JR線、都営線、京成線の3駅利用可で、東京の“ほぼ隣”に位置する本八幡。作家の永井荷風や脚本家の水木洋子などの文化人が暮らした、閑静な住宅街としても知られています。

そんな便利で落ち着いたエリアが気に入り、マイホームを新築したのが今回ご紹介する川名部敬介さんと上杉智恵さんのご夫妻です。

名前(職業):川名部敬介さん、上杉智恵さん(ともに百貨店勤務)instagram
場所:千葉県市川市
広さ:2LDK/94㎡
住宅の形態:一戸建て
建築費用:約2,700万円(建物本体)
築年数:1年
間取り図:

編集部作成

以前は都心の賃貸マンションに暮らしていたおふたり。自然がもっと身近で、気兼ねなく趣味が楽しめる心地よい暮らしを求めて、土地を購入して一から家づくりに取り組んだといいます。

完成からちょうど1年たったこだわりの新居での暮らしについて、お話をうかがってきました。




お気に入りの場所

居場所がたくさんあるリビング

階段を上がった2階がおふたりの住まいのメインスペース。天井高が最大で3.3メートルもあるというリビングは、大きな障子の窓が印象的な空間です。

「和風が好きというより、閉じていても光を感じられる障子の曖昧な感じが好きで」と智恵さん。採用したのは、桟と枠が均一のサイズで一般的な障子よりも繊細な印象の通称「吉村障子」。建築家の吉村順三によるものです。

「黒い物体があると違和感が出そうなので、テレビを置くのはやめました。代わりにプロジェクターを採用。これで映画を観たりゲームをしたりしています」(敬介さん)

テレビ台も不要になり、部屋が広々感じられてよかったとか。壁に直接投影できるように塗装仕上げにしたのもこだわりです。

窓辺のキャビネットは、窓の幅に合わせてチェリー材で造作したものです。

右側のルーバー扉の中には、外に出しておきたくないゲーム機本体が隠されていました。

最近リビングに仲間入りしたというロッキングチェアは、松本民芸家具のもの。

「ふかふかのラグの上に寝転がったり、ソファやロッキングチェアでくつろいだり。何人住んでいるの?っていうくらい座る場所があるのが気に入っています」(智恵さん)

ソファは敬介さんが独身時代にパシフィックファニチャーサービスでオーダーしたもの。デッドストックの張り地を使った品です。

隣家の庭の梅が満開の時期には、障子を開けてこのソファから眺めると、とてもリラックスできるとか。

フランク・ロイド・ライトの照明は、敬介さんが就職した年に購入したもの。

新築に合わせて購入したものは少なく、多くが独身時代や以前の賃貸の住まいから愛用しているものだとか。

築1年でもおふたりがずっとここで暮らしてきたような落ち着き感があるのは、“新品”の物が少ないからかもしれませんね。

家事が楽しくなる“コインランドリー風”洗面室

おふたりが「新居の間取りはこの場所ありきで考えた」というほどこだわったのが、ランドリールームを兼ねた洗面室です。

「洗濯機を回して、干して、畳んで、しまって……って、全部つながった作業ですよね。洗濯にまつわる作業をすべて同じ場所で完結できるように、十分な広さを確保したかったんです」(智恵さん)

カウンターに内蔵されたアイロン台を引き出して、アイロンがけも朝の身支度の流れの中でササッと完了! 

天井には、アイロン済みの服を一時的にかけておいたり、室内干しに使えるバーもつけました。

「以前の住まいに、使わないときは天井に格納できる物干しバーがあったのですが、結局、出しっぱなしになっちゃうんですよね(笑)。だから、常に出したままでも美しいものにしようって、ツヤ感のないアルミでつくってもらいました」(智恵さん)

バーには吊り下げタイプのスピーカー(バング&オルセン)も。お気に入りの音楽を流せば、身支度も洗濯も気分よく進みそうですね!

