理想の歯科衛生士像【DHブログ - Vol.20】
『歯科衛生士を育てたいけど時間もお金もかけられないと悩む院長先生』
ここ数年、院長先生から依頼される内容は「歯科衛生士教育」が多くなりました。とくに「直ぐに戦力になる歯科衛生士に育てて欲しい」、「新卒で4月から採用した歯科衛生士を、出来るだけ早い期間でSPTの患者を任せられるようにして欲しい」という要望なのです。歯科衛生士不足に悩む院長先生も多くいらっしゃるので、お気持ちはわかります。しかし、「院長のおっしゃる早い期間とはいつ頃ですか?」や「具体的にいつまでとお考えですか?」と尋ねると、「7月くらいには…」「3ヵ月は厳しいですかね…?」と現実的ではなく、厳しいことだととはわかっているのですが、神頼みであるかのように切願されます。
昭和38年生まれの私たち世代は、何事も”先ずは石の上にも3年”という考えを持つ人が多く、最低でも3年間は同じ歯科医院に勤務することが必須で、歯周治療に携わる者としては5年間の修行が必要。さらに、一人前の歯科衛生士に育つには10年必要と言われていました。この年数にどんな根拠があるのか、私にはわかりませんが、社会人として働く事の意味や人間関係を学び理解させていくのには2~3年かかり、一人の患者の治癒形態をみていくには、最低5年はかかるという事だったと思います。
そのような環境で働いてきた私には、数ヶ月で一人前に育成するには、当人のやる気と覚悟がないと成立しないと思ってしまいます。そして、育成に適切な環境も必要になると。
大手企業のような3ヶ月間の新人研修を行うことができれば、受付業務や助手業務などの基礎業務までは定着させられますが、「SPTの患者を任せる」といった経験値による判断と責任が伴う業務については厳しいものがあります。さらに、それを「月に3日で3ヶ月」や「週1回のペース」では、基礎業務の定着すら難しくなります。
確かに今は20年前に比べ、”ローリスクの患者をマニュアルに従って、歯科衛生士が時間内に検査やバイオフィルム除去が出来る”ように育てていくための期間は短くなったと思います。時代と共に万能な機器も導入され、また患者自体の口腔に関する健康意識も高まってきたため、ツールからの説明で理解され易くなったからです。このような現状から、歯科医院が設備投資をした上で新卒を3カ月間でSPT患者を時間内に診れるように育てて欲しいという気持ちはわからない訳ではないのです。
新卒歯科衛生士は自分が一人で患者を診ていく不安を抱えながらも、1つ1つの業務を覚え、時間内に出来るようになる事に喜びを感じます。しかし、数年経つと「これでいいのかな…外科やインプラントオペを学びたいな」と次の成長を求めて、そのスキルを学べる場を探しはじめます。場合によっては他の歯科医院へ魅力感じ、退職を考える歯科衛生士もいます。ここまでは、向上心のある歯科衛生士としては自然な流れです。しかし、多くの医院側が過ちを犯してしまうのは、「とにかく30分で回せれば良い」というようにコマ扱いし、医院の売り上げのために歯科衛生士を使ってしまう事です。「人財」として適切な評価をしなくなってしまのです。
さらにもう一つ。歯科衛生士が、医院の売上アップのキーパーソンと分かっていながら、「慢性疾患の予防対策は、毎日の規則正しい生活習慣の中にあり、それを指導していくのが歯科衛生士の役割である」というミッションを教えない、もしくはそもそも新卒歯科衛生士の人格形成に関わる教育を蔑ろかにしている院長先生もいるのです。(もちろん、全ての院長先生がそのような考えではなく、歯科衛生士を尊重している院長先生もいらっしゃいます。)
多くの歯科医院が、歯科衛生士に慢性疾患を予防していくための患者教育が出来るようになる育成とマネジメント能力を身につけさせる教育を行い、「人財育成」に力をいれることで将来有望な歯科衛生士が育っていくと思います。また、そのような育成システムがある事を募集要項に記載することで、歯科衛生士からの求人問合せも増え人材不足の解消にも繋がるのではないでしょうか。
知識と経験を身につけ、どんどん活躍したいと思いっている歯科衛生士はたくさんいます。そのような歯科衛生士を受け入れる環境(歯科医院)つくりが必要だと私は考えています。
~素敵な私たちでありますように~
長岐 祐子
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