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【本】J.D.サリンジャー『バナナフィッシュにうってつけの日』解読

2014/08/03 00:24 投稿

コメント:2

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J.D.サリンジャー『バナナフィッシュにうってつけの日』は、青年が自殺するまでのある1日を追った物語です。しかし、主人公の行動があまりに狂気じみていて(ビーチにバスローブを着たまま寝そべる(日焼けできないじゃん!)など…)、読後に多くの謎が残りました。そこで、この物語を考察してみるのが今回のブログのテーマです。

【前半】
おそらく新婚旅行でしょう、舞台はフロリダ、ビーチのあるリゾートホテル。物語の前半は主人公の妻と義母(妻の母)の電話でのやりとりに終始します。その会話のなかで、重要だと思われるポイントを以下にまとめてみました。

・主人公が奇矯なふるまいをして、妻とその家族一同を困らせている。
・妻の母親は主人公が娘を傷つけないか、それだけを心配している。
・妻は旦那のことよりも、爪のマニキュアや他人の着るドレスのほうが気になる。
・主人公は戦争に参加し、陸軍病院に入院していた。

【後半】
主人公が浜辺で女の子と遊び、その後、自室に帰って自分の頭を拳銃でぶち抜く過程が描かれます。そのなかでも、表題となるバナナフィッシュについての会話が女の子との間で交わされます。バナナフィッシュとは主人公が語る架空の魚です。一見普通の魚だけれど、バナナの詰まったバナナ穴に泳いでいって、バナナを食らいつくしてしまい、太って穴から出られなくなる。あげくの果てにバナナ熱にかかって死んでしまうそうです。このバナナフィッシュのエピソードはもちろん主人公の心情を投影したメタファーです。

バナナフィッシュ=現代社会に生きる人々、あるいは主人公
バナナ穴=(戦争・虚栄心など)狂気に満ちた現代世界
バナナ熱=狂気・とくに常識や通念などに影響されて固有の感性を喪失した心的状態

【残る謎】
主人公の奇矯な振る舞い
・バスローブを着て、浜辺に寝そべる
・女の子の黄色い水着をブルーと言う
・自室に帰るエレベーターに乗ってきた女に「僕の足をみないでくれませんかね」と絡む

バスローブを着て浜辺に寝そべるという行為は、他人に見せつけるためだけに身体をこんがり焼くという軽薄な流行を嘲笑う、主人公のウィットでしょうか。女の子の水着やエレベーターに乗ってきた女について、主人公は子どもとは円滑にコミュニケーションを図れるけれど、相手が大人だとまるでうまくいかないようです。とくにエレベーターの話は主人公がどこまで正気で、どこまで狂っているかを示唆するエピソードなのかもしれません。
これはどうやら狂気をめぐる物語です。戦争に傷ついた青年と、悲劇などなかったかのように虚栄心を満たすことにあくせくする世界と。いったいどちらが狂っていると言えるだろう、考察していてそんなことを感じました。

本ブログの考察は既出かもしれないし、見当違いかもしれません。
別の視点・ご意見などがありましたら、コメントください。
お待ちしてます!

コメント

かかし
No.1 (2014/08/04 23:28)
ご指摘の通り、私もこの作品を「スノビズムを身にまとって人生の荒波をサバイブ出来なかった、イノセントな男の物語」として読みました。
さて、細部を見ていきますと、まず冒頭の「長距離電話を独占する97人のニューヨークの広告マン」がバナナフィッシュのイメージを先行する形で出てきます。そこから妻と母の会話にシームレスに繋がり、それぞれの人物像を浮き上がらせながら同時にシーモアが以前に「木に車をぶつける」事故を故意に起こした事実を伝えます。この時点では、破滅的な願望を持つ謎の人物ですね。ここで「イレズミ」についても触れられます。
少女シビルの第一声。シーモア・グラス=「もっと鏡見て」。己の心的外傷が表皮に刻印された(という妄想に取り憑かれた)シーモアにとって、イノセントな少女のこの言葉はさぞや胸に響いたことでしょう。そしてシャロンという恋仇への少女の淡い嫉妬心が「バナナフィッシュが見えた」という「罪... 全文表示
(著者)
No.2 (2014/08/05 21:09)
かかしさん、コメントありがとうございます。
なるほど、シビルが口癖のように言う「もっと鏡見て」という言葉が戦争体験の心的外傷をひた隠しにする青年に内省を強いるものだと解釈できるわけですね。たしかに少女に声をかけられた後に、主人公はバスローブの襟を押さえていました。ナイーブな感受性をもつ女の子に指摘されるとよけいに重く響きます。
少女シビルについて付言しておくと、彼女の住所は「コネティカット州ホヮーリー・ウッド」映画の街であるとともに軽薄な流行を絶えなく生み出す虚栄の街。ナイーブな感受性をもつ女の子もいずれは『バナナ穴』にはいって、青年の妻のような女性になってしまうことでしょう。この予測も彼にとって痛ましいものだったにちがいありません。
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