこの居る風景』カパミクさんの不思議な日常 第1話

2020/10/24 22:14 投稿

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 朝もや立ち込める城下に、目覚ましのベルが鳴る。ベッドから半身を起こすと室内は肌寒かった。
 この地はほぼ一年中、快適に過ごせる気温が保たれているんだが、それでもゆるやかな四季の変化はある。夏は日中汗ばむ陽気になるし、冬は昼間こそ薄着ですごせる気温まで上がるが、朝と夜はそこそこ冷え込む。おまけに、本来の季節を忘れないようにとのご配慮? で、気まぐれに猛暑になったり、吹雪いてホワイトアウトを起こすことさえある。
 そろそろ朝晩は暖炉に火を入れる必要があるかねえ……と、寝ぼけ眼で目をこすっていると、ふにゃあと気が抜けたようなかわいい声がした。
 一緒のふとんで寝ていたクリーチャーだ。猫くらいのぷにぷに体格に、形こそヒト型みたいだが、ネコミミとしっぽを持っている。ぷるんと揺れる緑のツインテにつぶらな瞳が愛らしい。
 クリーチャーはペットと異なり、ちゃんとした知性を持っていて意思疎通が可能だ。超能力がある個体も珍しくない。
「ふわああ、カパミクちゃん、そろそろ朝?」
 ベッドに座り込んで眠そうに大口を開けてあくびする仕草もかわいい。つい抱きしめたくなる衝動にかられるこの個体だが、ねこミクという。
 かつてはこの子を飼っていて、今はあたしの使役を務めている。
「ああ、もう6時だよ。あんたも支度しな」
「うん! すぐにコーヒー淹れるね!」
 ねこミクは元気いっぱいベッドから飛び降りた。そして、体が溶けたかと思うと次の瞬間、薄めの青っぽいツインテを持つ美少女が出現していた。
「とびっきり美味しいの淹れるから、待っててね」
 ねこミク(美少女)は手に出現したエプロンをささっとしめて、キッチンに向かう。
 あたしはベッドをかるく整える。掛け布団は薄手の毛布のようだが魔法がかかっていて、これ一枚だけで夏は涼しく冬は温かい。ベッドは寝台と呼んだ方がふさわしい天蓋つきの、お姫様が眠っていてもおかしくない代物だ。どう見たってあたしには似つかわしくない高級品だが、もらってしまったのと寝心地は最高なんでそのまま使っている。
 豆をミルでごりごり砕く音がする中、あたしはシャワールームへ向かう。木の扉を開けるとなかなか趣のあるトイレと洗面台、奥にシャワーがコンパクトに詰まっている。
 ――♪~世界で一番おひめさま~♪――
 歌を口ずさみながら湯を浴びて体を完全に目覚めさせ、身支度をすませる。
 特に、髪のお手入れは欠かせない。寝乱れた髪をツインテに縛って髪飾りをつける。いくらがさつなあたしでも、髪は命だ。化粧は多少おろそかでもかまわないが、これだけはきっちり結わえておかなければ。
 シャワールームから出ると、部屋中に香ばしい芳香が漂っていた。ねこミクが満面の笑顔で、カップをふたつ持ってくる。
「はい、熱いから気をつけてね。ミルクと砂糖も入れておいたよ」
 普段飲むコーヒーはブラックだが、おめざの時は甘めのミルクコーヒーと決めている。
 畳を置いた居間のちゃぶ台に、おなじみのチェーン店であるたこルカフェ謹製マグカップがおかれる。あたしは座布団に座ってそれを受け取り、コーヒーのぬくもりにほっとしながらすすった。ちゃんとあたし好みの味づけだった。
 正面には美少女化したねこミクが座って、にこにこしながら両手でカップを持っている。エプロンの胸にはマグカップと同じ、たこルカが躍動するロゴマーク。
「カパミクちゃん、おいしい?」
 首をかしげる仕草がたまらない。この辺のかわいらしい所作はヒト型に化けても、もとのクリーチャーの気質を引きずっているようだ。
「ああ、今日もうまいな。飲んだらすぐに出かけるよ、あんたの仕事が終わるのは何時くらい?」
「5時までだけど、れんたこちゃんにお願いすれば時間の融通は利くよ」
「じゃあ、その頃に迎えに行く」
「今日は午後から商店街の方のたこルカフェにヘルプに行くんだ。こっちに来てね」
「商店街、な。分かった」
 コーヒーを飲み干し、カップを回収したねこミクが手早くキッチンへ持って行って洗っている間に、上着をはおってカバンに荷物をまとめて背負う。
「ねこミク、そろそろ行くよ」
「うん、あたしはいつでも大丈夫だよ!」
 水音が止まったかと思うと、ねこミクが小走りになってやってきた。
「本当に大丈夫かい? 無理してない?」
「平気、へいき。片づけも終わったし、早く朝ごはん食べに行きたいでしょ?」
 部屋の戸締りをして外へ出る。我が家は2階なので内廊下を歩いて階段を降りる。玄関から出るとそこに広がるのは――。
