さんたく!!!朗読部『羊たちの標本』
ショートストーリーを
チャンネル会員限定にてブロマガで順次配信。
第1話は3月31日放送で
冒頭を朗読した『マナ』編。
その日、僕は春の匂いで目が覚めた。
窓を開けると、屋敷の裏手は
満開の白い花で埋め尽くされていた。
あれはたぶん、草苺だ。
照り出した朝日に花がほころんで、
甘い香りを放っている。
唐突に、喉の渇きを覚える。
何か軽いものなら口にできそうな、
そんな気分だ。
こんなことはとても珍しい。
僕は急いで身支度をして部屋を出た。
一瞬、隣室の紫郎を起こそうかと思ったが、
彼が人一倍の低血圧で
寝起きが最悪であることを思い出し、
止めた。
✴
「瑠璃……?」
声に気づいて振り向くと、
茂みの向こう側から
柔らかそうな銀髪がのぞいた。
新緑よりも深い緑色の目が僕を捉えて
ホッとしたように垂れ下がる。
「サーシャ。どうしたの? 早起きだね」
「うん……気づいたらまた外にいた。
きっとアレキサンドラのせいだ」
「ああ、そうだったんだね。
夜中は羊と一緒に過ごしていたのかな」
「いや。アレキサンドラは
標本室に居たに違いない」
『標本室』。
不意に発せられた言葉に、
胸を掴まれたようだった。
あの部屋に長居するのは、
良い影響を受けないだろう。
殊に、サーシャの場合は。
「……あんまりあそこに行っちゃダメだよ」
「俺に言われても」
「アレキサンドラに言い聞かせて」
サーシャの眠りは羊同様に浅い。
彼の中にいる何人かの人格が、
ひっきりなしに身体を使って
夢ノ淵院を彷徨っている。
サーシャ自身もその行動を
制御することは出来ないのだ。
ここから先は有料になります
チャンネルに入会して購読する
月額:¥550 (税込)
- チャンネルに入会すると、チャンネル内の全ての記事が購読できます。
- 入会者特典:月額会員のみが当月に発行された記事を先行して読めます。
ニコニコポイントで購入する
- この記事は月額会員限定の記事です。都度購入はできません。