福岡との県境にあり、山々に囲まれた大分県日田市。日本三大美林のひとつに賞される林業地をはじめ、日田天領水と呼ばれる水資源、日田焼きそばといったローカルグルメに、人気のある小鹿田焼など、魅力の多いまちです。

そんな日田市の中心地から車で10分ほど移動した落ち着きのある住宅街に、今回ご紹介する三ツ廣さんの住まいはありました。

お名前(職業):三ツ廣さん(暮らしのくふう工房haco+ 主宰)、旦那さん(取材時は不在)、猫2匹
場所:大分県日田市
広さ:4LDK
住宅の形態:築16年 戸建て
間取り図:

編集部作成

昨年お子さんが家を出てから、現在はご主人と猫2匹と暮らしている三ツ廣さん。ご家族の引越しとともに物数も減り、暮らしは現在の形に合わせてアップデートされています。

そんな三ツ廣さんの人生を変えてくれたと話す収納や、暮らしに合わせて変えていく住まいとの向き合い方について、お話を伺ってきました。

■目次
1. お気に入りの場所
2. この土地に決めた理由
3. お気に入りのアイテム
4. 暮らしのアイデア
5. これからの暮らし

お気に入りの場所

暮らしの中心となったリビングの窓辺

日当たりもいいリビングの窓辺は、お子さんが進学を機に家を離れた後、ダイニング兼仕事場スペースに変更した場所。以前より、生活の中でも過ごす時間が増えたのだそう。

「主人と猫2匹との暮らしに変わって、ダイニングを窓辺に移しました。古道具の机、アンティークの椅子に座って外を見ながら食事をしたり、仕事をしたり、おもてなしをしたりするのが楽しくなる場所です」

机の上に飾られたお花と照明が、さらに落ち着きのある空間に演出していました。

「日が暮れて、昔の喫茶店のランプを点けると、また日中とは違ういい雰囲気になります。1日の中でもここで過ごす時間が増え、より好きな空間になりましたね」

図書館からギャラリーに変わった壁面収納

住まいの中で印象的だったのが、壁面の大きな収納。本を購入することだけは惜しまないという三ツ廣さんだからこその大きな本棚収納もまた、使い方が変わってきた空間でした。

「家族みんなの本を置き、子どもも興味があれば親の本を読む。そんな子育てがしたくて、家を建てた際は『リビング図書館』というテーマでつくってもらった本棚です。

全盛期は上から下の段まで本が収まっていましたが、子どもが家を離れたこともあり、次女が好きな一部の本を残して熊本地震後に寄付しました」

「今では版画やコレクションの籠を、わが家のギャラリーだと思って配置しています。

台所からちょうど正面にあたる場所でもあるため、眺めているととてもいい気分になりますね」

家族の暮らしと合わせて柔軟に住まいの使い方を変えていく。ライフスタイルに合わせた収納を考えられている三ツ廣さんらしい空間でした。

暮らしに馴染む台所

使い勝手のいい広い作業スペースと、好きな景色が眺められるレイアウトを兼ね備えたキッチンは、住みはじめから現在まで、試行錯誤を重ねられている空間でした。

「キッチンでは使うものも少しずつ入れ替わってきています。子どもの頃、家にありすぎて苦手になっていた小鹿田焼は、最近になってよさに気づき、それまで雑貨感覚で集めていた食器を『器』という感覚で揃えていくようになりました」

「そして現在、敢えて『台所』と言いたくなる佇まいへの憧れを試行錯誤している場所でもあります。最新の機器には興味がなく、おばあちゃんになった私にもしっくりくるかなぁと考え、観音開きのシステムキッチンを選びました」

「絵を描いてお願いした食器棚も、空間の軽やかさを意識して使いたいと考えていた無印の収納を想定してつくっていただいたカウンターも、わが家サイズで心地よいです」

暮らしの中で、ご自身でつくられたスペースもありました。その1つが、窓際のコーヒースペースの棚。

日々使う空間だからこそ、使いやすい工夫が詰まった魅力的なスペースでした。

子ども部屋から引き継いだ自室

2階は以前、子ども部屋とご夫婦の寝室だった空間。

「お部屋に対して気持ちを持たないと物置になってしまう」という三ツ廣さんの考えから、今では子ども部屋を寝室に、納戸を衣装部屋にして活用されていました。

「2階も大切に使い続けたくて、私がそのまま使うことにしました。カセットコンロを置いただけのミニキッチンをつくり、子ども部屋を変化させて楽しんでいます。今後はベランダにテーブルと椅子を置いて、寛げる空間を増やしていきたいですね」

ウォークインクローゼットとなった納戸は余白を残しつつ、毎日の支度で必ず足を運ぶ空間に。

お部屋の使い方を見直し、使わない空間をつくらない。住まいに対する細やかな心掛けが、暮らしを生き生きとしたものにしてくれるんですね。

この土地に決めた理由

地元で時の流れを楽しめる住まい

日田市は三ツ廣さんの地元。進学をきっかけに離れてしまった故郷で、長く住み続けられる住まいを考えたかったのだそう。

「実家も近い土地で、流行りのデザインや素材を使った家ではなく、天然素材を使った家を建てたかったんです。私が歳をとっておばあちゃんになっても似合うような、経年変化も味になる住まいが理想にありました」

お気に入りのアイテム

理想的なカリタのコーヒーミル

光がたっぷり入るキッチンでシックなブラックが印象的だったのが、カリタのコーヒーミル。毎日使われているお気に入りのアイテムなのだそう。

「主人との2人暮らしになり、コーヒー豆を取り寄せて楽しむようになりました。最初は手動のミルを使っていましたが、徐々に電動のコーヒーミルが欲しいなと考えるようになり購入したのが、カリタのコーヒーミルです。絶対ブラック!と決めて探していたので、見つけた時は嬉しかったですね。小柄なフォルムと、色、使い勝手、全てがわが家にピッタリでした」

