事故なくしては成り立たない保険業界で、事故のない社会づくりをコンセプトに持つまったく新しい共創型自動車保険「&e(アンディー)」をローンチしたのが「イーデザイン損害保険会社」(以下、イーデザイン損保)。
事故にあったときの“安心”という保険の機能はそのままに、自動車に貼った小さなIotセンサーがドライバーの運転を計測してスコア化したり、安全運転を意識するともらえるSNSの「いいね!」のような“ハート”をコーヒーやスイーツに交換できたりと、ドライバーの安全運転を促すアイデアがたくさん盛り込まれています。
構想からローンチまでに3年半、ローンチしてから約半年。プロジェクトメンバーとして「&e」の誕生に関わったHR部マネージャーの中村千晶さんと、そのバトンを受け取り「&e」のミッション実現に奔走するCX推進部マネージャーの安藤愛美さんに、「&e」が生まれた経緯と、受け継ぎたいフィロソフィについて聞きました。
社内からふつふつと湧いた「このままではいけない」という声
左/安藤愛美さん、右/中村千晶さん
──「事故のない世界」は理想ですが、それを損保会社が掲げるとは意外でした。「&e」のコンセプトが生まれた背景をうかがう前に、そのきっかけとなった「ありたい姿プロジェクト」について教えてください。
イーデザインは、2009年に設立した会社です。東京海上という大企業のグループではありますが、設立当初は人数も少なく、ワンフロアに社員全員のデスクが並べられる規模。
「あなたにぴったりの確かな安心・安全を、リーズナブルに。」をコアバリューに掲げ、「あなた=お客さま」を第一に考えるカルチャーを根付かせてきました。
しかし会社が成長するにつれて仕事が分業化され、お客さまの対応も縦割りになってきてしまった。
ワンフロアでやっていたころは、お客さまに今どんな対応をしているかが社員同士で自然と共有できていたのに、私たちが大切にしていたコアバリューの「あなたにぴったり」の部分が見えにくくなってしまっていたんですね。(中村さん)
──組織が大きくなると出てくる悩みのひとつですね。
お客さまのためにもっとやれることがあるはずというのは、あちこちからふつふつと湧き始めていて……。
そこで「今のままではいけない」と、全社で部署を横断し、お客さまを担当する部署から、人事まですべての部からメンバーが集まって、イーデザイン損保がありたい姿について熱く議論を交わしました。。それが「ありたい姿プロジェクト」です。(中村さん)
──そのときにのちの「&e」となる、事故のない社会を実現したいというアイデアが生まれたのでしょうか。
いえ、そのときはまだぼんやりとしたものしか描けず、初期メンバーの数人と試行錯誤していました。
損保会社である私たちにとって最大のミッションはお客さまが事故にあわれたときにできるだけ早くもとの生活に戻して差し上げること。しかし、自動車保険に入っているからといって100%の安心を提供できるわけではありません。なぜなら、誰だって事故になんかあいたくないからです。
そして、たどりついたのが「究極のカスタマーサクセスとは、お客さまが事故にあわないことだ」という答えでした。
カスタマーサクセスとは私たちの仕事で言えば、保険に加入いただくだけでなく、ご利用いただくなかで、いかにお客さまを成功(幸せ)へと導けるかという考え方です。(中村さん)
お客さまが事故にあわない世界を目指す──10年前だったら「そんなの無理だよね」と笑って終わらせていたかもしれません。
でも自動運転が実際のものとなり、「事故ゼロ」を唱える自動車メーカーやタイヤメーカーもあります。SDGsにも「世界の道路交通事故による死傷者を半減させる」とのターゲットが含まれています。
夢物語ではないかもしれない。そんな思いが希望となり、これまでの事故対応の経験を生かして私たちの目線で、できることを一途に考えてきました。(中村さん)
人と車、街、社会、企業が手を取りあって
──保険名に冠した「共創型自動車保険」の「共創」とはどんな意味を持つのでしょうか。
私たちイーデザインとお客さまが共に創っていく、という意味を込めています。ネーミングの「&e」の「&」はお客さまと、という意味で、「e」はイーデザインのこと。主役であるお客さまは大文字、私たちはお客さまに寄り添う脇役のイメージで「e」は小文字にしました。
しかし、事故のない社会はお客さまと私たちだけでは目指せません。車に関わる企業さんなどとも手を取りあっていかなければいけませんし、私たちのセンサーによるデータで「このカーブで危険挙動が多い」とわかっても、カーブミラーなどの問題は国や自治体と一緒に動かないと解決しません。
ですので、私たちが成し遂げたい世界をつくるために必要な人や団体は、すべて「共創」の仲間だと思っているんです。(中村さん)
大学教授などの専門家の方にもお声かけして監修に入っていただいています。話を持ちかけると、みなさんに好意的に受け取っていただけるので本当にありがたいです。
企業さんとの取り組みでいうと、ローンチした頃からAppleさんとも協業させていただいています。
Apple Watchの心拍数データと「&e」の運転データを掛け合わせて、どんな身体状態だと危険挙動が起きやすいのかを分析し、たとえば寝不足のときには「気をつけて運転してね」といったアラートを事前に送るといったことが将来的にできたらいいなと可能性を探っています。(安藤さん)
イベントなどでスタッフの方々が着用するTシャツ
今後、ご利用くださるお客さまが増えたら、「このあたりで急ブレーキが多い、急加速が多い」といった地点データも集まってきます。それを自治体へフィードバックするなどして、事故防止へとつなげていく。そんなセンサーによる蓄積したデータもうまく活用していきたいです。
