コミックは基本的にストーリーものです。ひとつのキャラクターセットが数十巻にも及ぶストーリーの主役として登場し続けます。短編集を読むことがあっても16ページや24ページで結末を迎えるひとつの小ストーリーが描かれるのが普通です。
小説でも長編と短編があり、どちらもその良さを競ってますが、コミックの世界においては、短編で次々アイデアを繰り出すよりも安定的にビジネスになるせいか中長編のほうが多いようです(「Papa Told Me」のように同一キャラクターセットで短編を積み上げることもありますが、これも実質的には長編かもしれません)。
ところが、小説ではショートショートのジャンルがあります。星新一のSFショートショートは有名ですし、純文学でも掌編としてショートショートを書く作家がいます。
ショートショートの良さは、作者の才能をバケツの水を道路にぶちまけるように書き散らすことができることで、アイデアひとつでお話を書くところに魅力があります。
先日本屋で見つけたコミック・ショートショートができが良かったのでご紹介します。「ひきだしにテラリウム」です。
作者は九井諒子氏。「竜の学校は山の上 九井諒子作品集」「九井諒子作品集 竜のかわいい七つの子」などでその力量を注目されている作家のひとりです。こちらでは、その才能を思う存分ショートショートとして書き散らしています(ここでいう書き散らす、は当然のことながら褒め言葉です)。
ショートショートの特徴は、オチだけのために細かい背景描写をざっくり省いたり、オチがなくてもアイデアひとつで描くことが許されたりすることです。この一冊になんと掌編33篇のきらめくアイデアが詰め込まれています。ショートショートでしか描けないものもあれば、長編にするには惜しいが短編なら書ける、といったアイデアもあり、どれもが愉しませてくれます。
笑えるもの、シリアスなものが混在するのもショートショート集の魅力です。具体的な内容をレビューで紹介してしまうと、その面白さは半減してしまうので、ここでは取り上げませんが、いくつか、「うーん」と唸らされるお話、「うまい!」と思わず声を上げるお話がありました。興味があれば手を取ってみてください。最後のショートショートでは、「なるほど、そうきたか!」と思わせる仕掛けも用意されています。
本冊に収録されたショートショートはWeb文芸誌マトグロッソに掲載されていた内容がベースです。確かにWEBは長々としたコミックを読むより、確かにショートショート向きかもしれませんね。
コメント
コメントを書く