「ここのコンセプトは、最近増えてきたおしゃれなコインランドリーなんです。

以前ふたりで利用したときに、何でもない作業が楽しく感じられて。自宅でも洗濯の作業が楽しめる場所にできたらと思いました」(敬介さん)

この部屋に決めた理由

自分たちにフィットする街とハウスビルダーとの出会い

百貨店のマネージャーバイヤーとして多忙な毎日を送る敬介さんと智恵さん。

マイホーム購入にあたっては、勤務先からも近い都内の物件を検討した時期もありましたが、最終的におふたりのおめがねにかなったのは、不動産情報サイトで見つけた本八幡の土地でした。

「ここは建物の高さや道路までの距離などの規制が厳しい風致地区で、周囲の雰囲気がとてもよかったんです。葛飾八幡宮もあって、空気も神聖な気がしました。

当時はふたりとも勤務先が新宿だったので、乗り換えなしで通勤できるのも決め手になりましたね」(敬介さん)

理想の土地を見つけたのと前後して、千葉の海浜エリアの魅力を紹介するフリーペーパーづくりにボランティアで参加したおふたり。

そのリサーチ中に見つけたのが、注文住宅も手がけるインテリアショップのティンバーヤードでした。

「モデルハウスを見学させてもらったら、これはやばい、ということになって……(笑)」(智恵さん)

そんな縁がきっかけになって、家づくりはティンバーヤードに依頼することに。

「もともと建築やデザインに興味があって、吉村順三や前川國男の手がけた建物が大好きなんですが、どこにそんなに惹かれるんだろう?と考えたときに、デザインもさることながら、何十年と経過したエイジングされた雰囲気が好きなんだと気づいたんです」(敬介さん)

階段室の間仕切りに使ったガラスの建具は、木製の枠を黒く塗装したもの。

「マイホームの購入にあたっては、住宅展示場も新築マンションのモデルルームも見にいきましたが、最終的にティンバーヤードさんに依頼を決めたのは、手作業の質感や経年変化による味わいが楽しめる家に惹かれたのが大きかったです」(智恵さん)

残念なところ

ベッドルームの「あいまいさ」

1階のベッドルームは、出入り口やエアコン用の電源を2つ設けて、あとから2部屋にできるつくりに。

「でも、使用用途をはっきり決めずに今後どうにでもできる部屋にすると、すごくあいまいな空間になってしまうんですよね。奥にあるピアノは、本当は2階のLDKに置く予定だったのですが、サイズ的に2階に運ぶことができないと判明して……。それも少し残念なところかな」(智恵さん)

LDKにピアノを置いたら圧迫感があったかもしれず、今は結果オーライだったと思っているそう。

ピアノはおもに智恵さんが弾き、「ときどき夫も即興で終わりのない不思議な曲を弾いています(笑)」とのこと。リビングでは敬介さんがギターを弾くこともあり、趣味の楽器演奏が気兼ねなくできることも、最終的に戸建てを選んだ理由だったとか。

お気に入りのアイテム

100年の時を刻んだ曲木椅子

洗面室の曲木椅子は、その昔、銀行で使われていたものだとか。

ネットオークションで競り落とした後、割れていた箇所を製造元のマルニ木工で修理してもらい、破れていた座面は、籠目編みのできる伝統工芸士に修理してもらいました。

「マルニ木工の方は、100年以上前の自社の椅子が持ち込まれて、すごく感激してくれたようです。新品の綺麗なものだけに囲まれているのは、自分たちには違和感があるので、こういう古いものをふだんから愛用しています」(智恵さん)

彫刻のようなイサム・ノグチの照明「AKARI」

イサム・ノグチのAKARIは、こちらの住まいの象徴のような存在。リビングのほうは直径が75センチもあり、プロジェクターを投影するときに邪魔にならず、下を通るときに頭をぶつけない高さを厳密に計算して設置したとか。

「照明コードを天井にフラットに取り付けたくて、香川県のコネクトから取り寄せた専用パーツを使っているのもこだわりです」(敬介さん)

それぞれに表情があるラグ

リビングに敷いたヴィンテージのベニワレン(モロッコの伝統的なラグ)は、柄のバランスや端のフリンジが気に入って選んだもの。

「フカフカで気持ちいいので、ついここで寝てしまうこともあります」(智恵さん)

