そんな熊木さんが暮らすのは、50種類もの植物のある部屋。その暮らしは、全方位、まじりっけなく植物中心。
家での暮らしを、だれもが見つめ直しているいま。インテリアとしての植物にも、しかるべく注目が集まっているところ。
そこで、植物のある暮らしについて、彼に聞いてみることに。植物へのなみなみならない愛情の実践のなかには、だれもが気軽に取り入れられる暮らしのティップスも隠れていました。
名前(職業):熊木健二さん(花屋)家賃:7.5万円
面積:23.19㎡
築年数:18年
お気に入りの場所
部屋の植物を一望できるソファ「買おう、買おうと思っていたので、きっかけができてよかったです」
ソファのこと。じつは、取材日に間に合うように、ネットで買ってくれたのだとか。
聞けば、それまではベッド中心の生活。仕事から帰って、ベッドに座ってお酒を飲んでいると、いつのまにか寝落ちしてしまうことが、しばしばだった。
寝落ち防止のためにも、ソファが欲しかったのだといいます。
「植物のために風通しをよくしておきたいので、基本的に一年中、窓はつねに開けっ放しです。でも、うっかり開けたまま眠ってしまい、凍えることも多かった。
それでもこのソファに座って、部屋の植物をぼーっと眺められる時間が至福のときです。
この部屋に決めた理由
風通し、日当たり。すべては、植物たちのため!この部屋に暮らしはじめたのは、3年前のこと。引越しの理由について聞くと、「前の部屋は、風通しも日当たりも、本当に悪くて……」と当時を思い出すように教えてくれました。
部屋が暗いと気分も落ち込むし、寒いし。風通しも悪いとなると、空気がどんよりするし、洗濯物の部屋干しだって乾きにくい。
うんうん、人が暮らすうえで、やっぱりその辺は重要だよな〜なんて納得していると、「比べていまの部屋は、植物たちにとって、なかなかいい環境なんです!」とさらり。
そう、部屋選びにおける最優先事項は、植物たち。
風通しがいいこと、東か南向きの大きな窓があること、ベランダに一定のスペースがあること、それらはぜんぶ、“彼ら”が暮らしやすいように。
植物たちへの愛だよ、愛!
「もともと外にいる生き物なので、密閉された環境はよくない。土が生乾きの状態になってしまうと、根にも負担だし、土も腐りやすくなってしまいます。
おまけに狭い空間だと、カビも生えやすい」
部屋にある植物は、現在50種類ほど。決して広いとは言えない部屋にそれだけの数があっても、どうしてか窮屈な感じはしません。
白を基調とした部屋には清潔感すらあって、むしろ、すっきり気持ちいい。どうして?
「植物たちをひとつの場所に固めて置いているからかもしれません。
窓際のその場所が、部屋のなかで一番気持ちよく日光が当たる場所なんです」
なんと、部屋のレイアウトまで植物最優先。
ベッドもコーヒーテーブルも、植物の配置を決めたあとで、余ったスペースにレイアウトしたとか。恐れ入りました! でも、植物にとって気持ちのいい空間はしかるべく、人にとっても住みよい部屋になっているようです。
残念なところ
壁の薄さ「部屋の壁が若干薄くて、たまに周りの騒音が気になることも。そのぶん、なるべく友人を呼んでの家飲みはしないように気を付けています。
ここでの過ごし方は植物の手入れをするか、本を読むか、寝るか、くらいです」
友人が多く、お酒も好きという熊木さんにとって、部屋に友人を招きにくいのは痛手ではあります。
でも、経堂や下北沢、三軒茶屋といったエリアが近いため、集まる場所には困らないのだとか。
お気に入りのアイテム
最近お気に入りの観葉植物たちなかでもお気に入りの植物を聞いてみると、アロカシア、アンスリウム、タンクブロメリアといった名前が挙がりました。
「お気に入りの植物以外では、傷んだ植物を療養のために持ち帰ってくることも多いんです。
職業柄、僕自身がさまざまな植物の育て方を実体験として人に説明できないといけないので、この部屋はいわば、実験室のようなものかもしれません」
植物を愛するがゆえの、あくなき探究心にも脱帽するばかりです。
じつはYOGEE NEW WAVESのEPに…新卒で入った花屋を一度離れ、前職で、花植物にまつわるウェブメディアの編集の仕事をしていた頃のこと。
ハードな仕事ゆえに、生活にも支障をきたしていたそうです。そんな折に、熊木さんを助けてくれたのが、YOGEE NEW WAVESだったとか。
「『Bluemin’ Days』という曲が、あるときラジオで流れてきて。その曲の『花束をあげよう』という歌詞を聴いたときに、『本当にやりたい花の仕事をもう一度やろう』と決心したんです」
大切なことに気づかせてくれた彼らに、ありがとうと伝えたい。そう思った熊木さんは、ボーカル・ギターの角舘健悟さんが下北沢のライブハウスで弾き語りをすることを耳にして、会いに行くことに。
「そこではあいさつ程度しかできなかったのですが、そのあと、たまたま僕が働いている花屋の前で健悟くんとすれ違ったんです。すると、『あのときの!』と僕のことを覚えていてくれて。
そのときに、あらためて感謝の気持ちを伝えることができました」
「それから、『Spring Cave』というEPのアートワークに使われている花は、彼から頼まれて僕が作ったものなんです。このアナログは宝物ですね」
背中を押してもらったことへの恩返しを、まわりまわって、大好きな花で。なんて素敵なお話なんだ!