住まいの顔であるモミの木の座卓

リビングの中央に置かれたテーブルは、現在の住まいができ上がるのと合わせて制作してもらったもの。その大きさから家族を見守ってくれているような安心感を感じさせます。

「この家を建てる時、大人数でも囲めるわが家の顔みたいな大きな座卓を置くと決めていました。このテーブルは、一枚板を選ぶ時、このモミの木に一目惚れして工務店さんに製作してもらったものです」

「テーブルの足の高さは変えられるようになっています。いつか、椅子を使った暮らしがしたくなった時のために変化できるようにと。しかし、今のところ、座卓としての使い方が気に入っているので、変化させたことはありません」

頑丈で洋食器とも合わせやすい小鹿田焼

近年、全国的にも人気の小鹿田焼は、日田市の民藝品。三ツ廣さん自身、子どもの頃は気づかなかったというその魅力は、暮らしを通じてより深く感じられるものでした。

「小さい頃から慣れ親しんだ陶器ですが、実際に使用する中で、その頑丈さはもちろん、食事をより美しく、また洋食器とのコンビーネーションのよさも感じるようになりました。和食器とまとめるよりはモダンな器としての魅力も最近は感じますね」

住まいの中で小鹿田焼は食卓で使用する器以外にも、保存用の壺や花を生ける大皿にも使われていました。

自由な使い方で、空間をグッと引き締めるインテリアとしての役割も果たしています。

家族1人に1つ揃えた土鍋

キッチンの収納棚に並ぶ正島克哉さんの土鍋は、家族の人数分購入されたもの。そのまま食卓に出せる見た目はもちろん、直接火にもかけられる機能性も兼ね備えた一品です。

「雑誌で見つけた正島さん宅の食卓の、土鍋がある朝ごはんの風景に憧れていたら、近くで作陶されていることを知り、買いに行きました。お母さんとして、娘たちに土鍋がある台所を残したかったんです」

「これ一つで、鍋焼きうどんや石焼ビビンバ、湯豆腐など、本当に色んな料理ができて、器としても使える素晴らしい土鍋です」

暮らしのアイデア

収納を変え、暮らしを変える

現在の住まいに住みはじめた頃は、収納について深く考えることも少なかったと話される三ツ廣さん。

「昔は家族も私も、収納が下手だったんです。リビングに重なった書類や、パンパンになった収納棚などの中で、朝から子どもの学校に必要なプリントなどを迫られてイライラする、なんてことも多かったですね(笑)」

生活を通して、外向きの自分と家での自分の姿に悩まれたことから、住まいを見直そうと考えるようになったのだそう。

「住まいも来客がきた時は綺麗にするのに、お客さんが帰ると散らかることに自分自身を照らし合わせてしまったんです。収納を考え直すことは格好つける自分を止めるチャンスだと思いました」

「収納を学ぶようになって、一番ためになったのが『収納が苦手な人に合わせて考える』ということでした。まずは自分ができる収納を考え、そこから収納場所や収納方法について子どもや主人でもできるように、と考えていきました。みんなができるようになることで部屋も散らからなくなり、自分自身がすごく心穏やかに、優しくなりましたね」

収納の学びは、家族関係の良化にも繋がる。日々の暮らしの心掛けや工夫は自分だけでなく、お部屋を通して一緒に暮らす家族の心地よさにも繋がっていくんですね。空間にも心にもゆとりが生まれる収納、私も今一度見直してみようかな。

異素材を使い、空間のバランスを考える

収納以外に空間のつくり方にも工夫がありました。意識されていたのは、異素材で構成される空間づくり。

「住まいの中ではプラスチック、ブリキ、木材の籠など異素材を掛け合わせるようにしています。インテリアが1つのもので重くならないように掛け合わせて、各素材の存在感を軽くするイメージです」

「例えば、住まいが木を中心とした建物であるのに対して、無印のポリプロピレンボックスなどを収納アイテムとして使うようにしています。

収納として使うアイテムも統一して同じものだけを使うと、その素材の存在が重くなるし、空間としての魅力も薄くなってしまうため、バランスを考えて使用するようにしていますね」

アイテムの使い方には、他にもこんな考え方がありました。

「古い物を取り入れたり、ソファではなく椅子にすることで抜け感を出したり、余白を意識することで、モノがあるのにスッキリして見えるようにしています。使うものを考えるだけで、空間は大きく変わると思います」

住まいに置くものから空間を考える。飾る目的で買うより、使うものにこだわり、ディスプレイするように収納してみることが大切なのだそう。

無印良品以外の籠などは、福岡県うきは市にあるreedに定期的に足を運んで、心がときめく収納アイテムとして揃えられていました。

これからの暮らし

暮らしの中で住まいを磨いていく

お子さんが家を離れ、住まいについて改めて考える機会が生まれた三ツ廣さん。

今後に向けてはより暮らしやすさを考えながら、生活を大切に積み重ねていきたいと話します。

「この住まいでの暮らしも16年が経ち、〇〇風という表現におさまらないような、わが家っぽい雰囲気が出てきた気がしています。庭木の木もれ陽すらわが家らしさであることを忘れず。無理に飾り立てることより丁寧に掃除をしたり、庭の季節の花を生けたり、背伸びではなく、日々、暮らしを重ねている表情をした家に育てていきたいです」

「住まいができた時がゴールではなく、住み込んで自身や家族の暮らしを馴染ませていく」

2人暮らしとなり、今度はもう少し身軽になっていけたらいいなとも話されるその姿に、住まいもまた誇りと感謝の意を乗せた暖かな光のエールをかけていました。

Photographed by tsubottlee

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