働く理由は一人一人違いますが、ひとつ共通しているのは、接客や料理を通じて生まれる「笑顔」が好きということ。そんなスタッフが思い入れのあるレシピを、エピソードと一緒に紹介します。
第五回目は、212キッチンストア・木曽川店 岡本 裕貴よりお送りします。
「お母さんの鰤大根は、いつだって私の背中を押してくれる」
この写真は、想い出いっぱいの神戸の桜。
私は、三年前に実家のある神戸から愛知へ転勤しました。
実家から通った、大好きな六甲山からの眺めも忘れられません。
今までずっと実家暮らしだったため、一人暮らしをしたことすらなかった私。初めは不安でいっぱいでしたが、それも最初だけ。忙しい毎日を送る間に、だんだんと慣れていきました。
現在住んでいる愛知の住まいの近くは、穏やかな時間が流れています。
すっかりと転勤先に慣れたちょうど一年前くらいのこと。今となっては内容さえ思い出せませんが、その日、私はとても嫌なことがあり、母に電話をしました。
「ちょっと聞いてー! ほんまに嫌なことがあってん!」怒ったまま母に話し始めます。
「うんうん。」静かにうなずいて、ただ聞くだけの母。反応がイマイチな母にまで、だんだんと腹が立ってきました。
「ほんまにもう嫌や! 神戸に帰りたい!」勢いのまま、母に怒りをぶつけてしまった私。
すると、今まで黙って聞いていた母は呆れた声でこたえます。「そんなん言ってないで、頑張りなさい。そんなことよくあることよ。」
そうえば、いつもそうでした。母は、滅多に私を褒めたりもしないし、愚痴をこぼせば、あんたが悪いわー、もっと頑張りなさいばかり。
この日だけは慰めて欲しい気持ちがあった私は、余計に腹が立ち、「もういいわ。電話切る。」と言い捨て、電話を切ってしまいました。いつもは、後から「ごめんね。」とメールを送ったりするのですが、その時はそのまま意地を張っていました。
そして、数日後、母から「明日、荷物が届くから必ず受け取ってねー!」というメールが。
なんだろうと思いながらも、荷物を受け取り、段ボールを開けました。
送られてきたのはたくさんの母の手料理、それと私が実家でよく食べていた大好きなお菓子。そして、ダンボールの底に母からの手紙が入っていました。
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毎日、お仕事お疲れ様。いろんなことがあって大変ですね。
でも、そんなふうに遠いところで孤軍奮闘しているあなたは、誇りですよ。
やれるところまで悔いのないよう頑張りなさい。
でも、どうしても無理だと思ったらいつでも帰っておいで。
帰ってくる場所は、いつでも待ってるから安心して頑張りなさいね。
大したものも食べていないだろうから、張り切ってたくさん作りました。
特に鰤大根は、とても美味しくできたよ!
お母さんのごはん食べて元気出して。身体に気を付けてね。
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いきなり怒って自分勝手に電話を切った申し訳なさと、母も多忙な毎日にも関わらず、仕事に追われていた私の体の事を心配し、ごはんをたくさん送ってくれた優しさに、私は声を出してワンワン泣きました。
その日の晩御飯は、もちろん鰤大根。
レンジでチンすると、ほくほくの湯気は生姜と鰤が合わさってとてもいい香り。一口食べると、身はホロホロでご飯が進みます。食べながら、また涙がポロポロ…。
ですが、もう後ろ向きの気持ちは無くなっていました。
その後も、母に何か食べたいものあったら送るよと言われれば「鰤大根!」と答えるほど大好物に。
私にとって母の鰤大根は世界で一番美味しい心の活力です。
「私の背中を押してくれる、お母さんの鰤大根」
【材料】(1~2人前)
・鰤切り身 3切れ
・大根 1本
・昆布 10cm
・醤油、みりん 各大匙3
・砂糖、酒 各大匙2
・水 200cc
・しょうが ひとかけら
【作り方】
1. 鰤に塩を振りお湯にくぐらせ、1切れを三等分にする。
2. 大根は輪切り(3cmくらい)にして皮をむき面をとる。十字の隠し包丁も入れる。
3. お鍋に昆布を敷き、大根を並べる。(隠し包丁を入れたほうを下にする)
4. 大根を並べたら間に、鰤を入れる。染み込ませるために重ねてはダメ。
5. 醤油、みりん、砂糖、酒、水を混ぜて上からかける。ひたひたになるように、量が少なければ水を足す。
6. 生姜をスライスし鰤の上に散らばせる。お鍋で20分ほど煮込んで味が染み込むように放置。
*大根がまだ白い時は、上下を反対にして更に3分ほど加熱する
これまでの想い出レシピはこちらから。
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