すっきりしない梅雨空の広がる6月某日、場所は京都市内の小さな路地にある雑貨店「Buddy tools」。若い男女があつまり、なにやら変わったカードをめくりながら、少し恥ずかしそうに語らいあっています。
そのカードには「KATARUTA(カタルタ)」の文字。
みなさん、カタルタをご存知でしょうか。
カタルタは「語るためのカードセット」で、トランプを模した54枚のカードに「もし」・「そもそも」・「たとえば」などの接続詞や副詞が書かれています。このカードを使って話のつながりを強制的に転換させることで、思わぬ発想やコミュニケーションを生み出すことができます。
カタルタは自己紹介やブレーンストーミングなど様々な用途で利用できますが、この日行われていたのは「カタルタLab +Illustration」というイベント。参加者が持ち寄った、自分の相棒と呼べる品々にまつわるストーリーをカタルタによって引き出し、その場でイラストという形でビジュアル化しようという実験的なイベントです。
集まった参加者とその相棒は「バーテンダーとハット&蝶ネクタイ」、「フォトグラファーと愛猫(の写真)」など興味深い面々。わたしはあれこれ悩んだすえ、愛用しているコーヒードリップポットを持っていきました。
この日のルールは簡単。まずはカードを裏返した状態で5枚引き、持ってきた品について簡単な説明をしたあとに一枚だけ表に向けます。カードに書かれていた言葉にしたがって続きのストーリーを話し、少し話したらまた次のカードを表に向けて...とこれを繰り返すだけ。
そして、いよいよトークスタート。なんとわたしが一番最初!ドキドキしながら話はじめました。
「このコーヒードリップポットはタカヒロ社のもので、わたしが普段コーヒーを淹れるときに使っているものです。」
ここでカードを一枚めくると、書かれていたのは...“しかし”。うーん、話の流れを変えなくてはいけない。
「しかし、タカヒロ社のドリップポットは他社のものに比べると価格が高いので、欲しかったけれどずっと購入できずにいたものでした。」
ここでまたカードをめくると、今度は“いってみれば”。言い換えですね。
「いってみれば、これは日本の技術が生み出した最高品質のドリップポットといえるものです。」
わたしは普段であれば、このドリップポットを紹介するとき、どういう点が気に入っているのかを説明するのですが、結局今回は購入の経緯を説明していました。
次に使う「言葉」を決められてしまうだけで、頭を一瞬かき混ぜられた感じがして、思ってもみなかったストーリーを話してしまうのです。この感覚は経験してみないとわからない不思議なものでした。他の参加者のみなさんも、ときおり考え込みながら自分の相棒について語っていました。
そして、わたしの話を元に完成したイラストがこちら。
今回イラストを描いてくれたのは、デザイナー兼イラストレーターで京都精華大学デザイン学部の教員も勤める岸本敬子さん。
次から次へと誕生する、生まれるはずじゃなかったストーリーとイラストたち。その光景はまるで、人々の頭の中がビジュアル化されていくようでした。
人は言葉で思考する生き物です。だからこそ、言葉を強制的に選択させられたとき、思考が習慣や常識から解放され新たな発想が生み出されます。
カタルタは企業の研修に利用されたり、大学でその研究がはじまるなど大きな広がりを見せています。使ってみたい!遊んでみたい!という方は全国の雑貨店などの他、ネットショップからも購入できます。
Photographed by Mayumi Nakamura