人生の中でも、そんなに多くない大きな買い物のひとつだからこそ、こだわりにこだわり抜いて、なるべく失敗や後悔のないように建てたいと思う人は少なくないでしょう。
今回取材したのは、まさにそんなこだわりをもって建てた、中村さん家族が住む2階建ての一軒家。
名前(職業):中村憲一朗さん(デザイナー)、雅代さん(デザイナー)、たつきくん、かのこちゃん場所:奈良県
面積:建築面積 72.93m2 一階床面積 54.51m2 2階床面積 46.99m2 駐車場面積 18.42m2 床下収納面積 5.29m2 述べ床面積 101.50m2
建設費:非公開
築年数:築5年
住宅の形態:一軒家
建築家さんのもとに何度も何度も足しげく通い詰め、建てたい家のイメージを伝えるための分厚い冊子まで作成し、一年がかりで建設したという中村さん宅。
家を建てる予定の読者は必見の、暮らしのアイデアにあふれた空間をご覧あれ。
長女かのこちゃん、長男たつきくん
お気に入りの場所
2階の回遊型リビング2階のリビング
建築家の方に、できればリビングは2階にして、走り回れる回遊型にしてほしいと、最初の打ち合わせからお願いしていたと話す中村夫妻。
「自然景観豊かな場所に家を建てたいと思っていたのですが、そこにこだわった結果、ならびで一番北側の土地になってしまい、リビングが1階になると昼間から暗い印象の家になってしまうなと。
水回りの関係などで無理な場合は仕方ないと思っていましたが、建築家の方が希望通りの間取りで叶えてくれたので、日中は自然光だけで十分明るく快適です」(憲一朗さん)
「家を建てる参考に、いくつかの家を見学に行ったとき、どこの家も壁が多くて部屋が狭く感じたんですよね。それで壁を極力つくらずに境界線があいまいな家づくりをしようと思って。
リビング、仕事部屋、キッチンを走り回って回遊できるロの字型にしたことで、実際よりも広く見える開放的な空間になったかなと思います」(雅代さん)
料理をしているときや仕事をしているときに、子どもたちの様子を逐一確認できるのも、おふたりのお気に入りポイントなのだとか。
緑を望めるデスクそんな回遊型スペースの中でも、憲一朗さん一番のお気に入りスペースは緑が見えるデスク。
「一番お気に入りの眺めが目に入る場所にパソコンを置かせてくれたので」(憲一朗さん)
木と空しか見えなくなるベランダ一方、雅代さんの一番のお気に入りスペースは、リビングの横に位置するベランダ。
「ここにごろんと寝転ぶと、ちょうど空と木の緑しか見えなくなるんですよね」(雅代さん)
夏にはプールを出して水遊びをすることもあるそうで、たつきくんとかのこちゃんにとっても楽しいスペースになっているようでした。
サッカーもできる長い廊下もうひとつ、たつきくんとかのこちゃんが、ステイホーム中にも思い切り体を動かせたスペースが、一階の廊下。
「部屋と廊下の境界線もあいまいにしたことで、廊下も遊び場や勉強スペースとして使えるようにしています。
子どもがもう少し大きくなったら一階の子ども部屋を出入りできるようにする予定です」(憲一朗さん)
廊下のディスプレイにはチェコ旅行の土産や小物がずらり
この部屋に決めた理由
昼前に到着した取材班に「良かったら、パスタ食べます?」と、昼食をふるまってくださいました
いまの家を建てる前は、ご夫婦で、憲一朗さんの実家に住んでいたそうです。
「僕の両親がチェコやシカゴで暮らしていたときに『家を見ておいて』と言われ、暮らしていたんですけども。
もともと家は建てたいと話していたので、両親がそろそろ帰ってくるなという2年ほど前から家づくりに動き始めました」(憲一朗さん)
土地は不動産会社に相談して、すぐに見つかったとのこと。
「どちらかの実家に近い場所に住もうと話をして。
いろいろ見た結果、僕の実家に近い土地候補の中から、一番自然景観が豊かな場所に決めました」(憲一朗さん)
実家の近くで大体の土地勘があったことから、そこまで悩まずにすんだのだとか。
残念なところ
収納が少ない引っ越し後、憲一朗さんがDIYにハマったのが予想外だったと話す雅代さん。
「大量の木材が出るのは思ってもいなかったことで(憲一朗さんをチラリ)。