 古めかしい石造りのレンガの家が並び、通りを闊歩するヤギのようなひづめを持つ女、飲み物や軽食の屋台の準備に忙しい、背中に鳥のような翼や蝙蝠みたいな羽を生やした男女たち。
見上げれば周囲に高い城壁が張りめぐらされ、中心部には絵本の中のおとぎ話に出てくるようなお城がそびえ立つ。


 まがりなりにもシャバで暮らしていた10年前には想像もしていなかった絶景だった。
 あたしが住んでいるところは人里離れた深い森の奥にある、エルフの里というファンタジー世界のような石とレンガに囲まれた、中世から近代ごちゃまぜの建築様式の欧州風城壁都市だが、明らかに異なるのは住民だ。
 あたしとねこミクが石畳の道を歩いている間にも、ヒト型ではあるものの、ケモノ耳やしっぽ、角を持つ者らと次々にすれ違う。
 あたしのように“余計なもの”がついていない個体の方が珍しいくらいだ。
 メカたこが荷物を牽引して運んでいる……のは、普通の人間の街でもそうだな。だけど、荷車はこちらの方がずっと時代錯誤のものを使っている。荷物も樽や木箱に壺、あるいは布袋などいつの時代だよ、とツッコミたくなる代物ばかり。
 里では自動車のような工業製品は走っていない。かといって、牛馬など家畜を使っているわけでもなく、その役割はメカたこ、もしくは竜族が担っている。ちなみに、竜は普段はヒト型で暮らしている。仕事の時だけ転化する、立派なここの住民たちだ。
 上下水道は通っているが、電気とガスはまだまだ。よって、電化製品も一部例外を除いて普及していない。
 かくいう我が家も、石造りの壁に鋳造シャンデリアがきらめいていて、家具も下げ渡しのアンティークなやつが置かれてあたしが浮いてる状態だが、そこに無理やり通販で買った畳とちゃぶ台を置いて、居場所がある空間を作っている。もうちょっと寒くなったらこたつを出す予定だ。
 ああ、さっきねこミクが沸かしたコーヒーのお湯だが、キッチンのかまどを使わなくてもレバーを回せば熱湯が出てくる。地熱を利用しているとかで、我が家のシャワールームも同じ原理なんだとさ。魔法だか超能力で各家庭に給湯しているらしいが、伝統墨守のわりにそういうとこだけここは妙にハイテクだ。
 水道だけは完備なおかげで、本当の中世みたいに壺の中身を外へ投げ捨てがデフォルトのような惨劇が起こらないのはありがたいがね。
 そうそう、あたし自身の紹介を忘れてたな。
 あたしは初音ミク。正式にはカパエル式初音ミクってんだが、みんなからはカパミクと呼ばれてる。
 初音ミクは緑のツインテールを持つ、永遠に16歳のボーカロイド。確かにそのとおりなんだが、あたしは文字どおり半永久的にこのままだ。比喩でもなんでもなく、この容姿のままずっと年取らず寿命もなくなっちまった、そういうことらしい。
 体は人間のそれとまったく変わらないし実感もないんだが、言われてみれば、あたしはいつしか風邪ひかなくなったし、腹もこわさなくなった。すり傷や切り傷は仕事中にたまに作るけど、これも今後の修行次第で減らせるそうな。
 こんな体質になった者は人間のカテゴリーから外れた、いわば人外と呼ばれる。人間以外の、本性が犬でも猫でも竜や悪魔でも不老不死の連中は一緒くただ。もうちょっとましな言い方だと上位種族かな。
 エルフの里にはそういう者が大勢いる。というか、その条件を満たした者しか存在しない。あとは、住民が使役するクリーチャー、うちのねこミクはその権利で居住を認められている。それと、ごくわすかなレア様が許可した者のみ。里の外に営業所をかまえているメカたこルカたちが出入りしているのは、荷物の運搬に必要と判断されてのことだろうな。
 ああ、レア様ってのは、この里の女王様みたいな方だ。中心部にあるお城、レア様の館で暮らしていて、同時にここの結界主でもある。この手の人外の棲み家はたいてい招かざる客、ようするに害獣やただの人間が入ってこられないように結界なる見えない壁を張って、存在そのものを隠すことが多い。
 元人間として、何となくその理屈はわかる。いつまでも若くて元気な、超能力持ちの不老種族なんて側にいたら、嫉妬深いヤツらには目の上のたんこぶだろう。それこそ、悪魔とか魔女と呼ばれて森を焼かれたエルフなんてことになりかねないし、大昔はその手の抗争はいくらでもあったそうだ。
 レア様の外見は栗色の髪と深紅の瞳を持つ美少女だ。なんか、あたしにかかったらみんな美少女になっちまうが、見た目は上品なベルベットのドレスをお召しの、いかにも深窓のご令嬢なんだから仕方がない。でもって、あたしと同様に余計なものはついていない。
