素人には手が出しづらいイメージのある「DIY」。だけどもともとは「Do It Yourself」(自分でできることは自分でやろう)の意味があることば。

第二次大戦後のロンドンで、廃墟に立った元軍人たちが「何でも自分でやろう」を合言葉に、町の再建に取り組んだのがはじまりとされているんだとか。

多分本来は専門的な知識が必要とか、難しい技術を要求されるようなことではなくて、自分の「あったらいいな」に素直になるための合言葉なのかも。

DIY可能な賃貸に引っ越し

2020年2月、それまで恋人と半同棲していた1Kの狭いアパートを離れて、築40年を超える団地に引っ越しました。多少ボロいですが、2LDK、家賃50,000円以下、DIY可能の条件に惹かれ、即入居。

なにより決め手だったのは、これまでの賃貸物件ではできなかったDIYができる、ある程度の自由度があるところ。引越し後すぐに、念願のセルフリノベーションに挑戦しました。

アドバイスをくれたのは、一級建築士の井澤雄祐さん。建築デザイン事務所「つなぐデザインオフィス」で、個人宅や店舗などのデザインから施工までを手がけています。

まずは井澤さんにやり方を教えてもらい、その後同居人とともに作業を進めていくことに。

キレイに仕上げるための下準備

今回やってみたのは、LDK(4畳+6畳)の天井と壁と、寝室(6畳)の天井の塗装。

早速ペンキを使って豪快にやっていきたいところですが、まずは部屋が汚れないようにするための下準備(養生)から。

マスキングテープマスカーで、床や窓、長押などの塗装しない箇所を覆っていきます。これで、上からペンキを塗っても施工後にテープを剥がせば、その部分のペンキがキレイさっぱりなくなるというわけ。

マスキングテープを貼った上にマスカーを貼ると、作業後キレイに剥がせるとのこと

地道でめんどくさい作業なので、だんだんとやっつけ仕事になっていく中、井澤さんから衝撃の一言が……

「実はこのマスキングテープが、塗装で一番大事な工程なんですよね〜」(井澤さん)

(左)井澤さん、(右)筆者 (言わずもがなですが)

そう言われて井澤さんの貼ったマスキングテープと私たちが貼ったマスキングテープを見比べてみると、無垢材とベニヤ板ぐらい違う……。

「覆えればいいだろう」くらいの適当な気持ちでやっていたがために、重ねて貼ったり、壁紙にテープがはみ出ていたり。些細なことのように思っても、こういった積み重ねが実際の仕上がりに大きな影響を及ぼしてくることになるとは……。

やってみてわかったマスキングテープの重要性は、また後ほど。

根気と体力で塗ります

下準備が完了したら、塗装に取り掛かります。

今回用意した材料は、以下の通り。

室内かべ用塗料3L(2缶)…計12,684円(amazon価格税込)
水性塗料対応ハケ………………1,243円(amazon価格税込)
・ローラーハンドル(2個)…………計1,160円(税込)
・ローラー受け皿175mm……………382円(税込)
水性カチオンシーラー4L……4,762円(amazon価格税込)
・ローラー2P…………………………………448円(税込)
・ローラーつぎ柄60cm………………492円(税込)

合計:21,171円(税込)

ペンキ自体は漆喰や珪藻土に比べるとはるかに安価ですが、塗装する場所によっては下地も必要になってきたりして、揃えなければいけない材料は多めでした。(漆喰の場合、漆喰とコテとコテ台さえあればだいたいOK)

ちなみにペンキは、壁紙の上から塗れるタイプのものをチョイス。壁紙を剥がす工程が省けるので楽チンです。

カチオンシーラーで下地を作る

ペンキまでの道のりは長い

天井は凹凸のあるツルッとした素材だったため、塗装が剥げないように下地としてカチオンシーラーを。

カチオンシーラーとは、お化粧でいうところのBBクリームみたいなもの。室内壁にこびりついたシミやタバコのヤニのにじみ止めになってくれたり、あとから塗るペンキの密着性と耐久性を高めてくれたりします。

はじめにハケを使って四隅や四辺、照明ソケットの周辺などの細かい部分を塗り、残りの広い部分をローラーで一気に塗っていきます。(ペンキも同様の手順)

凸凹しているので、ムラのないよう上下左右から念入りに。

※塗装する際は、部屋の換気をよくして行いましょう。

ペンキで仕上げ

下地ができたら、いよいよ主役(ペンキ)の登場。ここからは、とにかく根気と体力の勝負。

今回、壁紙の上から塗れるペンキを選んだので、あっという間に終わるのでは、と思いきや、壁紙に凹凸の模様がついていたため、ローラーを一往復しただけではキレイに仕上がらず……。

上下左右に何度も塗ってようやくムラなく色がつくので、思っていたよりも時間がかかってしまいました。

先に、ローラーでは塗れない部分をハケで埋めていきます。「ハケとローラーの順番を間違えると、色ムラが目立ってしまうので注意です」(井澤さん)

どうにかならないものかと井澤さんに相談してみたところ、こんな回答が。

「壁紙に塗りづらいとのことですが、カチオンシーラーを塗っていない影響もありそうですね。元々の壁紙に汚れが乗っていて、塗装が付着しにくいことも考えられます。

伸びが悪いのであれば、ペンキに水を足しても大丈夫です。分量としては3〜5%を目安にして下さい!」(井澤さん)