電動工具も一緒に収納するための物置をつくるかと見積もりをとったら、なかなかなお値段で……。どうするか悩み中です」(雅代さん)
現状は、未使用の子ども部屋にどうにかおさめているそうです。
その他の荷物は、床下に収納しているとのこと。
ここに収納スペースをつくったのは、相談した建築家さんのアイデアで、建築家さんのご自宅も同じ造りにしているのだとか。
ほこりがたまりやすい「好きでそうしたところではあるんですが」と雅代さんが話してくれたのは、壁の張り出し部分。
「いまミニカーを置いている壁の張り出し部分は、わたしが日本家屋の考え方が好きだと伝えたら、建築家さんが提案してくださいました。ほこりがたまりやすくて、今ではこういう張り出しがある家は減ってきているそうなんですが。
住み始めてみたら……、やっぱりほこりは溜まりますね(笑)」(雅代さん)
お気に入りのアイテム
建築家さん御用達ブランドのカーテン「建築家さん御用達の、オーダーメイドのカーテンブランド・ファブリックスケープで購入したカーテンは、カーテンっぽくないところが気に入っています」(雅代さん)
「つまんだようなヒダがあるわけではなく、ただヨレヨレしているだけの布なので、夕方になると周囲の木の影が、スクリーンみたいに布全面に映ってすごくキレイなんです」(憲一朗さん)
チェコで購入した精度の高いおもちゃまだ憲一朗さんのご両親がチェコに住んでいたころ、ご夫妻で何度かチェコに遊びにいったそうで。
そのときに買ったチェコのおもちゃが夫婦ともに大のお気に入りなのだとか。
「組み立てるのはめんどくさいんですけどね。チェコの人の手ってめちゃくちゃでかいじゃないですか。なのに、こんな繊細なつくりになっていてすごいなぁって出す度に思うんです」(憲一朗さん)
「現地で、わたしがすごい欲しいって言って(笑)。
日本では買えないものだって気がしたし、そのときはまだ家族が増えるかどうかわからなかったので、夫婦で遊ぶ用に買いました」(雅代さん)
そのほか、趣味のアイテムがたくさん!その他にも、多趣味なおふたりならではの遊び心のあるアイテムが所狭しとあふれている中村家。
釣りが趣味の憲一朗さんお気に入りの釣り具や……
雅代さんが世界中から集めたコースター、岡本太郎のオブジェなど、紹介しきれないさまざまなアイテムたちが、空間を賑やかに彩っていました。
「コースターは、わたしが自分で持って帰ってきたものもありますが、夫のご両親が海外で見つけては『あったわよ』と送ってくださったものもあります」(雅代さん)
コースターはイラストを描く際のモチーフにすることもあるそう
取材の合間に、デスクで、釣りのカタログを制作していた憲一朗さん。おふたりとも、趣味をそのまま仕事にも活かされているようです。
手触りが楽しいお皿たち趣味が仕事に活きたといえば、と、お皿も出してきてくださいました。
「知人の紹介で、週末だけ自宅で、セレクトしたお皿を販売されている『陶屋なづな』に通うようになったのですが。
ざらざらしていたり土の風合いを感じたりする個性のあるお皿を好きで買うようにしていたら、思わぬ撮影で、食器類が役立ったこともありました」(雅代さん)
ご馳走していただいたパスタも、素敵なお皿に盛り付けられていました
DIYしたテーブル台とテーブルお子さんが生まれてから憲一朗さんがDIYしたというテレビ台とテーブルは、高さやサイズ感、使い勝手も抜群で、ご夫婦のお気に入り。
キッチンや玄関のシューズボックスも、家具屋「パーマネントファニチャー」の友人に依頼したオーダーメイド品だそう
家具もオーダーメイド品が多い中村さん宅。
“暮らしにフィットする既製品がなければ自分たちでつくればいい”と思うのは、ともにデザイナーであるおふたりにとっては当たり前のことなのでしょうか。
ステイホームで大活躍したトランポリン「基本デスクワークなので、姿勢が悪くなりがちで。
その改善にトランポリンがいいと聞いて購入したのですが、これがステイホーム中の運動不足解消に大活躍してくれました」(雅代さん)
暮らしのアイデア
建築家さんにイメージを伝えるブックを作成家を建てる土地はスムーズに決まったものの、そのあとの施工にものすごく時間がかかったと話す中村夫妻。
家を建てる際のアイデアも聞きました。