 そう言うとこのお方も元人間か? と思うがそういうわけでもないみたいだ。この地において外見と年齢は一致しないのが常。あたしだって、実年齢なら90を超えるババアだが、ここの住民たちは時間を超越したようなご長寿だらけで、千年単位ならかわいいもの、万とか億とか冗談だろ? って数字がポンポン飛び出てくるから油断ならない。恐竜も出現する前とか、どんな生活をしていたんだろうね、このひとたちは。
 レア様はその中でもとびっきりで、噂によればこの星が誕生したあたりから存在していたそうな。ドロドロの溶岩ばかりで生命のかけらもない時代に、人間なんているわけない。だいたい、遠目からみてもオーラが違いすぎる。女神様ってああいう方のことを指すのだろう、あたしもその端くれらしいけど。
 てくてく歩いていると、あたしには懐かしい建物が見えてきた。朱塗りの鳥居、参道の先には木造建築の本殿と建物がいくつか、石と焼き固めたレンガの街中では明らかに浮いている建造物の群れ。
 仕事に行く前には必ず立ち寄る神社で、あたしとねこミクが一礼をして踏み入れたその先には、ケモノ耳をつけた羽織袴の女の子ふたりが箒を持って参道を掃き清めていた。
「あ、カパミクさん、おはようございます」
「おはようございますなのじゃ、カパミクさんはまことに信心深いのう。母様もありがたいことじゃと喜んでおられるぞ。さあ、まずは参拝なされるがよい、その後でわらわたちの相手をしてたもれ」
 手をふりながら、ついでにしっぽもふりふりしている子供たちは、一目で本性が狐だと分かる。神社にキツネの取り合わせはまったく違和感ないが、後ろには見守り役とみられるタヌキの化身のオッサンも控えている。
 ともかく、すすめられるがままに手水舎で口をゆすいで身を清め、ねこミクもそれにならう。本殿で賽銭を入れてお決まりの二礼二拍手一礼。賽銭はエルフの里の通貨だ。里にはレア様の麗しい横顔をかたどった金貨、銀貨、銅貨があるが、その下の補助通貨、銅銭三枚を財布から出して投げ入れる。どこかの極東の地域のおカネで例えれば、60円くらいの価値かな。
 ひととおりの参拝を終えると、待ってましたとばかりに子狐たちが駆け寄ってきた。茶色の長髪としっぽを持つ少女と、白銀の九尾の少女が目をきらきらさせている。見た目はどちらも人間だと10から12歳くらい。まだまだ背中にランドセルが似合いそうな年ごろだ。
「梅花もプラータも、朝早くからご苦労だねえ」
「早起きは三文の徳なのじゃ。朝からお勤めをこなした方が朝餉もおいしく食べられるのじゃ」
 茶髪の梅花がにんまりと笑った。話によればこの子たち、毎朝5時起きで勉強したり掃除したりと、日々巫女修行に励んでいるらしい。人外ながら幼いのにすごいねえ……って、梅花はこう見えてもあたしより全然年上だっけ。御年5万年くらいだそうで……お嬢ちゃん、一体いつになったらオトナになるんだよ?
「そうそう、ヤコ母様とタヌコが作るご飯はとってもおいしいの! 今日の朝ごはんは裏手の湖で獲れたマスの切り身の酒かす漬けを焼いたのと、卵の千草巻きだって。お味噌汁と昨日の残り物の煮物に、きのこの佃煮。タヌコのぬか漬けもあるよ」
 千草巻きとは、青菜入りの出汁巻きだ……当然、ダシは社務所の台所でとった自前だろうし、相変わらずここの家は朝からいいもん食ってるなあ。うまそうな匂いもただよっているし、急に腹が減ってきたぞ。
「これこれ、於銀。我が家の粗食をあまりひけらかすでないぞよ」
「はあい、ヤコ母様」
 社務所から迫力ある大柄な女が苦笑しながらやってきて、九尾の子をたしなめる。
 この神社の巫女である妖狐、祟導ヤコ。150万年生きているという巫女装束をまとう化け狐。梅花とヤコさんは外見も口調もそっくりで、こちらは実の親子だが、白銀に輝く九尾の於銀ことプラータは養女だそうな。年齢もまだ10歳に満たなかったはず。里じゃあ数少ない、あたしの年下ってわけだ。子供と張り合うのもあれだが。
 とはいえ、ヤコさんはあたしから見てもどちらにも分け隔てなく愛情を降り注いでいるように見える。仕事柄しつけや作法には厳しそうだが、いい母ちゃんでよかったな。
「カパミクどのも朝から感心じゃのう、きっとそのうち良いことがあろうぞ」
「はあ、恐れ入ります」
 妖狐じきじきのお墨つきに、ひょっとして、ご利益あるのかな……と、恐縮していると、
「やあ、君たち。朝からご苦労だな」
 そこへさっそうと境内へ入ってきたのは、とがった長い耳の金髪の男、そして、ふわふわ漂っている一匹のたこルカだった。次女たこと呼ばれる種族だ。


「おお、これはオルティス様。よくぞお出ましくだされた」
 げっ、れむルカはともかく、いきなりオルティス様かよっ!