暮らしのアイデア
花は、暮らしの写し鏡グリーンに目が行きがちですが、部屋には生花も常に1、2輪飾っているそうです。
そこには、好きだからというシンプルな想いとともに、“あえて、飾るようにしている”理由もありました。
「お花には、そのときどきの自分の生活や心の状態が、そのまま表れるんです。自分に余裕がなかったり、気の流れが悪かたっりすると、すぐに枯れてしまう。
反対に、お花が長くもつということは、それだけ暮らしの細部に目が行き届いているということ」
この日部屋に飾られていたオーニソガラムは、1ヶ月くらいもっているのだとか。
花は暮らしの写し鏡とは、言い得て妙。目からウロコだよ! ちなみに、生花を長くもたせるコツは?
「水換えを、1日1回必ずすること。そのときに1mmカットして、切り口を新しくしてあげる。
あとは、暖かいところに置かないこと。お花が開きやすくなってしまうので、じつは、あまり日光にも当てないほうがいいんです」
花を生けてある花器も気になりました。どうやら花瓶ではなく、飲み物が入っているような小瓶が使われています。
小瓶に生けているのは、前述した1か月くらいもっているオーニソガラム
「もともとゴミになってしまう小瓶なら、飽きたらそのままさよならできる。その気軽さがいいんですよね。
とくに海外で売られているような、ジュースの瓶が好きで、集めています。
洋服のコーディネートをする感覚で、花と合わせることも。仕事では花の生け込みもしているので、いろいろな形や大きさのものを試しているんです」
習慣化の秘訣は、“いいもの”を使うこと選りすぐった大切なものと、ミニマルに暮らす熊木さん。植物のほかにもいくつかこだわっているものはあって、コーヒーも、そのひとつ。コーヒー屋の友人も多く、おいしいコーヒーには、ことかかないとか。
「山梨県のAKITO COFFEEや、先日オープンしたばかりのSniite、ONIBUSコーヒーといったお店から、豆を買っています。
いい豆を買うと袋を開けたとき、豆を挽くとき、飲むとき、どの瞬間も楽しいんですよね。だから、コーヒーを飲む習慣が、無理なく続きます」
コーヒーも、植物もしかり。習慣化のカギは、ひとえに、ひとつひとつの工程に楽しみを見出せるかどうか。
そのための仕掛けを、自らたぐりよせ、実践することもまた。
これからの暮らし
花屋に勤めながら、フリーランスとしての活動の幅も着々と広げつつある熊木さん。数年後には、地方へ移住することを視野に入れているようです。
「いつかは広大な敷地に庭を作って、そこで暮らしながら、植物の魅力を届けていきたいと思っています」
植物たちとの、オン・オフ問わない密接な暮らしは、この先も脈々と続いていきそうです。それはきっと、東京のちいさなワンルームを飛び出し、ところ変わっても。土地土地に、ぐんと根を張り、自分らしい暮らしをしかるべく実践していくことでしょう。
Photographed by Kaoru Mochida
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