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昭和の下宿屋さんの面影を残す築90年の古民家。時を戻したようなレトロ空間に癒されて(世田谷)|みんなの部屋

2021/01/17 12:30 投稿

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昨年秋に「みんなの部屋」に登場してくれた、築約90年の古民家をシェアして暮らす宮地さんと谷口さんを覚えているでしょうか?

今回訪問したのは、おふたりの隣に暮らす渡辺さんファミリーのお宅。壁を共有する2軒の家は、いわゆる昔ながらの長屋です。

お名前(職業):渡辺憲一さん(会社員)、幸代さん(会社代表)、お子さん1人
場所:東京都世田谷区代田
面積:60㎡+庭
リノベ費:約500万円
築年数:90年以上
住宅の形態:一戸建て(長屋)

この家は大正時代の末期に夫の憲一さんの祖父母が建てたもので、おばあさまがここで下宿屋を営んでいた時期もあったそう。

室内へ一歩入ると、柱時計がゆっくりと時を刻み、古き良き昭和の時代にタイムスリップした錯覚におちいってしまいます。

ご結婚前のデートは「早朝に待ち合わせて骨董市へ」が定番だったとか。

そんなおふたりのお気に入りがたくさん詰まった味わい深い住まいについて、お話を伺いました。

この家に決めた理由

ここは憲一さんの親族が代々暮らしたり、人に間貸ししたりしていた家ではありますが、渡辺さん一家はそれまで横浜のタワーマンションに暮らしていました。

「まだここを人に貸していたときに、老朽化が気になってリフォームをすることにしたんです。

そのときに耐震診断もしたところ、必要な耐震レベルをクリアしていないことが判明し、耐震工事+内装リフォームを行うことにしました」(憲一さん)

ベースになる図面は憲一さんが自ら作成して、昔の風情を残しつつ安心して暮らせる住まいに一新。

その後、隣の母屋(実家)に暮らしていたお父さまの体調や娘さんの小学校入学のタイミングなど、さまざまな要素が重なって、8年ほど前に幼いころからなじみのあるこの家へ一家で引っ越してくることとなりました。

お気に入りの場所

玄関の火鉢のまわり

憲一さんのお気に入りは、玄関にこぢんまりと置かれた火鉢のまわり。

「火鉢は下宿屋時代の店子さんから譲り受けたもの。休みの日に豆炭を燃やして、ここでのんびり過ごすのがいいんです」(憲一さん)

専用ポールに掛けて収納している趣味のロードバイクも眺められて、ここは憲一さんの特等席ですね。

火鉢は鉄瓶でお湯を沸かしたり、お餅を焼いたりすることも。

「これで黒豆を煮るとすごくおいしいんですよ」(幸代さん)

本来なら一酸化炭素中毒に気をつけないといけないのですが、「すき間風の入る古い家なので大丈夫なんです」とのこと。

狭さがかえって落ち着ける茶室

憲一さんと幸代さん共通のお気に入りは、玄関横の茶室です。

「3畳ほどの狭い部屋ですけど、落ち着きます」(憲一さん)

幸代さんはここでお茶のお稽古をすることもあるとか。

窓には遮音性の高いサッシではなく昔ながらの木製建具が使われているので、「窓のすぐ外を通る人の歌が聞こえてきて面白いですよ」と幸代さんは言います。

天井のちょうど階段に当たる部分には、照明を仕込んであります。

これは憲一さんのアイデアを形にしたものだそう。発想の豊かさにびっくりです!

下宿屋さんの名残たっぷりな“作業場”

場所は変わってこちらは2階の縁側。ミニキッチンというより自炊場と呼ぶほうがしっくりくる、下宿屋さんだったころの面影が残るスペースです。

家族で“作業場”と呼んでいるこの場所に鎮座するのは、写真フィルムを印画紙に焼き付けるのに使う引き伸ばし機。

「なんだか落ち着くんです」というこの場所は、カメラや写真撮影が好きな憲一さんが趣味に没頭できるスペースです。

縁側に面した和室はご夫妻の寝室です。

子ども時代に実家である隣の母屋に暮らしていた憲一さんは、日当たりのいいこの縁側が心地よくて、よくこの部屋を訪れていたとか。

「夫や娘の姿が見えないと、よくここの縁側にいたりしますね」(幸代さん)

残念なところ

ひとりになれる場所がない

「廊下がなく、部屋と部屋が直接つながる昔ながらの間取りなので、わが家は完全にひとりになれる部屋がないんです」(幸代さん)

寝室には中学2年生の娘さんの部屋を通らないとアクセスできず、「欄間で上部がつながっているのも嫌がっています(笑)」(幸代さん)

夏は暑くて冬は寒い…

「昔の家なので、やっぱり夏は暑くて冬は寒いですね。けれどとてもよく眠れて、目覚めのいい家でもあります」(幸代さん)

特に夏は、キッチンがものすごく暑くなるそうですが、暑さ寒さは納得のうえ!と、それほど「残念」とは思っていない様子のおふたりを見て、安心してしまいました。

お気に入りのアイテム

1950年代のスーパーセミイコンタ(スプリングカメラ)

中学生の頃からカメラ好き、写真好きという憲一さん。

たくさんお持ちのカメラのうち、ジャバラでレンズを本体に格納できるスプリングカメラのスーパーセミイコンタが特にお気に入りとか。

「中判(6×4.5cm判)のフィルムで撮れるのにポケットに入れて持ち運べるんです。よく作られているなぁと思って」(憲一さん)