「おやあ、カパミクさんにねこミクちゃんもおいでですわあ」
「あー、れむルカちゃんだあ!」
「朝からお勤めご苦労様ですわあ」
「うん、ご飯食べに行く前に立ち寄ったんだ」
 ねこミクとれむルカは呑気にじゃれあっているが、あたしは気が気じゃなかった。
 オルティス様はレア様の館に隣接するエルフの館にお住まいの、エルフ族の長兄だ。里の統括のおひとりであり、現時点で四十数名ほどおいでだという弟妹たちを束ねる、レア様に次ぐこの里の実質的なナンバー2の立場だ。
 オルティス様が連れ立っているれむルカもレア様直々の使役だし、あたしごときの使役やってるねこミクとはやはり身分が違う。
 一応、レア様に準じる立場として、地水風火の化身と呼ばれる四神がおいでだが、この方々は普段、レア様の館の奥深くで静かに暮らしていて、俗世間にはあまり興味ないらしく、めったにあたしらの前には出てこない。実際にあたしがそのお姿を拝見したのは数えるほどだ。
 あたしも広義的にはエルフの里に住む人間出身のエルフ族なんで、彼ら兄弟姉妹は純正エルフと呼んで区別している。
 純正エルフは地水風火いずれかの属性を持っていて、このお方は地属性。でもって、地の能力持ちは例外なく強大な力があって、その中でもオルティス様はピカ一だそうな。
 そんな感じで、エルフの里には身分制度が存在する。レア様を頂点に四神とそれぞれにお仕えする官たちのレア様の館、純正エルフと従者や女官らで構成されるエルフの館、それ以外の城下と住民には区分がある。
 上位種族は有力者が統治する部族社会が主流で、人間たちの間で流行する民主主義を採用するところはほとんどないらしい。
 エルフの里もその例にもれず、それぞれの所属から何名か代表ともいえる統括を出して、彼らが里の政を行うが、最終的な決定権者はレア様だ。彼女が首を縦に振らなければ、他の者たちが賛成多数でも採択されない。
 ……とまあ、とにかく城下住まいの庶民のあたしにはオルティス様は雲の上の存在だが、あんまり偉そうなふりは見せないし、こうやってきさくに城下にやってきては、住民たちとふれあっている。何よりあたしたちに見せる表情はとても柔らかい。
 考えてみれば、純正エルフの方々はみんなそんな感じだな。皆から様づけで呼ばれているが腰が低くて、お立場をふりかざす者はあんまりいない。
「ちょうど、朝餉の支度ができたところじゃ。お口にあうか分からぬが、オルティス様もカパミクどのも、社務所に上がってくだされ」
「そうか、ならば世話になろうか」
「あ、あたしは……あたしは、今日はいいや。また今度誘ってくれ」
 ヤコさんの誘いを、あたしはとっさに断ってしまった。
 だって、こんなお偉方の前じゃ緊張しちまって、絶対にご飯の味がしないよ。
 それに、こんな早朝からオルティス様が神社にやってくるのは、何らかの用事なり打ち合わせがあるからだ。あたしが誘われる以上、さほどの秘匿事項はないにしろ、部外者が入り込むのも野暮ってものだろう。
「そうか、残念じゃのう」
「また今度来てね、カパミクさん」
 ヤコさんも子供たちも残念そうな顔をしたが、あたしだって残念だよ、せっかくの本格和食の朝飯、食いそこねちまったんだからさ!