また、「&e」には「あなたの暮らしとイーデザイン」という意味が込められているので、今は車の分野だけですが、ゆくゆくは住まいなどの“暮らし”までサービスを広げて、お客さまに起こりうる事故を防いでいきたいと考えています。(安藤さん)
──ゴールド免許のようにランク付けされたり保険料が割引になったりするのではなく、SNSの「いいね!」のようなハートがもらえるのはおもしろいですね。
一般的な自動車保険は、事故にあわない限り、支払った保険料は掛け捨てになってしまう。むしろそれでいいというお守りのような存在だったと思います。
でも、事故のない社会に少しでも貢献してくださったお客さまにささやかだけど感謝とお返しをしたい。そんな気持ちで「ハート」を送り、貯めていただくと運転の息抜きになるようなコーヒーやスイーツに交換できるようにしています。(安藤さん)
チロルチョコほどの小さなIoTセンサー「OCTOスマートタグ」。自動車に貼り、スマホアプリと連携させるだけで、ドライバーの運転を計測してスコア化してくれます。
また、「&e」ローンチのためにヒヤリングを重ねるなかで実感したのが、ドライバーは自分だけの運転ではなく、パートナーやご家族、離れた親御さん、ご友人の運転まで気にかけているんですよね。
そこで付与したのが「フレンド機能」です。これは契約しているほかのユーザーと、&eアプリ内の「フレンド申請」という機能を使ってつながることができます。たとえば、離れて暮らす家族や友人と一緒に安全運転にチャレンジし、フレンド機能を使ってみんなで安全運転の輪を広げることもできるんです。
お互いの安全を監視するのではなく、楽しみながらゲーム感覚で取り組んでいける「フレンド機能」は、これからも増やしていけたらと思います。(安藤さん)
保険はお客さまの「砦」。どんな世の中でも安心を守り続けたい
──2022年11月のローンチからようやく半年ですが、お客さまの反応はどうですか?
積極的にアンケートを集め、いただいたお声にはすべて目を通して励みにしたり改善点を探ったりしています。大々的な周知活動をしていないなかでも、私たちの思いに共感くださるお客さまが少しずつ増えていると感じています。(安藤さん)
通常、こういった新しいサービスをつくるときは、誰に向けるものなのか、性別、年齢層、家族構成、世帯年収、居住地など、利用されるターゲットの“ペルソナ”を想定します。しかし「&e」に関しては、あえてペルソナを設けませんでした。
強いて言うならば、「一緒に事故のない社会をつくりたい」という私たちの思いに共感する価値観を持っている方。ブランドではなく、ブランド誕生の背景にあるストーリーや本質を理解してくださる方、でしょうか。(中村さん)
──プロジェクトメンバーの中村さんは、現在は人事部から会社のカルチャーづくりを担っていくとのこと。代わりに「&e」で事故のない社会づくりを牽引する安藤さんに渡すバトンにはどんな思いを込めたいですか?
「保険」という言葉って、不思議だと思いませんか?
どうして「保つ、険しい」というイメージの異なる漢字を並べて書くのだろうと思って調べたら、どうやら中国の古典で「砦(とりで)」という意味を持つらしいんです。
いままでの自動車保険は、何かあったときのためにお金を払うことが精一杯の砦だったわけですが、私たちが目指す「事故のない世界」が実現したとしても、世の中から不安はなくなりません。お客さまの砦にならなくてはいけないシーンは絶対に出てきます。(中村)
この「ミッション・ビジョン・アクション・バリュー」が、イーデザイン損保のフィロソフィとなっているそうです。
そのときに損保会社として何ができるか、どんな砦でありたいかを愚直に考えていく。そのときにフィロソフィさえしっかりしていれば、仲間は増えると思っているし、会社としてもありたい姿がブレることはない……。このことは、よく安藤とも話しています。(中村)
「補償内容はこうで、金額はこう」と明確に提示できるこれまでの自動車保険と違い、「&e」は価値観に共感いただく必要があるため、今まさにアプローチの方法を模索しているところです。
ただ、間違いないのは「私たちが目指す世界は素敵な未来である」ということ。そんな未来をお客さまと共創するために、お客さまとのコミュニケーションの取り方をきちんと設計していきたいですね。(安藤さん)
Photographed by Kosumo Hashimoto
Text by Rie Omori
あわせて読みたい:
ルームウェアでどこまで行けるのか? リラックスとカッコよさが共存するブランド「wenzday(ウエンズデイ)」の哲学 - ROOMIE(ルーミー)
「使い切る気持ちよさ」を体感。天然由来成分100%で、肌にも地球にもうれしいコスメブランド「7NaNatural」が始動 - ROOMIE(ルーミー)
コメント
コメントを書く(ID:18185686)
ドライバーにとってもだし、保険屋からしでも事故が起きると保険金払わないといけないわけで、事故が減るのは保険屋にとってもいい
win-winですね。こういうビジネスが理想的だと思います。
(ID:24546580)
究極、事故なくなったらその保険会社は不要になるんやけどな。事故ってくれる人がいるから成り立ってる商売でもあるという事実には絶対目を背向けられないはず。病気や怪我になってくれる人がいるから医療は成り立つし発展するし、エアコンや家電が壊れてくれるおかげで修理屋や、製造販売店は成立するし新技術新機能の商品も出る。綺麗事で商売は成り立ってはない。事故も起きれば起きただけ、自動制御システムや安全対策や安全意識が向上してきたんよ。
(ID:49446593)
自動車事故を例にいうと、極端に減らない限り保険業は成立する。
ならば事故を減らす活動を行い社会貢献をし企業イメージを高める事で企業の利益にもつながる。
更に言うと事故の起きる確率が余りにも大きいと保険として成立しなくなるので当然の内容とも言える。