2019年5月のBLUE NOTEツアーでARi Hoenig (drums)、 Matt Clohesy (bass)と組んで手応えを感じ彼らとNYで作ったトリオアルバムを引っさげて、再帰国したのが今回のHmmmツアー。前半の熊本、博多、広島、仙台、静岡をソロピアノで、名古屋、大阪、東京をRoss Pederson (drums)、 Matt Clohesy (bass)とのトリオで、という2waysのツアーだった。
初日の熊本へ。駅に到着してくまモンとパチリ!
しかし、、、非常に残念なことだが、
ご存知のように熊本博多広島とやってウイルス防止のために残りを全部中止にした。
悔しい思いでいっぱいだが、せっかくなのでこの前半の3日間のソロピアノの「セトリ通信」を書きつづろうと思う。仙台、静岡、名古屋、大阪、東京にいらっしゃる予定だった方、他にも今、自粛で待機されてる方、もちろんいらしてくださった方も、たくさんの音楽ラバーに届くことを願って。
それでは 「Senri Oe Japan Tour " Hmmm " 2020 」開幕だ。
熊本。本番15分前楽屋で「KUMAMOTO(地震の時に作った曲)」をやることを急遽決める。怒涛のようにJFK~LAX~HANEDA~HAKATA~KUMAMOTO とやってきてどこか心に余裕がなかったのだが、リハを見て楽屋に来た SONY MISIC DIrect のプロデユーサーM氏に言われ「ハッ」とした。そうだ! KUMAMOTOだ。KUMAMOTOをやらなきゃ。
なのでセトリのどこでやるかコスチュームに着替えつつ考えたけれど、アンコールでも真ん中でもなく0番、KUMAMOTO 、つまり「ど頭」でやることにする 。地震の後熊本で行ったコンサート、あの時に触れた熊本人たちの優しさを頭に描きながら演奏しよう。僕は熊本で演奏するのはあれ以来。
舞台監督に合図をもらい楽屋の電気を暗くしてからステージへ出た。大きな拍手と歓声が上がるが、まだ緊張していた。何を話したか話さなかったか?
取り急ぎ、ピアノの前に座り、おもむろに「KUMAMOTO」 を弾き始めたのは覚えている。静かな導入。さざ波の拍手。グッと心の距離が縮まった。
改めて曲終わり、シンプルな言葉で短く挨拶をした後にすぐにM1、「B&G」へ続ける。アメリカのジャズ雑誌「JAZZIZ」でBest Winter Songに選ばれたB&Gは実はポップの2枚目『Pleasure』用に23歳で作った曲。新幹線で大阪から東京へ移動中に作った曲。途中名古屋でたくさんの高校生が乗ってきてまるで自分がその中に混じって学校生活を送っているような気持ちで作った。
23歳。ジャズをやろうとしてたteenageの頃に飛距離が近かったせいもあり今触れると随所細部にジャズ的な仕掛けをやりたくなる美味しい「ポイント」がある。原曲のイントロを踏襲しながらもあちこちにジャズ果汁を散りばめて演奏する。
「10 P 10C (十人十色)」「Never see you again (格好わるい振られ方)」を2曲続けて。ポップファンの耳には馴染みがある曲のジャズバージョン が続いて会場のボルテージがグッと一気に上がる。
「ニューアルバムは父が亡くなってから数日後に作ったのできつかった。でも人生のジェットコースターを降りるわけにいかないので、逆にありのままで臨んだ」
ニューアルバム”Hmmm"から「Re:Vision」「Bikini」 をやる。Bikiniじゃ手拍子で熊本のお客さんに参加してもらう。これがすごいピッタリで完璧。アルバム聞き込み度が深いのか、それともこの手のリフへの刷り込みがすごいのか。でも嬉しかった。ありがたい。笑顔笑顔。
2/12に出した7インチアナログシングル「Poignant Kisses」の打ち明け話をする。Poignantってかなりの情熱がないと使わない単語なのでその説明を。チューチュータコかいなぐらい唇を突き出す感じのキスのイメージを説明し会場のあちこちへKiss, Kiss, Kiss ! これセクハラだよね(笑)。でも熊本の皆さんノリがいい。会場はうねるように大爆笑。大爆笑。チューチュー。