 別にあたしは、オルティス様には気後れするけど嫌いってわけじゃない。そもそも、オルティス様はあたしの命の恩人だ。
 あたしが里に住んでいるのは、外の世界で重傷を負ってここに運び込まれたのがきっかけだ。その時、エルフの館で治療して、いろいろ世話してくれたのがオルティス様だった。
 かつての戦乱時代のなごりで、エルフの里では重症者はレア様の館かエルフの館が保護して療養させるのが習慣であり、料金も無料だ。
 エルフの里の医療は人間のやり方とはずいぶん違っていて、たとえば手術なんかは道具を使わずすべて念動でやるそうだ。物理的な応急手当や介護はともかく、見えない部分を止血して縫いあわせたり、内部で折れた骨をつなげたりするような外科的処置は、患者よりも能力的に上位者じゃないとできないらしく、一定以上の医療行為ができるのは、おのずと里でも実力ある者にかぎられる。
 意識が混濁しているあたしの前でずっとつき添い、目覚めた後も天蓋のカーテンと衝立ごしに何やら仕事をしながら控えていて、食事時になれば粥や汁物を匙で口元まで運んでくれて、さすがにあたしがひとりで歩けようになれば用事がある時以外は病室を空けるようになったが、体の具合が悪いと思えば夜中でもすぐに駆けつけてくる。
 他の者があたしの世話をしてくれることもあったが、七割方はオルティス様の手によるものだった。一緒にいたねこミクも傷ついていたので、別室で治療を受けて看護されていて、面会時は彼女を病室まで籠に乗せて連れてきてくれた。
 だから、あたしはしばらくの間、オルティス様のことを単なる医師だと思ってたんが、間違いではないがずっと偉いひとだと知ったのは、エルフの館の病室から出る三日前だった。これほど手厚く献身的に世話を焼いてくれたお方が、里の王子様ポジションの高位のご身分とは夢にも思わないよ。
 レア様が君の治療をしても良かったのだが、今はちょっと別の人間にかかりきりで手が離せなくてね、とは当時のオルティス様のお言葉だが、まかり間違えたらレア様があたしの病室で側にはべる事態になってたらしい。まったく、恐れ多すぎてうっかりケガもできやしないなあ。
 その後もオルティス様はあたしをいろいろ気にかけてくれているようだが、あたしはまだ身分制度が社会に根づいていた時代の人間なもので、レア様とオルティス様のご関係なんかを聞かされているうちに、すっかり怖気づいてしまってあれ以来距離を置いている。
 我ながら失礼だよなあって思うけど、あたしなんかがなれなれしくお近づきになっていい方じゃない。
 と、もやもやする気持ちを引きずりつつ、本来の飯を食いに行くべく、あたしはきょとんとするねこミクの手を引いてある建物へ入った。
 レンガと漆喰を組み合わせた小綺麗な食堂で、安宿兼任。ほら、冒険譚によくある、一階に食堂、階段を上がると宿泊施設ってやつだ。吹き抜けの天井からは無骨なでかいシャンデリアと、雰囲気は抜群だ。入り口には公設食堂と描かれた看板がぶら下がっている。
 朝から結構なにぎわいだがそれもそのはず、エルフの里には給食サービスがあって、何か所かもうけられている公設食堂で、住民なら誰でも三食無料だ。
 食料を買い込んで自宅で調理してもいいんだが、タダメシの魅力には勝てず面倒くささもあって、里での自炊率は一割以下だと聞いたことがある。台所にかまどがあっても、火を入れた形跡のない家が結構あるんだとさ。お湯を沸かす程度なら蛇口から出てくるからね。
 飯だけじゃない。家も衝立で区切られた天蓋付きベッドと机に椅子、衣装箱と家具つきの大部屋ならタダで住めるし、着るものは選ばなければ、鍾季様という先ほどのオルティス様の妹君のおひとりが、趣味で制作している服飾関連の品を年に数回タダで放出しているので、そこから調達できる。
 入り口で盆を受け取って、カフェテリア形式で料理を選ぶ。幸い、エルフの里の食事は普通の人間からみても、まっとうな食材とまともな調理がなされている。時代をさかのぼれば知らないが、竜の串焼きとかゴブリンの煮込みみたいなゲテモノ食材は出てこない。食えば美味いかもしれんがドラゴンは普通に里に住んでいるから、俺らを食うんじゃねえって怒られるだろうね。
 朝飯はほぼ決まっていて、大きめの薄切りパンに干し肉と一緒に煮込んだ豆をかけて、その上に目玉焼きを乗せたものと、同じく干し肉と具だくさんの野菜ときのこスープの、エルフ族に伝わる朝ごはんか、これまた伝統的な木いちごなどのベリー類の糖蜜漬けを粉と混ぜて鉄板で焼いたエルフ風パンケーキ、もしくはあっさりしたマグロ風味の麦粥だ。他にもつけあわせで追加のパンやチーズにハム、ヨーグルトに果物といったところが定番か。食欲がなければサイドメニューから適当にとって終わりにしてもいい。
 たこルカがいかにも喜びそうなマグロのお粥の方は、厳密にいうと海で獲れた魚のそれではなく、魔法の木になった実の中にぎっしり詰まったものを水や油で煮ると、ツナ缶そっくりの風味になるという、マグロ版カニカマのようなもどき食材だ。
