大学時代ESLの代替で単位になる「詩のクラス」で知り合ったバナード。彼からNYアンダーグラウンドで活躍する「Sの会」を紹介してもらって8年。その会のキュレーターであるスーから「久しぶりにFeatured Poet(スポットライトが当たる詩人)をやらない?」と誘いを受ける。
数年前に同じ誘いを受けた時はまさかの大雪で会は中止。当人やスーにとっては再びのリベンジになるが、そんなことはこの会の参加者には一切関係ない。ベロアの暖簾を潜り自己紹介をする僕に、会のメンバーは自分の詩の発表準備に目の色を変えるだけでなんの興味も示さない。正にここは詩の戦場。
「Senriです」
握手を求めると何人かはまず無視をする。中で一人の女性が握手をしてくれた。ぎゅ。その強く握る握手はバーナードのそれと似ていた。自意識が強い上に不器用で心に余裕のない人独特の強い握力だ。Me Me Me Me. 痛ててて、をなんとか飲み込んで僕はグラスワインをカウンターでオーダーする。バーテンダーはパンクの若い女の子。全身刺青。キュートで可愛い。そしてこの場は28丁目のある隠れ家のようなバーの地下スペース。小さな持ち込みのアンプ。精度の低いマイク。