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【本】安部公房『方舟さくら丸』解読①:さくら丸の現在

2014/10/25 01:11 投稿

コメント:2

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○現代のドン・キホーテたち

安部公房は長編小説『砂の女』でたちまち世界的な名声を獲得し、以降、亡くなるまで前衛的な作品を発表し続け、世界中の読者を魅了し続けました。
生前はノーベル文学賞の呼び声も高かったそうですが、いまだに若い読者の間で読み継がれているみたいです。
たしかに巨大な社会システムのなか、ちっぽけな歯車になってしまったような虚脱感に襲われる私たちにとって活気に満ち、奇妙な冒険に出る(段ボールをかぶって都市を徘徊する!救急車に連れ去られた妻を求めて病院を探し回る!)我らが主人公たちは現代の英雄のようにも思えます。たとえそれが風車に挑むドン・キホーテのような喜劇的な冒険であっても。
ときとして理解をはねつけるようでありながら、奔放なイメージや類をみない悲喜劇的な逸話は読む者の心をとらえて止みません。

これから数回にわけて、安部公房の長編小説の一つ『方舟さくら丸』について考察します。

○『方舟さくら丸』の現在

私たちは3年前に未曽有の大地震を経験し、日常が泡のように頼りないものであることを思い知りました。そして、福島第一原発の事故、出口の見えない不況、御嶽山の噴火…。
核戦争に限らず、私たちは日常を揺るがす脅威が無数に潜在する時代を生きているのです。
一方、まさか自分にそんな不幸が降りかかるまいという楽観があります。
かくいう僕自身、災害に対する備えを一切怠っています…。
想像力の不足、と言ってしまえば身も蓋もありませんが、この無根拠な確信が社会を支える大きな柱となっているように思います。
それは、トルストイの小説『イワン・イリイチの死』に登場する同僚たちの、"まさか自分に死が訪れるはずがない"という思い込みと同質のものです。

この小説はそんな薄氷の上に成り立つ社会を誰よりも痛切に意識し、採石場跡の洞窟に生きる世界を築くことを試みた男の物語です。
徹底的に死を拒絶する主人公から私たちは生きる意味だとか、人生の価値だとかを見出すことはできません。
彼が見せてくれるのは身長170センチ、体重95キロの巨体が放つ、生のエネルギーの爆発だけです。
主人公の企て、行動、失敗、滑稽さ…。
偽りとごまかしの日常を生きる私たちは、"生きるとはどのようなことか"、彼を通じて生のありのままの姿を目撃することになるでしょう。

それでは次回から『方舟さくら丸』の内容に本格的に踏み込んでいきたいと思います。

(つづく…)


参考文献:安部公房『方舟さくら丸』(新潮社)

コメント

つかっちゃん
No.1 (2014/10/25 22:04)
お、これは気になる記事ですね。
僕は『方舟さくら丸』は積読していて、読めていません。でも面白そうなので読んでいこうかしら。
続きの解読が楽しみです。
(著者)
No.2 (2014/10/26 00:06)
つかっちゃんさん、コメントありがとうございます。
長編小説では『砂の女』『箱男』が有名な安部公房ですが、『方舟さくら丸』もサスペンスフルな展開で、エンタメ文学として読んでも楽しいですよ(^^)
積んでおくのはもったいないです!
ゆっくり連載していくつもりですので読み終わったら感想教えてくださいね。
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