「まず、建築家の知り合いがいなかったので、とにかく調べて、3名の建築家さんにお会いしました。
最終的に、長方形の2階建てという四角い箱のイメージから、2階になる長方形の部分だけ90度回転させることで、車が濡れないサンルーフやデッキを効率よくつくれるという今の間取りをご提案くださったakka一級建築士事務所の永井さんにお願いしました。
そのときの打ち合わせに持っていった冊子については、今でも永井さんとお会いするときには必ず話題に出ます」(憲一朗さん)
「せっかく建てるのなら絶対に後悔ないようにしたいという、わたしの執念のこもった冊子なのですが(笑)。
内装で気になるものがあればコピーして貼って、夫婦それぞれで、これは好き、これは嫌いなどと書き込んだものや話し合いの経緯、家に置きたいチェコのお土産やポスターの写真などもすべて貼りこんでまとめた冊子を持っていきました」(雅代さん)
建築家の永井さんからは「ここまで分厚い冊子をお持ちいただくことはなかなかないことで、だからこそ家づくりへの思いが伝わりました」とお話しいただいたそうです。
家づくりの打ち合わせに行く場合、このように好き嫌いや理想の内装を視覚で伝える冊子などを用意すると、イメージがスムーズに伝わりやすいかもしれません。
ベニヤ板が大活躍! 予算内でいい感じに「壁や床などの材については、色味も含めバラバラでいいと最初から割り切っていました。
材を統一すると予算オーバーになるので、もともと部屋に置く予定のもの含め、ごちゃごちゃしていても、かわいく見えるように調和していればそれでいいかなと。
そんな風にお伝えした結果、建築家さんが工夫してくださって、壁はベニヤ板の上からペンキを塗ることで、一見コンクリート壁に見えるように仕上げてくださったり。ベニヤ板は、かなり多用いただいたかなと思います(笑)」
家づくりを予算内に収めるため、どこを妥協するかと悩んだ場合に、参考になりそうなエピソードです。
用途に合わせて、天井の高さを調整リビングの仕切りをなくす以外にも、部屋を広く見せるためにしたという工夫が天井にありました。
「テレビを見るリビングなどは落ち着けるように天井を低くする一方で、食事をするダイニングは開放感を感じられるように高くしていただいており、空間の高さに差をつけました。
この差がなければ、2階のスペースは、もう少し狭く見えていたのかなと思いますね」(憲一朗さん)
柔軟に家に沿うカーテンレール家の各所に設けられたカーテンレールは、ワイヤーや釣り用の糸を柔軟に用いて、家のラインに沿うように取り付けられていました。
これは建築家さんと「ファブリックスケープ」さんに相談したところ、提案いただいたものだそうです。
転落防止の透明パネル室内の階段まわりやベランダまわりの透明パネルは、お子様が隙間から落下するのを防ぐため、憲一朗さんが、自身で取り付けたもの。
「ネットをかけると雰囲気が大きく変わってしまう気がしたので、透明のパネルにしました。穴をあける道具さえあれば簡単にできるのでおすすめです」(憲一朗さん)
透明パネルはコーナンで購入したもので、お子様が大きくなったら取り外す予定とのこと。
これからの暮らし
「片づけたいですよね、木材と電気工具を(笑)。
あとは庭にウッドデッキをいれることで、家族でまったり過ごせるスペースにできたらいいなと。焚火とかしたいですね」(憲一朗さん)
おふたりがこだわりにこだわって建てた家は、スペースの境界線が曖昧だからこそ、子どもの成長などに合わせてつくり変えていくことができる、余白と遊び心が散りばめられた空間でした。
同じく、気分やタイミングによって柔軟に役割を変えていけるような家づくりをしたいとお考えの方は、ぜひ、壁も仕切りも極力なくした、境界線のない部屋づくりを参考にしてみてはいかがでしょうか。
まずは好き嫌いをまとめた冊子を、一緒に暮らす人やこれから住む予定の人と作ってみるだけでも、お互いが暮らしに求めることや価値観を分かり合えそうだと、生活のヒントをもらえた取材となりました。
Photographed by Atsushi Kitao
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