撮影は別のカメラだったそうですが、憲一さんが撮影した写真(ベタ焼き)も見せてもらいました。

被写体はみなとみらいの風景、幸代さん、娘さんーー。

「祖父母を写したものもありますね。撮影は今も続けているんですが、最近はみんなマスクをしているのでちょっとつまらないかな」(憲一さん)

金具のデザインが気に入った二本松箪笥

寝室に置かれた箪笥は、おふたりの行きつけの「アンティーク山本商店」で出会ったもの。幸代さんのお気に入りのアイテムです。

「ここで下宿屋を営んでいた夫の祖母が福島県の二本松の出身で、お店には全国の箪笥が並んでいるんですが、二本松のものがいいなと思って。

見た目も洗練されていていいですよね」(幸代さん)

「鶴と亀があしらわれた金具のデザインも気に入りました」(幸代さん)

「冠婚葬祭の行事などで近所の人がよく出入りしていた昔は、家に鍵をかけずに、貴重品を入れた箪笥に鍵をかけていたんですよね」(憲一さん)

料理研究家から引き継いだ国籍不明の椅子

もう1軒、おふたりの行きつけのお店で、お店の方とも懇意にしているのが、葉山にある桜花園

そこで2脚購入した椅子は、当初座面の布地がボロボロだったそう。三宿のザ・グローブ アンティークスで調達した布地で、憲一さんがきれいにリメイクしたというから驚きです!

リメイク前の椅子(写真提供:渡辺さん)

「年代や国籍は分からないんですけど、料理研究家のかたがお持ちだったもので、娘さんが桜花園に出されたものなんです。

リメイクしたあとに写真を撮って桜花園に送ったら、娘さんに転送してくれたみたいで。『もとの姿に戻りました』ととても喜んでもらえました」(幸代さん)

骨董市で2回出会ったコーヒーテーブル

「天板が引き出せるこのコーヒーテーブル、骨董市で一度見かけて、1万円を超えるのか……とそのときはスルーしたんですが、別の骨董市でまた見かけたんです。

2回会ったし買ってほしいのねと思って、結構重いんですけどかついで帰りました。

外国製のものということしか分からないのですが、色と柄がお気に入りです」(幸代さん)

暮らしのアイデア

パッと買わない

渡辺家のダイニングテーブルは、この家を改修する前の床の間に使われていた板に脚をつけてもらったもの。天板の傷や染みも、家族の年輪のような味わい深さいっぱいです。

「家具も生活雑貨も、必要になったからと量販店でパッと買わないようにしています。

たしかに量販店ならすぐに買えて安くて便利ですが、コスパや効率優先の暮らしは私たちにとってはつまらないんです。顔を見て、売っている人と話して、モノの物語をきいて、それを譲っていただくのはとても楽しいことですよ」(幸代さん)

この家に似合うもの、本当に気に入るものを、じっくり吟味してそろえているからこそ、このレトロな趣たっぷりの住空間が完成したのですね。

夜や休日はレコードのジャズが流れる渡辺家のダイニング。アンプは憲一さんの手作りです。

「ジャズ喫茶への憧れがあったことや、アナログレコードをいい音で聴きたいとの思いから、比較的自作しやすい真空管アンプの製作にチャレンジしました。

製作後も真空管やその他の部品を取り替えることで、自分好みの特性を出せるのが既製品にはない楽しみです。その一方で、なかなか思い通りに行かないことが奥の深いところ」(憲一さん)

すっと入ってくるお気に入りを見つけて、実際に使う

おめでたいモチーフである鹿が描かれたこちらの漆器は、おふたりが結婚したときの引き出物。京都の老舗漆器店象彦のものです。

「ふたりとも大量生産品が好きではないので、木地の本漆のものがいいねって」(幸代さん)

精工舎の柱時計「小角丸」は八日巻きで、毎週日曜日の夜に憲一さんがぜんまいを巻きます。

持っている腕時計もほとんどが手巻きの機械式。便利さだけを求めず手のかかることを楽しむところは、おふたりの共通する価値観のようです。

「古いものを購入するときは国とか時代にはこだわらず、しっくり来るというか、すっと入ってくるものを自分の直感にまかせて選んでいます」(憲一さん)

「自分の肌に合うものを見つけて、実際に使うということも意識しています。お気に入りの古い器にお菓子を入れるだけでも全然違うので」(幸代さん)

これからの暮らし

「今後は、家の外回りに手を入れたいですね。老朽化した外壁に応急処置でトタンを張っているところもあって……。

建築当時のイメージに戻したいです。街並みもよくなるように」(憲一さん)

「いずれ、古い家に手を入れて再生する仕事ができたら」と考えているという憲一さん。

一方の幸代さんも、古いもの好きが高じて和骨董の販売などを手がける仕事をはじめるべく、ただ今準備中。

取材中、長屋のお隣に暮らす宮地さんが顔を見せてくれました。

「宮地さんと谷口さんに素敵に住んでもらえてうれしいです。大家である夫の母も喜んでいます」(幸代さん)

リフォームをして生まれ変わったこの家を見た憲一さんのお母さまは、「私がお嫁に来たときの建具に戻ってるわ」と驚かれていたそう。

人好き&世話好きで、この家で下宿屋さんを営んでいたおばあさまの時代のように、この家が今後、古い物を愛する人が集うにぎやかな場になりそうで、楽しみです!

Photographed by Kosumo Hashimoto

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