近年ではファッションブランドやセレクトショップとのコラボレーションを発表し、感度の高いファッションピープルからも注目を集め、街で目にする機会も増えてきました。
山を主戦場としてきた「サロモン」はこの先どこへ向かうのか? ほかのアウトドアスポーツブランドとの違いは何なのか? 「サロモン」のマーケティングマネージャー石田道寛さんに、ブランドの強みとフィロソフィを聞いてきました。
遊び心を忘れないブランド
──サロモンと言うと、昔はスキーやスノーボードのブランドというイメージが強かったですが、最近はトレイルランニングでも存在感が増していますね。まずはブランドの歴史から教えてください。
1947年にフランスの南東部にある湖畔町アネシーで誕生しました。来年で75周年になります。
最初はスキーのエッジやノコギリの研磨工場として創業したのですが、10年後には当時としては革新的なケーブル式のスキービンディングを作って。15年後にはビンディングの生産数が100万台を突破し、世界No.1のスキービンディングメーカーとなりました。
その7年後にスキーのブーツを作り、さらに10年後にスキーの板やスノーボードを作りという感じで成長していきました。ですので、ルーツはスキーですね。
渋谷店の1Fに飾ってあるブランド創設者のジョージズ・サロモン氏の写真
──なるほど、サロモン=雪山のイメージが強いのはそのせいですね。特に40歳前後の読者は同じ感覚だと思います。
1992年がターニングポイントになるんですけど、この年が記録的な暖冬で、クロスカントリースキー用のブーツがたくさん余ってしまったそうです。
そのときに、余ったブーツを見た開発者が「ソールをゴム製に変えたら登山靴になるんじゃないか?」と思いついて、ハイキング用のシューズを試作したんです。
サロモン初のハイキングブーツ「アドベンチャーナイン」。
その時に生まれたのが「アドベンチャーナイン」というハイキングブーツ(上の写真)です。
──ずいぶんと大胆な発想ですが、それがきっかけでハイキングやトレイルランニングへの展開を始めたわけですね。
“遊び”がブランドの本質でもあるので、常に遊び心と挑戦心を忘れないように製品を開発しています。それを表しているひとつのエピソードですね。
僕もコロナ禍の前は年に2回ほど本社へ行っていたのですが、会議の中にはアクティビティの時間が必ず含まれているんです。新しい製品を身に着けて走ったり、山登りしたり。遊び感覚なんですけど、かなりエグいところにも連れて行かれて(笑)。
でも、製品を売って終わりではなく、その先にある体験もセットで届けるというところは創業以来、大切にしています。それを体現するためにも、自分たちがフィールドで遊ぶことはとても大切なんです。
サロモンの新作をレンタルで楽しめる
全国のスキー場16ヶ所にあるサロモンステーションでは手ぶらでスキーやスノーボードが楽しめる。しかも、最新のギアをレンタルできるのが魅力です。
──体験もセットといえば、手ぶらでスキー・スノボが楽しめる「サロモンステーション」はいいですよね。取材で一度体験しましたが、手ぶらでスキー場に行って、サロモンの最新のギアをレンタルできるというのは素晴らしいと感じました。
スキー場のレンタル品って古いイメージがあるかと思うんですけど、「サロモンステーション」ではレンタル専用に手入れが行き届いたものから、シーズンの最新作まで幅広くお試しいただけます。
あと、去年の10月には高尾山の麓にある「Mt.TAKAO BASE CAMP(高尾ベース)」というカフェバー&ゲストハウス内に「サロモンランニングベース高尾」というトレイルランニングに特化した施設をオープンしました。
そこでは、トレイルランニング用の最新シューズとバックパックがレンタルでお試しいただけ、イベントも不定期で開催しています。
サロモンランニングベース高尾はトレイルランナーにはうれしい憩いの場としても活用できそう。
──なるほど! 「サロモンステーション」の夏山バージョンですね。気になるシューズを実際に試せるというのはニーズも高そう。反響はいかがでしょうか?
買う前に試せるとあって、すごく評価をいただいています。
上級者の方はニューモデルをすぐに試せますし、初めての方は自分の足にフィットするモデルを見極めることができます。レベルを問わずに多くの方にご利用いただいていますね。
皇居の目の前にあるランニングステーション「サロモン ジョグリス」では着替えのみならず、シャワー完備。サロモンの最新のランニングシューズやウエアがレンタルできます。
──近年はロードランニングのシューズにも力を入れていますが、そちらの方は?
今年の春に、皇居ランナー向けの「ジョグリス」というランニングステーションで「サロモン ジョグリス プロジェクト」をスタートしました。
ここでもサロモンの最新モデルのランニングシューズやアパレルのレンタルを行い、手ぶらで皇居ランが楽しめるようになっています。
──モノを作るだけのメーカーが多い中、その先の体験をセットで提案しているのはサロモンの強みですね。
やはりスポーツ用品を手に入れた先にあるコミュニティにもコミットしていくのは大切だと考えていますし、こういった姿勢がサロモンの強みだと思います。
スポーツの未来を作るレーベル「S/LAB」
──強みといえば、モノ作りへのこだわりも相当だと思いますが、「S/LAB(エスラボ)」はいろいろと振り切っていますね。
はい、サロモンのラインナップの中でもっとも革新的なハイパフォーマンスレーベルです。
フランス本社に併設する研究機関「アネシー・デザイン・センター」を拠点に、トップアスリートとのディスカッションやテストを根拠としたアイディアが、今までにない発想力と技術力により製品化されています。
例えば、この靴、何用だと思いますか?
