欠けた世界の真ん中で

フィー・フリューアさん誕生日記念企画

2018/11/09 21:29 投稿

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 降魔衛士――。

 それなる言葉が生まれたのは、享保元年のこと。
 徳川幕府八代将軍、徳川吉宗、将軍就任の年であったと言われる。
 それは戦国の時代を終え、徳川幕府の統治も安定した時代のこと。
 しかし太平の世と言われながらも、無論、人の世に危機の影は常にある。
 古来より人の命を狙い天より襲い来る魔――天魔と呼ばれていた化け物、デウスエクスの脅威は、依然人々を脅かしていた。
 それは、将軍のお膝元である江戸であっても無論、同じ。
 いやさ逆に、天魔がグラビティチェインという栄養分、その摂取対象として人命を求めるが故、当世世界有数の大都市であった江戸において、その襲撃頻度は他の追随を許さぬほどであり、問題は深刻であった。
 そこで就任直後の吉宗は、さっそくの大ナタを振るう。
 技を練り上げ、人たる技量を超え、魔を狩るほどの力を持つにいたった武人、忍び、法師や巫女たる術士たち。
 また、生来は天魔でありながらも地に降りた種族。天人と呼ばれる力の使い手、影人、小人ら妖精族、翼人、竜人、機人たち。
 それら、人ならざる力を持つ者たちを、江戸を守る公儀防人として召し抱えると、広く全国諸藩へ向けて発令したのである。
 無論それらは裏返せば、全国各大名へ向けて「そなたの藩は果たして、江戸を守るための手勢をどれだけ集められるものか?」という問いかけでもあった。
 全国津々浦々。
 大名たちは己が治める土地にて、古くより天魔と戦ってきた一族を召喚。
 過去の歴史において、天魔とは天災であり、為政者の責務たるものではないと投げうち、対策など打っていなかったがゆえ、歴史の影で人々を守っていた彼らを江戸へと向かわせた。
 そうして江戸へ集められた公儀防人、降魔衛士と名付けられた彼らは九つの組に分けられ、競い合うよう仕向けられつつ、江戸の太平のために働くこととなった――。


 第一話「登場!赤法師のお冨衣」

 享保三年、春――。
 草木も眠る、丑三つ時。

「……てやんでぇべらんめぇ!天魔が怖くて酒が飲めるかってんだ」
「そうよそうよ!天魔と喧嘩は江戸の花ってぇなぁ!」
「来るなら来やがれ、天魔野郎!」
「ぎゃっはっはっは、江戸っ子はそうでなくちゃいけねぇや!」
「よーし、もう一軒いくぞもう一軒!」
「いいや、貴様らが行くのはあの世だ」
「あん?」

 不意に男衆にかけられた声と共に、通りの奥。
 提灯も持たずに暗がりから現れたのは浪人ものであろうか。
 笠を目深にかぶり、その面は伺い知れぬが、腰の一振りはおそらく本身。
 ゆるゆると男たちに近づくその足取りはまさに獲物に忍びよる獣、腰にも頭にも上下の動きなし。
 男たちがなんらかの武の嗜みがあればこの男、ただものではないと察することも出来たろうが、悲しいかな男たちは腕っぷしだよりのただの人足。
 またこの世はいけすかぬ上役の悪口を肴にしとどに飲み、酔っていたのだから、漂う殺気に気付くこともなし。
 だがしかし、天は男たちを見捨ててはいなかった!

「ちょーっと待った、そこの天魔さん!」
 そんな声と共に、浪人へと飛来する黒い物体があったのだ!
「にゃにゃにゃーっ!?」
「ごめん縒ちゃん!危なくその人斬られるところだったからつい!」
 意外ッ!それは黒猫!
 そう、ひそかに鯉口を切っていた男が滑るような運足で、男たちの一人へ切りつけようとした矢先、飛来した黒猫の爪が襲い掛かり、それを阻止していたのだ!
「チッ……何奴!」
 そして黒猫もただ投げられたわけではない、その爪は浪人の編み笠をひっかけ、その頭上から取り去っていた。
 そして月光にあらわになったのはなんたること!奇怪なる狼の頭を持つ獣人であったのだ!
「ひ、ひええええ!天魔だぁ!?」
「はいはい、騒がない!ちゃーんと助けてあげるから落ち着いてさっさと逃げる!」
 通りの商店、その屋根の上である。
 黒猫を投げつけた小柄な人影は、月を背にしてそう言い切った。
 赤い頭巾を外套代わりに被ったその顔はさだかならず、しかし白い水干に赤の短袴、一本歯の高下駄は果たして巫女か修験者か。
 柔らかくも強さを感じさせる声音は少女であることをありありと語るが、響くそれは落ち着き払った戦士の気配も感じさせ、男たちは娘が降魔衛士であろうことを悟る。
 じりじりと浪人――いやさ狼人から離れる男衆、そしてもはや男たちに構う隙など見せられぬとう狼人が娘へ対峙しすらりと腰の刀を抜き放てば、娘もまた手にした錫杖一振り、金環がしゃらりと音を立てる。
「命知らずな。たった一人で我と戦うつもりか、ニンゲン」
「狼退治は赤ずきんにも出来るってぇとこ見せないとね。それに……僕が一人だと思ったら大間違いだよ!」
 ニヤリと笑って見得を切る、そんな娘の頼もしさに男たちの顔にも喜色が戻る。
「あ、あんがとよ嬢ちゃん!」
「あんた、降魔衛士の人だろ?名前は!」
「おうそうだ、あんたの名前教えてくんな!」
「もー、早く逃げてっていうのに!これだから江戸の人ってのんきっていうか剛毅っていうか……」
 狼人と切り結びながら、人に身をやつした機人の娘は兎の如く月に跳ねる。

「僕の名前はお冨衣――…人呼んで、赤法師のお冨衣だよ!」


 ――次回予告!

 あー、やっと江戸についたってのに、どこにいけば降魔衛士の雇い主が見つかるのさー。
 冨、冨衣ちゃんウチもうだめ……おなか空き過ぎて動けない……。
 わー!縒ちゃんしっかり!えーとえーとど、どうしよ……え?こんな時にまた天魔!?
 うーん、よし、ちょっと縒ちゃん懐入ってて!現場にいけば、今度こそほかの降魔衛士の人にも会えるはず!

 第二話「将軍!?悪人!?組頭の男」
 次回もサービスサービスぅ!


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