3〜5%というと本当に微量(サンマでいうすだちくらい)なのですが、それでも以前よりだいぶスムーズに塗れるように。

ちなみにこれ以上薄めてしまうとペンキが剥がれ落ちやすくなってしまったり、色ムラができやすくなったりしてしまうので注意です。

リビングの畳は張り替える予定なので養生はしませんでした

そうして塗装を進めていったものの、またしても問題が発生。表面の凸凹のせいで余計に塗料を消費するのか、ペンキ1缶で足りると思っていたところ結局もう1缶買い足して、まるまる2缶使うことに……。

2缶目もギリギリ足りなくなりそうになったタイミングで、「使いすぎでしょうか?」と井澤さんにヘルプ。すると「間配り」という方法を教えてもらいました。

写真もブレるスピード感

「間配り」とはバーっと素早く広い面積をローラーでアバウトに塗ったあとに、その塗料を他の場所にも広げていくようなやり方。

確かにこのやり方に変えてみてから、かなり効率よく進む……! 塗料の消費も半分ほどに抑えられているような感触がありました。

「キレイに塗ろうとしすぎて細かいところに時間をかけてしまうよりも、まずはバーっと塗ってしまった方が結果的にキレイに仕上がります。

終わった後に全体を見てみると、時間をかけた箇所の方がかえって目立ってしまったりするんです」(井澤さん)

井澤さんの言葉に、チャップリンのあの名言を思い出しました……。

注意したいこと

作業には、外出自粛の影響で通勤がなくなった分の時間や、外に遊びに行けなくなった休日を利用。

おそらくふたりで集中してやれば2日ほどで完成すると思うのですが、結局すべて塗り終わるのに1週間ほどはかかってしまいました。(しょっちゅう休憩を挟むため)

また、塗装したあとに時間をおいた箇所は、重ねて色を塗ると濃く目立ってしまう結果に……。

一度着手した壁一面は数日に分けて作業せず、一気に終わらせることをおすすめします。

ちなみにこれも実際にやってみてわかったことですが、ローラーの柄は多少値が張っても、ケチらずに長いものを買いましょう。

私の場合はケチって短いものを買ったのですが(同居人の反対を押し切って)、井澤さんがご厚意で貸してくれた長い柄のローラーを使ってみてびっくり。

この通り、柄が短いと腕を伸ばして塗らなければならず、すぐに疲れてしまうんですが、柄が長いと体ごと一緒に移動すれば楽に塗れるので、長時間の作業もそこまで苦にならないんです。(塗るときは天井へローラーを押し込むように力を入れるから、結構大変)

脚立に登ってやるにも、都度重い脚立を運ばなければいけないので、それはそれはめんどくさいですよ。

想像の3倍はやんちゃなハケ

それからはじめに触れた、マスキングテープについて。

細かいところはハケで塗るんだし、はみ出すといっても少しくらいだろうと思って広い範囲を覆わなかったのですが……。

実際にやってみると、はみ出すわ垂れるわで結構汚れる……。中途半端にマスキングテープを貼ってしまうと白く線が残ってしまい、かえって目立ってしまうので注意です。

今回は白い壁紙に白いペンキを塗ったのでそこまで目立ちませんでしたが、色の違う場所となると、それだけでかなり汚く見えてしまいそう。

はじまでキレイに貼れば継ぎ目が目立たないし、塗るときも細かいところを気にせず塗れるので楽チンです。

井澤さんの言う通りマスキングテープこそが、塗装で一番大切かもしれない作業でした……。

明るく清潔感のあるリビングに

そうして完成した部屋がこちら。

before

after

色を大幅に変えていないので劇的に変化したわけではありませんが、塗装する前と比べてみると部屋の明るさは一目瞭然。

同じ白でもなんとなく古臭くて薄暗い印象だった部屋が、塗装を施したことによってパッと明るく爽やかな印象になりました。昼間は特に光が反射して部屋中が明るく、リビングでゴロゴロする時間が至福のときに。

近くで見ると、単なる壁紙とはちがう独特の風合いにあたたかみを感じ、壁に飾ったドライフラワーも、キャンバスの上の絵のようにしっとりなじんでいました。

少しづつ暮らしを整えたい

はじめて本格的なDIYをしてみての感想は、「結構大変……」ということと、「やってみてしまえば意外とサマになるんだな」ということ。

ありきたりな賃貸の部屋も、自分で手を加えることによって“唯一無二”な雰囲気が出て、いっそう愛着が増した気がします。

家にこもりっきりで退屈な日々でしたが、無心で何かに取り組み、新しいモノを作りだせる機会って、これまであんまりなかったのかも。

脱衣所の棚もDIY

壁の塗装をして少し経った今では、他の場所にも手を加えて、ゆっくり暮らしを整えはじめています。

外からの情報をある程度はシャットダウンしていた分、素直に自分と家と、暮らしに向き合うことができた“ステイホーム”期間。

“みんなにとって素敵な部屋”ではなく、ほかでもない部屋の主人である自分や家族にとって“いい”と思える部屋。幼い頃に好きな色のクレヨンで絵を描いていたときのような感覚で、これからの暮らしに向き合えそうな気がします。

参考:ペイントローラーでペンキを塗る[RESTA DIY SHOP]

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