そんな風に思わせてくれたのは、アパレル勤務の加瀬谷さん。かねてからの念願かなって手に入れたのは、洋服で培ったバランス(そしてアンバランス)感覚と作法にのっとってカスタムした相棒。
行動範囲をぐーんと広げ、まだ見ぬ場所へ。上京して7年目にして、これからやっと、東京をくまなく発見していくところ!
お名前(職業):加瀬谷 純奈さん(Pilgrim Surf+Supply 事務アシスタント)年齢:25歳
愛車:Rivendell Bicycle Works「Clem Smith Jr」
価格:約25万円
自転車歴:2ヶ月
月間走行距離:約440km
親交のあったBLUE LUGで、とっておきの一台を
加瀬谷さんが2ヶ月前に手に入れたばかりのぴかぴかの愛車は、「同じ職場に自転車通勤者が多く、『わたしもいずれは』と思っていた」のがまわりまわって、ようやく手に入れた一台。
とりわけユニークな動機というわけではありません。「買うならいいものを」と考えあぐねにあぐねてしまったぶん、ハードルばかりが高くなって、なかなか購入に至らなかった。というのにも、さもありなん、と深くうなずいてしまうところ!
「きっかけはコロナでした。もっぱら人混みを避けるようになって、電車にも極力乗りたくなくて」
くすぶっていた物欲をコロナに後押しされ、えいや!と購入に踏み切ったというわけです。
たよりにしたのは、言わずと知れたサイクルショップ「BLUE LUG」。ココにお願いすればまず間違いないと、こだわり派の初心者から勝手知ったるツウまでが、こぞって訪れる名店です。
じつは、当時加瀬谷さんの勤務先だった(いまは本社勤務)Pilgrim Surf+Supplyの店舗では、BLUE LUGのポップアップイベントやワークショップを定期的に行っています。その縁で顔見知りになったBLUE LUG上馬店のスタッフに、カスタムをお願いしたのだとか。
自転車のカスタムは、いわば、洋服の着こなし
「勤務先の店舗ではSURLYの所持率が高かったので、違うメーカーのフレームにしたかったんです」
天邪鬼な一面をのぞかせつつ選んだのが、カルフォルニア州サンフランシスコ郊外に工房を構える自転車ブランド<Rivendell Bicycle Works>。
「とくに気に入っているのは、ママチャリのようなフレームに太めのタイヤという、ミスマッチ感」
わかりやすく洗練されたカッコよさでも、とっつきやすい可愛さでもない。万人受けを狙うのではなく、わかるひとにはわかる的な選択を、あえて。そこにはさらに、こんな理由もありました。
「一見すると野暮ったい自転車に、女子が乗る。そういう意外性も、面白いかなって」
たしかに、カーキ色のフレームも、BROOKSの革サドルも、吸盤型のスパイクがついたMKSのペダルも。徹頭徹尾、(彼女の言葉を借りると)女子っぽくありません。とりわけ目を引くハンドルには、なにやら見慣れない布が巻かれ、さらにそのうえから、ぐるぐると糸が巻かれています。
「通称“焼き豚巻き”と呼ばれています。本来ヨットセイルに使われる補修糸をアレンジした、BLUE LUGらしいカスタム」
聞きながらに、合点がいきました。
なるほど彼女にとって、自転車のカスタムは、いわば、洋服の着こなしにおなじ。女の子がぶかぶかのメンズ服を着るように、太めのタイヤや焼き豚巻きを選ぶ。初めて自転車を選ぶ彼女が、さらり玄人目線なカスタムをやってのけたのは、ひとえに、アパレル畑で培った感覚のたまもの。なのかも!
電車は、行動範囲を狭める?
「地元秋田から上京して7年。東京について、あまり知らないことに気づきました」
打ち明けるように、そう話してくれた加瀬谷さん。電車文化である東京は、どこへでも簡単に移動できてしまいそうに見えて、実際のところは「行動範囲を狭めてしまう」、そう実感しているようです。
自転車を手に入れたいまは、一転。毎日片道30分の通勤はもちろんのこと、オフの日には、これまで行くのが億劫だった場所にも、無理なく足を運ぶことができているのだとか。
「最寄り駅まで電車で行っても距離があるカフェに行ってみたり、レインボーブリッジを渡ってみたり」
電車に乗っていては、うっかり見過ごしてしまう景色や場所も。ひとたび自転車にまたがれば、びゅんと身軽にアクセスできたりする。たかが移動手段ひとつ、なんて侮れません!
自分色の愛車にまたがって、東京を発見する
「フレーム自体が高額だったので、まずはと、できる範囲でカスタムしました。ゆくゆくは、もっとタイヤを太くしたり、ホイールに色を入れたりしたいですね」
“彼女らしさ”が、すでにいたるところに見え隠れする加瀬谷さんの自転車。アパレル畑で培ったバランス感覚と天邪鬼な感性を武器に、ますます彼女色に染まっていく愛車にまたがって。東京のまだ見ぬ一面を、きっと、ぐんぐん開拓していくに違いありません。
Photographed by Masahiro Kosaka
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