3階もおなじく統一感のあるキッチンダイニングになっていて、奥のガラスの渡り廊下を挟み、大きな本棚と作業台がある書斎。そこからルーフトップテラスに出られます。
お名前(職業):山之内 瑠里(Mr. & Ms. Cat 共同CEO 兼 ブランドディレクター)
山之内 淡(建築家、Mr. & Ms. Cat 共同CEO 兼 クリエイティブディレクター)
場所:東京都世田谷区成城
面積:92㎡
家賃:非公開
築年数:築13年
そんな風に、山之内さん夫妻が暮らすのは、ひとひねりある構造の3層メゾネットの家。そして、2匹の猫も、生活をともにしています。
にもかかわらず、話を聞きつつ3階に上がるあいだ、ペットの生活感を感じない……?
そこには、建築家である淡さんと、猫を愛する瑠里さんの“得意”がじつにいい塩梅でまじりあったゆえの空間がありました。
この部屋に決めた理由
猫は、可愛がられるためにそこにいる?こちらはアアルトちゃん。極度の人見知りのミースちゃんは、最後まで姿を見せてくれませんでした……(笑)
アアルトちゃんとミースちゃん、建築界の巨匠になぞらえて名付けられた2匹の猫と暮らすふたり。猫との暮らしは7年目。
その楽しさについて聞いてみると、いわく「人間と時間の感覚などが違う生物だからかもしれません」と淡さん。
「古くから人間と暮らしてきた生き物の中で、猫って、目的を持たない生き物なんですよね。
犬は狩猟だったり、鳥は伝書だったりと、それぞれに仕事を与えられてきたわけですが、猫の仕事って、強いていうなら可愛がられることくらいだと思うんです。
猫は人間と寿命も違うし、空間の捉え方も価値観も違う。
人間どうしの関わりだけでなく、ひとと違う感覚を持つ猫と暮らしていると、より広い、おおらかな視野が持てるようになる気がします」(淡さん)
奇跡的なめぐり合わせでそんな猫を愛するふたりが求めた住まいの条件は、猫と暮らせる建築家設計物件。
シンプルなようでいて、じつはこの条件にあてはまる物件はかなり限られているそう。探すだけでも骨が折れたとか。
「東京で探すと数件しかヒットしないうえ、空きが出ても、倍率が高すぎてすぐに埋まってしまいます。
そんななか巡り合ったのが、この場所。部屋の空きが出た30分後に、運良く見つけ、もちろん即決でした」(淡さん)
お気に入りの場所
オン・オフ問わず居心地のよい書斎ふだんから家を仕事場にしている淡さんがもっとも長い時間を過ごすのは、3階の書斎スペース。
「とにかく本に囲まれていたいという想いがあって」と話すとおり、国内外の建築やデザインにまつわる本がところせましと収納されて、その様子は整然そのもの。まるで店舗のディスプレイのようで、圧巻です!
「基本的にはオンオフ問わずここに居ることが多いです」(淡さん)
書斎は会社の事務所も兼ねていて、本棚の裏には、最大4人が作業できるようPCやガジェット機器といった仕事の必需品がそろっています。
打ち合わせ用ガラステーブルのチェアには、「座りやすくて、手ざわり感がある」という理由でMaruniの「Hiroshima」をセレクト。
座り心地を求めたオフィスチェアって、不格好で大ぶりなものが多いなか、こちらはスマートでコンパクトな逸品です。
猫の生活感を、美しく消すいっぽう瑠里さんは、2階で過ごす時間がもっとも多いとのこと。淡さんとおなじく自宅で仕事をしますが、ここが仕事部屋に。
メゾネットの持ち味を生かして、生活空間をわけているようです。
そんな2階スペースをよくよく見てみると、見慣れない家具がそこかしこに。
猫用ハウスは籐製のバスケット、爪研ぎは「山崎実業」と、どれもこれも一見するに猫グッズとはわからないものばかり。
「猫用のアイテムって、イラストが描かれていたり、デザインがポップすぎたりして、どうしても部屋で浮いてしまいます。そのため、部屋になじんで、猫も気に入ってくれそうなプロダクトを選ぶようにしています。
とはいえ、今の家は、3階までの階段やガラスの渡り廊下など、猫が遊んだりくつろいだりできる場所がたくさんあるので、猫用のプロダクトは少なく済んでいます」(瑠里さん)
“いわゆる”なアイテムではなく、部屋の材や色に合わせたモノをストイックにセレクトすることにより、猫の生活感を見事に消しています。
これなら、猫の暮らしやすさも、部屋の統一感も、どちらも犠牲にしなくて済む!
お風呂には、まさかのアレが!︎瑠里さんのもうひとつのお気に入りの場所は、お風呂。
それもそのはず、ドアを開けたさきには、広々とした浴室と大きな浴槽。
まるで旅館やホテルにワープしてしまったかのような錯覚に陥っていると、「じつはジェットバス機能付きなんです!」と瑠里さんの言葉にノックアウト!