僕はジャズ曲も全部ポップ時代と同じように日本語の歌詞と同時に作る!「言葉にすれば、凍えたままで」みたいな感じで。なのでたまたま音符の下にこの曲の日本語の歌詞を書いていたので「Poignant Kisses」の歌詞を演奏前に本邦初朗読してみる。これもこの場での思いつき。老眼で何度もつまりつつ。
通常のバンドコンサートならば中盤のここいらはAcoustic コーナー。そんなイメージでここでは「Rain」と「The Very Secret Spring」をやる。Rainは5枚目のPop meets Jazzのアルバム『BOYS & GIRLS』からだが、このアルバムに入ってるバージョンよりも原曲度がグッと増す演奏になる。これも熊本へ帰ってきたからお客さんがそうさせたのだ。4枚目『Answer July』から「The very secret spring」はドラマテイックに。2曲のAcousticが終わってすかさず何も喋らずにこの2曲へ。
Indoor Voices
Akiuta
「Indoor Voices」は「Rain」のように一気に作った曲なので、構成がちょっと理屈を超えてていわゆる定型のA-B-Cというような構成をしていない。なのでその日ごとに表現フォルテの場所が違ってくる。そこが面白い。この日も1番とソロ後の2番じゃ全く違った。
「Akiuta」は元々NHK「みんなのうた」用に書いた曲。Jazzでは5拍子と6拍子をcombineした珍しいアレンジ。ニュースクールに通ってる時クラスで曲を持ちようる時にアレンジし、その譜面を今も使っている。今よりちゃんと書いてたなあ。(笑)
僕たち東洋人は小さい頃から俳句や短歌に慣れ親しんでいるので、5拍子とか7拍子が比較的に西洋人に比べると得意だと思う。インプロをやるときも小節を跨いだSubdivision 的仕掛け(例えば違う拍子が二つ同時に起こって、5拍子のところで4拍子をやっちゃうような感じ。しばらく演奏していたら最大公約数で両方が合う場所のダウンビートで小節の頭が同時に再び揃うみたいな?)が色々できるので楽しい。ラジオでmcをするときCMまでの5秒とかのトークを着地へ持ってくあのスリルな感じ? 違うか。説明は難しい。
なんだか随分前のことのようでもありついさっきのことのようでもある。この後、僕のポップのデビュー曲「ワラビー脱ぎ捨てて」へ誘う。
Wallabee Shoes
会場のボルテージはマックスだ。この奇跡のような迫力のある力を借りて「The Adventure of Uncle Senri」「YOU」へ。クライマックス。これは演奏していても感じたのだがあまりの心地よさに「次がラスト」と言った自分の言葉に、「はあ???」みんなも僕自身もキョトンである。でもラストはへ行かねば終わらない。え〜〜〜! と心で言いながらイントロへ。
Garden Christmas
ソロピアノでこのスイングをやるのは難しいから緊張する。名古屋、大阪、東京とRossとMattがきてくれる。もう少しの辛抱だ。いや、ソロのスイングはソロなりに楽しいのだが、左手のWalking Bass が大変といえば大変だ。しかし最後の最後にど緊張でビッグバンドスイングを終える。ピアノ1本で。(笑)
割れんばかりの拍手をありがとう、熊本。帰ってきて良かった。
アンコールは「Mischievous Mouse」と「Arigato」。
全てが終わってから普段着に着替えホールへ出てきて掃除をしている店の人やオーナーさんと談話。椅子とテーブルが普段レイアウトに戻されてゆく。
昔、STATION KIDSを一緒にやってた事務所の女の子が熊本に嫁入りして息子さんと顔を見せにきてくれた。4年前一緒に震災のライブをやった熊本の仲間が家族を連れて来てくれた。手に手にCDを買ってくれて。優しいよなあ。
この後もツアーは続く、、、お楽しみに。
*この作品はnoteの「ブルックリンでジャズを耕す」の中の【Senri Jazz Times 2】のカテゴリーの中のものです。これは"Hmmm Japan Tour 2020” 電子のパンフです。
この時期家で過ごしている方が多いと思うので、コンサートが中止になり残念な気持ちの方へ無料で提供しています。続きまっせ。
文・写真 大江千里
©︎SenriOe, PND Records 2020 ©︎大江千里2020
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