 いわゆるマグロの木の原産地はとあるたこルカ村で、それが里にも伝わって、今では朝飯や病人食に活躍している。あたしがケガで療養している時に出てきたのもこれだった。朝はこいつをどんよりした顔で口に運ぶやつをよく見かけるが、体調不良というよりも単なる二日酔いだろう。ああ、こういうアホがいるから、粥が朝の定番メニューなんだな。
 あたしも今日は麦粥にした。それと野菜スープ。別に酒が残っているわけじゃないが、さっきの件ですっかり和食が恋しくなっちまったので、せめてそれに近いやつを選んだだけだ。ラッキーなことに本日はつけあわせで温泉卵があったから、それをとって粥に醤油をたらす。
 温玉や醤油といった、本来こちらのものではない食材が公設食堂で取り入れられているのは、あたしと同じエリアの出身の先達のおかげだ。和式な神社の建立といい、エルフの里も極東からの住民流入が近年増加しているそうで、伝統も多少は変化しているのだろう。だったら、多くは望まないから、たまには粥をお米で炊いてほしいんだけどなあ。
 一方のねこミクは、パンと煮豆、卵とスープの定番で決めるようだ。煮豆は塩抜きして戻した干し肉と香草で風味をつけたもので、今でも純正エルフたちが狩りに出かけて、野営の際の朝飯で作る料理らしい。日によってはトマトやカレー味、クリーム仕立てとアレンジが加えられる。
 デザートのヨーグルトに蜂蜜を加えて、日替わりのフレーバーウォーターはライムがふんだんに入り、それと今日2杯目のコーヒーをとって席につく。味はカフェ仕込みのねこミクが淹れた方が断然うまいんだが、食堂に水筒持参するわけにもいかないからな。
「うん、おいしいね、カパミクちゃん」
 ねこミクが幸せそうにもぐもぐとパンやスープを口に運んでいる。飼ってみて分かるが、クリーチャーって本当に純真だ。穢れのない人間がいたとしたら、それはおそらくヒト型に転化したクリーチャーだろうってくらい汚れていない。
 この子の笑顔を守るためなら、あたしは何だってやれそうだ。
 そうそう、食器だけどここでは木が主体だ。皿もカトラリーも木だし、コップも樽状のジョッキか、もしくは素焼きのゴブレット。ナイフや杯は銅や錫などの金属製もあるかな。レア様の館やエルフの館だと銀食器も使うようだし、中には水晶を削り出したグラスや水差しもある。
 逆に、里ではガラスはほとんど使われていない。製造技術がないのではなく、文化的にあまり出番がなかったらしい。建材でもそうだ。里の窓にはめ込まれた透明な板は、ガラスではなく水晶だ。そっちの方が絶対に貴重でお高いだろうと思うんだけど、人工水晶を生み出す技術が昔から確立されているそうで、コストもあまりかからないらしく、ガラスが代替品に取って代わる機会がなかったようだ。
 一応、ガラス製品も皆無ではないが、お好きな方が趣味で作る一点物の高級品だ。もちろんあたしの手になんて届かない。ただ、公設食堂で取り扱わないだけで外の世界から持ち込むことはできるから、うちの食器棚には廉価なガラスのコップや瓶が収まっている。
「あれ? 珍しいじゃん、白緑がこんな早い時間から起きだしてくるなんて」
 階段からあくびをしながら降りてきた男に、のんびり木の匙で粥をすすっていたあたしが声をかけた。
 古式ゆかしき、その名のとおりの白緑の狩衣姿、ヤギのようなひづめと白い大きなしっぽ、シカのような長い角には朝顔のつるが絡みついている。左腕こそ人間と同じだが、右腕は動かすのも大変そうなバカでかい義手が肩からぶら下がっている。


 雁音白緑という名前といい、服装からしてあたしがかつて住んでいた地域付近の土地神って感じで結構イケメンな公達だが、イメージ的に神様らしい威厳はあまりない。
 なにしろ、このお方は大層な資産持ちだそうで、それが尽きるまでは働かないで遊んで暮らす、と宣言している里でも有名なニート大明神だ。暇な住民たちには格好のネタ元で、珍しく白緑が働いているといじられる。
「徴用があるんですよ。今日から秋祭りの設営準備が始まるでしょう。外の連中も続々里帰りしてきますよ。ああ、せっかくわたし以外誰もいない空間を謳歌していたのに、やかましくなりますねえ」
 そう嘆いてから、白緑が眠そうな顔で料理カウンターの列へ並んだ。
 いつも昼前まで寝てるようなやつが珍しく早起きなのは、そういうことか。
 基本的に衣食住ただのエルフの里だが、完全なフリーライダーの存在は上も好ましくないとみているようだ。
 よって、白緑のように何らかの役務に従事していない者は、自立もおぼつかない子供や傷病者をのぞいて月に数回程度、人出が足りない作業への徴用に応じる義務がある。理由なき拒否やサボりが何度も続くと追放処分を下されるから、なまけ者たちもタダメシ獲得のためにおつとめに応じている。