いっぽうダイニングには、天然染料が使われた手つむぎのロゴバキリムを。

「手仕事の織物はそれぞれに表情があるのが好きです。ラグを敷くことでひと続きのLDKをゾーニングできるのも気に入っています」(智恵さん)

手仕事の味わいがある民芸品

洗面室にかけた染色家の山内武志さんの型染めのれん。モチーフは「山」ですが、水を感じさせる図柄がこの場所に似合いそうと選んだものです。

「大量生産じゃない、人の手が感じられるものに囲まれていると、心地よく落ち着くんですよね。民芸品の、全部が均一ではない感じとか、経年変化で味わい深くなっていく感じがいいなって」(敬介さん)

ダイニングの壁には和紙職人のハタノワタルさんの作品を飾って。ガラスのショーケースの上にも、人の手でひとつひとつつくられた民芸品が並びます。

「仕事柄、東京でトレンドや新しいファッションブランドに触れることが多いのですが、ふたりで日本の各地を旅行し、地方の産地や作家さんを訪ねると、あれ? 日本中にいいものが溢れているじゃないって思うことが多々あるんです。

日本各地に民芸はあるけれど、いつかなくなってしまうんじゃないかという危機感もあって、大切に使っていきたいなって思うんです」(智恵さん)

暮らしのアイデア

よく使うものはしまい込まない

「物をしまい込むのは好きじゃない」というおふたり。

キッチンのIHヒーターまわりにバーを取り付けてもらい、鍋、フライパン、よく使う調味料などをすぐ手に取れるようにしました。

薄型のレンジフードを選んだのも、上に調理道具を置いておけるからだとか。

吊り戸棚の下にはオープン棚も設置。よく使うコーヒー関係のアイテムを並べています。

「いいなと思って選んだものを扉の中に隠しちゃうのはもったいないですよね。オープンな収納ならお気に入りをいつも眺めていられます」(智恵さん)

窓まわりは採光とプライバシー保護を両立

こちらは、ゴロンと横になれる場所も欲しくて設けた1階の和室。

障子の下部がスライド式に可動して座ったまま外が眺められる障子を雪見障子といいますが、おふたりが採用したのは上部が可動する月見障子。

プライバシーを保ちながら、頭上に見える隣家の梅の花を窓越しに楽しめます。

ダイニングの大きな窓には、軽やかなウールのカーテンを。

デンマークのクヴァドラ社のもので、よくあるシアーカーテンやレースカーテンと違い、窓の向こうが見えそうで見えないのがポイント。たっぷり光を取り入れながら、外部からの視線をカットできます。

限られたスペースを有効活用できるキッチンの設計

ビルトインの食器洗い機、オーブンレンジはMiele(ミーレ)製

キッチンは、ティンバーヤードの得意とする仕様におふたりの希望を盛り込んだオリジナルです。

「2階建ての戸建てでも、わが家はトータルの床面積が100㎡を割り込むコンパクトな家。限られたスペースを有効活用するために、対面式ではなくシンプルな壁付けのレイアウトにしました」(敬介さん)

「2人でキッチンに立つことも多いので、動線的にもこのほうが動きやすいんです」(智恵さん)

これからの暮らし

アートや民芸品に囲まれて暮らしたい

仕事で多忙はおふたりは、帰宅はいつも20~21時。

夕食はお店のお惣菜に頼ることも多いそうですが「ここで暮らすようになったら食器にもこだわるようになって、お皿にちゃんと移して食べるようになりました(笑)」と敬介さん。

以前は「負の時間」だったという朝の出勤前の時間も、今は落ち着いて朝食がとれて、広い洗面室のおかげで身支度もスムーズ。

「私たちはミニマリストではなく、物が好きなので、これからも物は増えると思います。実はまだ全然、物足りないと思っているので」(智恵さん)

「好みのアートや民芸品をもっと集めて、それらに囲まれた心地いい空間をつくっていきたいですね。

旅行にも出かけて、地場の作家さんの作品を買って来て、旅の思い出として飾りたいです」(敬介さん)

新居での暮らしがスタートしてちょうど1年。

ダイニングテーブルには庭から摘んできた花がさりげなく飾られていて、おふたりのこの家での充実した暮らしを物語っているようでした。

Photographed by Kenya Chiba

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