休み社-文芸と音楽の日記

胎水譚 [歌詞]

2018/06/16 14:07 投稿

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 胎水譚

[序章]
『あなた』と浜辺を見ていた……
 波は幸せな穏やかさで後染(あとず)さり、
 存在の影は椰子の木へ もたれかかり、
 悩みは死者の暗がりに支へられて、安らいでいる。

[一章 皮膜の記憶]
「自己満足を継承したか?
 事故安息の敬称略な警鐘を鳴らしていたか?」
 形而上学の名刺交換を済ませ
 白詰草を集めて存在の倫理を問い
 灯台の灯りを失明し、概念卓上を筆がまさぐる
『去年マリエンバアトで…会いましたつけ…
 ほら…ヒヤシンスの畑を駈けて…』
 2人のいとこがゐて「わたし」は畳の上
『あなた』を思考してゐた

 夏、湾内には風が吹いていて
 岬には《非実在の都市》
 空腹を満たす虚栄の生存
 お弁当袋を開けて「ごめん」と瞑想
 しでゆん、昼、薄い皮を剥いて卵を食べた。
《命》を食べて「わたし」が《命》になってゆく…
「突き放されて理解したこと?」
 ――『生まれてきて…×××なさい…』
 何も感知せずに笑つてゐた過去を
 静かなる執行人が顔を出して
 死の勾配を下つてゐつた…

[間章]
《どうせ他人事だから
《わたしの代わりはいくらでもいる
《あなた以外 誰もいない
《現世 死ぬ前の自由に
 棹を立てる

[二章 皮膚の念慮]
"あたし"のことを見てほしい
"あたし"のことを訊いてほしい
"あたし"のことを知つてほしい
 だのに 星籠のなかに溢れた彗星は
 水性マジックで引いた線のやうに消えやすくて
 脆くて、弱くて、ひとりきりで
 明けるのを待つてゐた午前三時の夜の
 暮らがりのやうに、奇妙だ

 あとは
 不可思議な好奇心が『あなた』を不幸にさせた
 生命の死生線上に生きる抑圧された性性だ
 充分とは言えない見えない《未来》が重圧してきた
 重量のある何かを抱えてゐる、これはなんだ
 慌てることはない、これは《赤子》だ
「わたし」はそのぺたりとした《肌》を拭う……
《愛しい》稚い糸のようにか細い命か?
 ――まず『卵』があり、それから「びんた
 を生成し、外胚葉、そして脊索が始まる、」
『わたしたちのもっとも深い場所』――
 原初、思考、苦悩、感情、恋慕心、嫉妬、
 全ての深さはわたしたちの外胚葉から生ずる
 電気信号に過ぎない。
 出涸らしの茶を飲んで軒先で幽霊と対話する
「あなたは生かされてゐる、
 あまりに一方的な一方の有限の方向で」
 可笑しいと思うのは最初だけで
 あとは

[三章 室外の光]
 夏、湾内には風が吹いていて
 岬には《非実在の都市》
 椰子の実が…潮の循環に永らえて、
 沖より流れ着いてゐました。
《肌》に接着する気温、湿度、記憶、
 皮下に押し込めていた水圧が上昇する、
 種子の永劫、そして花粉の飛行。
 映日果の実、通草、山査子が生垣に成り、
 烏賊に棒をくくりつけ火にくべて穴に蓋し、
 深草では不確かな狐の声…がしてゐた。
 いとこは川に入り、『冷たいよ!
『去年マリエンバアトで…会いましたつけ…
 ほら…ヒヤシンスの畑を二人で駈けて…』
 浜辺の種の死霊の波となる
 さふさふ さふさふ 波の皮膚のなか
 揺られ 室内の鍵穴の奥から
「光が 見えた……」

 完


(2018/06/16)

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