 かくいうあたしも、傷がふさがって病室を出て、日常生活がひとりでこなせるようになると、しばらくはリハビリがてら、自主的に軽作業で小遣い稼ぎしてたっけ。まだ徴用が免除される状態だったんだけど、里の温泉や図書館で一日過ごすのもいい加減飽きてしまったので、仕事に志願していた。
 寿命がない上位種族の特徴のひとつとして、言葉の壁がないってのがある。あたしも昔から外人が喋っている言葉がなんとなく理解できるのが、不思議で仕方なかったんだが、あれはすでにこちらの住民に片足突っ込んでいたんだろうな。
 同じように書物も、どんな文字で書かれていようが普通に読める。だから、さまざまな出自の里の住民たちと意思疎通ができるし、いろんな種族の時代や文化が詰まったレア様の館付属図書館の本も中身の理解度はともかく、文字を拾って読むのは可能だ。
 ただし、書くとなると話は別で、あたしはここの公用語であるエルフ語は、自分の名前と基本的な単語程度がやっとだ。これでも生活するのにまったく不自由はないんだが、もうちょっと勉強した方がいいかなあ。
 徴用でも志願でも、仕事をすれば内容によって日当が支払われる。あたしはケガがまだ治りきっていなかったから短時間の作業で止められたが、それでも一日に銀貨二枚はもらえたな。どこかの通貨だと四千円程度か。
 白緑とはそこで知り合った。椅子に座ってクリスマスのきらびやかな飾りを作りながら、食事はただでも、酒や菓子などの嗜好品はお金を払わないかぎり、祭りのふるまい以外で手に入らないんですよと、あの義手で器用にひいらぎのリースを編んでいた白緑がぐちぐち言うのを、隣で苦笑しながら聞いていたっけ。
 ああ、それと白緑が言ってた里帰りだが、エルフの里の人口はだいたい五百名ほど。実はその数倍くらい、籍を残して外で暮らしている者らがいる。
 里での生活はまっぴらだが、住民としての権利は保険代わりに残しておきたいイイとこ取りの連中は少なくない。万一の衣食住確保もそうだが、外でのトラブル発生時に事態打開へ里が仲介、保護へ乗り出してくれるのがでかいからだ。
 だが、そのためには毎年それ相応の金品を献上するか、もしくは白緑同様に徴用に応じる必要がある。
 祭りのような大規模なイベント開催には労力がいるので、短期間なら体で支払ってもいいやつらが義務を果たすべく戻ってくる。ついでに懐かしい顔ぶれや知己に会って、徴用のお小遣いを元手に祭りそのものをたっぷり楽しんで元の住処に戻る、そんな連中で里の人口は一時的に倍増し、空いている大部屋や宿が埋めつくされるわけだ。
「ごちそうさまでしたっ」
 ねこミクがにこにこしながら手をあわせた。おおー、朝ごはん全部食べ切ったか、えらいえらい。
 あたしもデザートまで食いつくして、席を立つ。空になった盆を返却口に下げて食堂を出た。その時、教会の鐘が一回鳴った。現在の時刻は7時半、あと30分で作業開始か、急がなくっちゃ。
「カパミクちゃん、それじゃあお迎えにきてね、商店街の方だからねーっ」
 元気に手をぶんぶん振ってから、ねこミクは路地を小走りに曲がっていった。
 よし、あたしも今日も頑張って仕事してくるか。
 ねこミクと食堂前で別れてから、レア様の館沿いに城下を北東へ向かう。紫と金の腕章をつけたレア様直属の結界警備隊員たちとすれ違った。あ、またひとり。大きな黒い翼を持ったいかつい感じの悪魔。城壁の上にも翼の生えた……あれは白虎のお姐さんだな。獲物を持たせたらむちゃくちゃ強いらしい。
 外から大勢やってくる、というのは治安が悪くなるのと紙一重なんだよなあ。だから警備も強化される。祭りなんて酒が入って出来上がった連中で里中めちゃくちゃに盛り上がる分、事件も増えるからねえ。
 住宅街を抜けると、レンガ造りの倉庫のような建物が立ち並ぶ一帯に出た。ここら辺はさまざまな工房が立ち並ぶいわば里の工業地帯で、その先にある裏門から歩哨に立っている警備隊員の彼女は、薄い青のツインテだった。
 そう、彼女も初音ミクだ。ただし、背中からは黒にも紫にもみえる蝙蝠羽が生えている。つみミクさんという名の、悪魔のミクさんだ。まあ、ただでさえ天使だの女神だの言われる初音ミクだけに、時には魅力的な悪魔になる変わり種もいるのだろう。
「いってらっしゃい、おつとめ頑張ってね」
 つみミクさんからにこやかに敬礼を受けて外に出ると、畑や温室が広がっていた。
城壁で守られている里だが、実はレア様の結界はゆるやかに壁の周囲数キロ先まで及ぶ。それを利用して外に農園や牧場、さらには湖での養殖も手掛けていて、食いしん坊だらけの住民たちの胃袋を満たしている。
 あたしは外壁に沿って建っている建物のひとつへ入った。すぐ脇の手洗い兼更衣室でカバンを衣装箱に預けて掲示板を見て、本日の作業内容を確認してからその先の場内へ進む。天井の高い広い工房には湯気が上った巨大な釜がいくつも並び、その前には洗浄用の水槽、作業台などがあり、そして、本日の格闘相手がうず高く積まれていた。
「うへえ、今日もこれ全部種とって煮てから、皮を削ってつぶすのかあ」
