ブルックリンでジャズを耕す

ブルックリン物語 #08 マイ・ファニー・バレンタイン “My Funny Valentine”

2016/05/12 19:24 投稿

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5月の第1日曜日は母の日。日本ではこの日、お母さんにカーネーションを贈るイベントがある。

NYではバレンタインに男性がお母さんや大切な女性に花束などを贈る。だから、年が明けるとどこもかしこもピンク色に変わる。バレンタインの商戦が始まるからだ。

日本のように、バレンタインに女性が愛を告白するというような風習はない。どちらにせよ、大切な人に思いを伝える日という意味では素晴らしいと思う。むくつけき男達が一様に神妙な顔で花を買うために無言で長い列に身を委ねる図は、どこか滑稽でこれまた美しい。

ウオールグリーンやデユアンルードなどのチェーン店はもちろんのこと、メイシーズなどのデパートのショーウインドウ、99セントの中国系ストアにもピンクや赤のチョコやテディベアがずらりと並ぶ。

オーデイションや出世など、人生を左右することには敏感で忠実なニューヨーカー達も、それ以外の瑣末ごとには本当に大丈夫かと思うほどのんびり構えている。

やれテディベアだ、やれチョコレートだとお店側が大騒ぎしても、その商戦にまんまと乗っている人を僕は見たことがない。みな一応にその雰囲気を楽しみ「ああ、またその季節がやってきたのだな」と思い、何もアクションを起こさない。

 
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街にピンクや赤が溢れかえるのは本当に見ていて楽しいし、この時期アイリッシュのセントパトリックディなどもあるから、緑とピンクと赤が古い街並みに鮮やかなドットのように浮かび上がる瞬間は確かに美しい。

そんな景色の中にいるニューヨーカー達も、当日になると「しまった!」といきなり慌てふためいて、こぞって店に駆けつける。これがまたニューヨーカーらしき姿なのだ。みんながみんなこぞって。なのであちこちの花屋はいきなり行列でごったがえし、地下鉄にはテディベアと1本のカーネーションを持った男達が溢れかえるのである。


そもそもNYのバレンタインは男性が、お母さんや大切な女性に花束などを送る日。なので、日本のように女性が愛を告白するというような風習はない。どちらにせよ、大切な人に思いを伝える日という意味では素晴らしいと思う。むくつけき男達が一様に神妙な顔で花を買うために無言で長い列に身を委ねる図は、どこか滑稽でこれまた美しい。

ストアにずらっと並んだ大中小のテディベアは各々ハートのクッションを抱え、一つのロー(並び)に片方のコーナーにはみ出さんばかりにこれでもかという数のベアたちが並べられるのだが、その置き方の雑なこと。あるベアの足が他のベアの手に絡まり、逆立ちで頭に血が上りそうになりながら網から半身をはみ出している。クリスマスシーズン前の生木もそうだ。道端にずらっと並んだ生木は最初の1週間こそいい香りを放つが、そのうち売れ残ってシュレッターにかけられ肥料になる運命の木達は、どこかせつなげに映る。逆さになったベアの目はどこか虚ろで不条理さを訴えかけている。

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毎年この日、真っ赤なカーネーションを1本買って蝶ネクタイにエナメルの靴で正装して、お母さんに会いに行く二十歳そこそこの男の子がいっぱいの電車に乗っているのを見ると、単純にいいなと思う。普段は腰までずらしたローライズのパンツを無造作に履き左右に体を大きくスイングさせながら歩く少年達も、この日だけはお母さんに感謝と愛を直接伝える大事な日なのだ。だからそういうときは必ず正装するわけである。

 

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