── なんでしょう? 大雨用のハイキングシューズですかね?
わかりにくいですよね(笑)。
実はこれ、ジッパーを開くと中にトレラン用のシューズが組み込まれていて。アルパインランニングっていう、すごくニッチなスポーツのために開発したシューズなんです。
岩稜帯を走っていくような。
── 本当ですね。トレランシューズにゲイターがくっついたような、見たこともない形状です。
プロテクションにとにかくこだわった製品で、ボトムの耐久性はもちろん、ハードな地面コンディションから足を守るためにこういった仕様になっています。
ある意味ちょっとユーザーへの挑戦的な商品ですね。こんなアイテムもあるんだぜ! 使いこなせるか? みたいな(笑)。
── いろんな遊び(=アウトドアスポーツ)にもしっかり対応してるんですね。
ほかにも、スイムランといってスカンジナビア半島発祥のスポーツ専用のシューズというのも作っています。
二人一組でやるんですけど、スイムとランを繰り返して、アイランドホッピングしていくという競技。疎水性があって軽くて、山の中でも走れる頑丈なソールを搭載しています。
ソール面が赤いのにも理由があって、泳いでいる時のバティとの距離感を掴むため。スイム中はバディとの距離が決まっているので、視認性が高いことが求められるんです。
── なるほど。マニアック……いや、遊びの幅が広いですね。
「なんかおもしろそう! じゃ、次それ作ってみよう」みたいな雰囲気がありますね。まさに遊び心から生まれた製品です。
でも、スイムラン用とはいえ、川遊びとか沢登り、釣りとかにもぴったりなので、使い方を想像する楽しみも魅力ですね。
パッと見は、正直どこにでもありそうな何気ないシェルに見えるが……
アパレルも作っていて、これはランニング用のシェルなんですが、ゴアテックスのシェイクドライという極めて高い透湿性と軽量性を実現した素材を使っています。
背中にマチが付いているので、ザックを背負ったままでも着られるようになっていたり、暑いときは腰に巻き付けて収納できたりと、ランニング時のパフォーマンスを落とさないためのアイディアが豊富に盛り込まれています。
脱がずとも腰に巻けるというトランスフォーム型のシェル。ランニング中でも足を止めずに脱げるというストレスをキャンセルする逸品だ
── ストイックな商品ですね。確かにこのウエアならタイムロスがだいぶ防げそうです。
「S/LAB」は本当に専門性を持った商品になるので、扱う店舗も絞っています。そのスポーツに精通したスタッフがいて、正しく商品のことを伝えていただける店だけに限定しているんです。
ビジネスのボリュームとしては小さいですが、すごく革新的な商品ばかりで、ある意味スポーツの未来を作るような商品群になります。
ファッションシーンにも席巻する
渋谷店内のサインもアイテム同様にスタイリッシュな印象
── 今回のインタビュー場所である「サロモンストア 東京 渋谷」は、ファション的なシューズが豊富に揃っていますね。
直営店はアウトレットを除くと全国に4店舗あります。各店舗でコンセプトは異なりますが、渋谷店の地下フロアは「URBAN」として2020年からスタートした「スニーカーズ」というコレクションを中心としたラインナップです。
サロモン渋谷店B1Fに並べられた「スニーカーズ」の数々
ブランド本来のパフォーマンス性は維持しつつ、過去作品を現代風にアレンジしたもので、ファッション的にも取り入れやすいコレクションになっています。
── 最近はセレクトショップなどでも扱っているものですね。色使いが今っぽいし、アーバンアウトドアのコーディネイトには取り入れやすそうです。そもそも、ファション的なアプローチのきっかけはなんだったんですか?
2015年にパリの「ブロークン・アーム」という人気セレクトショップからオファーをいただいたのがきっかけです。
たまたまそのお店にサロモンのシューズを履いたお客さんが来たみたいで、「うちでも扱いたい」と本社に連絡がきたんです。その時、ただあるものを扱ってもらうのはおもしろくないということで、機能性はそのままにカラーリングなどをアレンジしたモデルをコラボで作ったのがはじまりですね。
── なるほど、ファッション層へのアプローチはだいぶ前からやられていたんですね。最近だと、コム デ ギャルソンやフミト ガンリュウとのコラボも話題を集めました。
ありがたいことに、コラボレーションのオファーはすごくたくさんいただいています。こういった取り組みが増えることでブランドの認知も高まっていきますし、こだわりのパフォーマンスも感じてもらえます。
これをきっかけに、新しい方たちがマウンテンスポーツに興味を持ってもらえると嬉しいですね。
Photographed by Kaoru Mochida
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