「このジェットバスに入りたくて、引っ越し初日を待ちきれませんでした……!」(瑠里さん)
お気に入りのアイテム
ガラステーブルを15mmにした理由3階の書斎は、淡さんのこだわりが色濃く映し出されています。ひときわ存在感を放っているのは、丹精なルックスのアルミ製チェア。
「僕が敬愛する建築界の巨匠フランク・ゲーリーと、アルミ加工技術に定評のあるエメコが共作した『スーパーライト』という椅子です。座ると、不思議とパワーが湧いてくる気がします!」(淡さん)
聞くと、受注生産型でデリバリーには7ヶ月もかかったのだとか。イタリアでアルミの削り出しからおこなわれ、はるばる海を渡ってこの部屋にやってきたと思うと、ロマンでしかないな〜!
「書斎のガラステーブルは、僕が設計しました。
天板のガラスは、5mm〜8mmが通常のところ、厚めの15mmに。手で触れたときの質感が違うんです。
先ほどの『スーパーライト』もしかりですが、暮らしのなかにあるモノだからこそ、“手触り”を重視したいとは、いつも思っています」(淡さん)
“手触り”へのこだわりは家具だけにあらず、使う文具やノートといった仕事道具も、必ず自分の手で質感を確認してから購入するとか。
猫モチーフに、目がなくて「猫モチーフのプロダクトやアイテムに目がなくて、ついつい集めてしまいます」(瑠里さん)
とは言うものの、そこかしこに置かれたアイテムは、どれも部屋の内装やインテリアとなじみよいミニマルなものばかり。
「『ALESSI(アレッシィ)』というイタリアを代表するデザイン・プロダクトブランドのキャットボウルと、ドイツの老舗ブラシメーカー『REDECKER(レデッカー)』のキャットブラシは、わたしも猫たちもお気に入りです」(瑠里さん)
ワンポイントの猫モチーフが効いたキャットボウルは蓋付きで、閉じてしまえばオブジェのようなルックスに。
台所用品などを取り扱う「レデッカー」のキャットブラシは、持ち手の猫の刻印が控えめながらとってもキュート!
じつはこうした猫モチーフのアイテムや猫用グッズのなかには、瑠里さんが現在準備中のセレクトショップMr. & Ms. Cat『THE SHOP』にて展開予定のプロダクトも。
じっさいに暮らしのなかで使ってみることで、ひとと猫両方の目線で心地よいものを、ひとつひとつ厳選しているというわけです!
残念なところ
30㎡の広々テラスが、使えない?3階の書斎からは、およそ30㎡のルーフトップテラスに出られます。広々していて、贅沢だな〜。
なんて思っていたのもつかの間、「まったく使ってないんです」と意外な言葉が。
「住宅街なのに、周りから丸見えの設計になっていてプライバシーがないんです。コロナの影響で家にいる時間が増えただけに、とても残念。低い柵しかついていないので、猫を出してあげるわけにもいかないですし……」(淡さん)
「僕なら、柵でテラス全体を覆って、開放感はそのままにプライベートな空間にするのに」と自身が建築家ゆえイメージは描けるものの、そこは賃貸物件。内装・外装はいじれません。仕方なく、いまは家庭菜園を楽しむにとどめているようです。
暮らしのアイディア
安心安全こそ、猫ファースト冒頭でも触れたとおり、猫ならではの空間の捉え方や暮らし方を間近にできることが、猫と暮らす醍醐味のひとつ。
同時に、安心安全に暮らすには、工夫や気遣いもそれなりに必要です。
「うちの猫たちは、グリーンを飾ると葉っぱを食べてしまうので、ドライフラワーを飾っています。
また、花瓶を倒してしまうこともあるので、お水はできるだけ少なめに、猫が登らない場所に置いています」(瑠里さん)
おなじ理由で、絵や写真作品の額装は、ガラスではなくアクリル板に統一。
「棚にならべる本やオブジェも、できるだけ奥の方に収納したり、あまり隙間をあけないように意識しています」(瑠里さん)
そうした工夫は、6年以上つづく愛猫たちとの生活のなかで、しかるべく、徐々に学んできたこと。
淡さんはというと、「モノ選びや配置などは、妻に任せてしまっています。僕がしていることと言えば、『猫の呼びかけに、いつでも直ぐに駆けつける』ことくらいでしょうか(笑)」。
睡眠時間が極端に短い(いつも3時間ほどしか寝ないとか!)淡さんだからこそ可能な、猫ファーストな心がけにも脱帽です!
これからの暮らし
「Cat Scale(猫寸法)」を採用した戸建住宅「THE HOUSE」の模型
愛猫家のためのライフスタイルブランド「Mr.& Ms. Cat」を主宰するおふたり。
愛猫たちの肖像画展「The Meowseum」を皮切りに、今後は、猫関連のプロダクトをセレクトするショップ、猫とスタイリッシュに暮らせる持続可能な戸建住宅、などのコンテンツをぞくぞくとローンチ予定。
「じつは、ここでの暮らしは計画中の戸建住宅の構想のためでもあります。
じっさいに使ってみたプロダクトをショップで提案していくのとおなじように、住まいも、猫たちと暮らすことで見えてくる課題を参考に形づくっていきたいと思っているんです」(淡さん)
暮らしのすべてをかけた、壮大な実験。
ともすれば、生活は仕事のためになり、息が詰まってしまいそうなもの。
にもかかわらず、ふたりの暮らしがいたって喜びに満ち満ちているのは、きっとそこに、猫がいるから。そう思わずにはいられません。
Photograohed by Kosumo Hashimoto
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