 木箱の中身はいずれも緑や橙色のかぼちゃだ。秋祭りのハロウィン料理向けかぼちゃペースト作り、これが本日のあたしのお仕事だった。
「ま、農園の方は今日から徴用のひとたちが収穫の手伝いをするから、私たちはこちらに専念かしらね」
 辟易しているあたしに、後から同僚のソラさんが話しかけてきた。
 なかなかグラマラスな体つきの上代空さん、見た目はあたしよりもちょっと上、貴重な元人間のエルフ族で、出身地もほぼ同じの姉貴分だ。御年350歳ほどの、里で和食普及に貢献してきた先達のひとり。里へ流れ着いたころから、味噌や醤油、納豆に梅干しなどの慣れ親しんだ味に恋焦がれ、それがきっかけで今の仕事を選んだそうだ。
 そう、あたしやソラさんの職場は里の農園、ならびに作物の加工工房。野菜や果物を収穫して煮たり焼いたり、塩漬けや砂糖漬け、水煮などに加工したものを壺に詰めて封をする。できあがった加工品は時止庫と呼ばれる長期保存用の魔法倉庫で管理され、必要に応じて里の給食センターこと調理工房や製菓工房の原材料として使われる。
 夏は来る日も来る日も鍋でとうもろこしの水煮やトマトソースをかき回してたし、そろそろ秋と思ったら今度は栗の水煮と果物のジャムやソース作り。同じ職場で働く果実の精霊たちが、ちょっとした小競り合いを起こして感情そのままに自らの分身を自己生成したものだから、しばらくはその処理で大変だったっけ。公設食堂のフレーバーウォーターがこのところ日替わりでオレンジ、レモン、ライムと回しているのもその影響だ。
 ここ一週間は祭り用食材の増産で追われている。これは食肉工房や酒蔵など食料にかかわる部署みんなそうだから仕方がない。
 療養中の暇つぶしと小遣い稼ぎもかねて仕事をしていたあたしだが、体力が回復してくるにつれ、どんどん出勤日が増えて指示される内容も多彩になった。徴用は最低限の日数こそ決められているが、その逆はない。
 お偉方はなまけ者の処遇は心得ていても、あたしみたいな仕事中毒者の扱いは想定していなかったのだろう。上位種族は必ずしも労働を美徳とは思っていないらしく、まったく働かないのも問題だが、仕事が過ぎる者も決して歓迎されないようだ。
 ほぼ毎日何らかの作業を自主的にもくもくとこなすようになった頃、そんなに働きたいならと誘われたのがこの農園だった。そし三日働いたら一日は休むように厳命された。いわゆる週休二日の感覚かね。
 同時に、それまで与えられていたレア様の館の要保護者用の小部屋から、今の1LDKの賃貸住宅へ引っ越した。無料の女性向け大部屋も見学したが、遊ぶ金を確保できたら残りは一日中自堕落に暮らす者たちの多さに辟易して、独立した部屋を借りることにしたのだ。
 彼女たちは悪い連中ではないが、あそこにいたらあたしも楽な方向に流れて抜け出せなくなってしまいそうだった。どうせ暇をつぶすなら外で汗水流していた方がずっとあたしの性にあってる。
 幸い、徴用で貯めたお金があったので当面の家賃はすぐに払えたし、必要な家具や食器なども、自立への応援と称して、レア様の館やエルフの館がいらない備品を払い下げてくれて、すぐに生活できるようになった。その分、家の中がやけにゴージャスになってしまったわけだが。
 ちなみに、エルフの里では持ち家はほとんど存在しない。神社は建屋こそ自前だが、土地は借り上げだと聞いている。
「みんなー。ちょっと集まってちょうだい」
 光が当たると紫にみえる黒い髪の、エルフ耳を持つ作業着姿のお方がやってきた。あたしたちの上司、純正エルフで上から六番目にあたるルシリア様だ。あたしよりやや年上といった感じの純朴そうな少女だが、里の農園と付属の工房を統括する彼女は、オルティス様と同じ地属性で能力の強さは彼に次ぐという女傑である。
 ルシリア様の呼びかけに、蝙蝠羽の悪魔やケモノ耳やしっぽをゆらゆらさせている連中が続々集まってくる。いつもはぎりぎり徴用がかからない程度しか仕事にこない者たちも出てきているな。さすがに今週は遊んでなんていられないから、招集がかかったのだろう。
「知ってのとおり、まもなく秋祭りが始まるわ。今回のメイン会場はレア様の館の前庭だけど、城下にも華やかな飾りつけをして、広場には好きに飲み食いできるようにテーブルを並べて、たくさんのごちそうを用意します。今日加工するかぼちゃもケーキやパイ、スープなどにして、料理に花を添える予定よ。先に味見させてもらった今年初物の葡萄酒もなかなかいい出来栄えだから、こちらは来月の葡萄の祭りまでみんな楽しみに待っててね。とにかく、秋祭りを存分に満喫するためにも、今日も一日頑張りましょう。それではみんな、作業を始めてちょうだい」
 さあて、作業開始だ。あたしは腕まくりをして持ち場についた。


                                    ――続く


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