じつは、家ごもり生活の中で楽しんでいる人も多い“Zoom飲み会”の形式で、出演者全員がいちども顔を合わせずに完全リモートで収録・制作されたエポックメイキングな映画なのです。
劇中、「映画は映画館のサイズに合わせて作られている」というセリフがありますが、この作品はハナから“YouTubeサイズ”に合わせて作られています。つまり、自宅にいながらにしてまじりっけなしの本格映画体験を味わうことができちゃいます。
“きょうのできごと a day in the home”<キャスト>
柄本 佑 / 高良健吾 / 永山絢斗 / アフロ(MOROHA) / 浅香航大 / 有村架純
<スタッフ>
監督/脚本:行定 勲
企画/脚本:伊藤ちひろ
プロデューサー:丸山靖博(ROBOT) / 吉澤貴洋(セカンドサイト)
©2020 SS/ROBOT
さて、気になる人はまずこの映画を見てもらうとして、今回ROOMIE編集部は、作品を手がけた行定勲監督にインタビューすることに成功! その一部始終をお届けします。
映画を撮ることで、僕ら自身が一歩を踏み出せた
行定勲監督
Image: Second Sight
――このたびは、素晴らしい映画体験を届けてくださりありがとうございました! このような状況が続くなか、もうしばらくは新作映画になんてありつけないと諦めていた人がほとんどだったと思います……。今回映画を作るにあたり、自宅での生活をもっと楽しみたいと考えている人たちに対してどのようなメッセージを届けようとしたのでしょうか?
「おそらく、このあとコロナ禍が徐々に収束していったとしても、人々はすぐに映画館には戻ってこないかもしれません。そこには躊躇もあるだろうし、経済的な問題もあるでしょう。
だからこそ『自分たちの心を豊かにしてくれた映画という存在が、かつて誰のもとにもあった』ということを覚えていてほしいと思ったんです。あるべき日常を取り戻したとき、少しでも“そこ”に帰ってきやすいように。
それが今回の作品のひとつのテーマであり、われわれが映画の力で届けたかったことです」
――外出も自粛せねばならず、人とも会えないなか、誰もがどうしてもふさぎがちになってしまう状況です。そんななか監督は映画を作ることで大きな一歩を踏み出したわけですが、何がそうさせたのでしょうか?
「じつは、僕だってかなり落ち込んでいました。
今回の企画を脚本の伊藤ちひろさんが持ちかけてくれたときも、最初は、そんなのできっこないと思っていた。というのも、限定された状況のなかでつくる不完全な作品には、責任を持てないと思った。それでも最終的には、なにが正解でなにが失敗かなんてわからない非常事態だからこそ、思い切ってチャレンジしてみることにしたんです。
ふたを開けてみたら、キャストのみんなも想いはひとつだった。自宅にいるだけでなにもできないことに、もやもやとした気持ちを抱えていたんです。
そうして、たとえリモート上でも、それぞれがひと時を忘れるくらい夢中で映画を作ることができた。なにもしないよりは、一歩を踏み出せたわけです。
映画を撮ることで、まず僕ら自身が解消できたことも大きかったと思っています。同時に、その熱がみなさんに伝わって、観ているあいだになにかを思い出したり、まるでそこに参加しているような気持ちになってもらえたなら、なによりです」
――「一緒に飲み会をやっているような気持ちになった」という視聴者の声も多く聞こえてきました。もちろんフィクションではありますが、リアルとの境界がいい意味で曖昧な作品だったことも寄与している気がします。作品を届けたことで、監督自身の心持ちも変わりましたか?
「根本は悩ましいことが相変わらず多くて、これを乗り越えたあとにどんな風景が眼前に広がっているのかもおぼつかない状況です。ただ『それでも映画を撮っていこう』という気持ちにはなれた。
たくさんの反響もいただけて、どんな状況でも映画は撮れると、前向きな気持ちにさせられました」
些細でも目標があるだけで、1日を特別な気持ちで過ごせる
――映画の内容についても少し聞かせてください。日常とかけ離れた状況のなか、一般の人々を描くというのはかなり難しい作業だったのではないかと思います。登場人物たちの生活はどのようにイメージしていきましたか? 彼らはいまどんな生活を送っているのでしょう?
「彼らは地元の高校が一緒で、いまはそれぞれに会社員だったり、地元の家業を継いでいたり、われわれと同じような業界的な仕事をしていたりする。
でも、いまでも地元にはしっかり根付いていて、たぶん飲み屋とかでもしょっちゅう集まっているんでしょうね。先輩後輩のつながりもあって。
それで、高良健吾扮するケンジの呼びかけで、リモート飲みをしようって集まった。
そうしたら、いつものように何百回聞かされたかわからないユタカ(柄本佑)の長いストーリーを聞かされて……(笑)」
――「リモートで集まる」というと、離れた場所にいるというイメージが浮かびがちなところですが、逆に彼らは地元の友達や旧友といった密な関係性にある。それもこの作品のおもしろさにつながっているように思います。
「そういう関係性も、観てくれる人が自分に当てはめて感じてもらえたらうれしいです。
そして、これを観て自分のまわりにいる人や離れた友人たちとリモートで実際に集まってくれるといいなと思う。というのも、そうしたイベントがあるだけで、その1日をどう過ごそうか考えてしまいますよね。
どんな些細なことでも、目標があるだけでみんなが一丸となれる。いまは毎日が単調になりがちで、ここまで頑張ればいいという目標も曖昧。ストレスがたまってしまっても仕方ない状況です。
それでも、1日を切り取ってみると、目標を持って過ごしてみるだけで意外と時間はあっという間に過ぎる。もちろん早く過ぎればいいっていうものでもないし、“今日は1日ゆっくり本を読もう”なんて日があってもいい。
そこにはソーシャル(フィジカル)ディスタンスを取るっていうルールがあるだけで、非常事態に見えて本当はいつもの日常と変わらないはずなんです」
いまは街が静かで、星空も綺麗
――行定監督ご自身は、いま自宅でどんな風に過ごしていますか? 部屋で自分らしく楽しく過ごしたいROOMIE読者に向けて、なにかアドバイスがあれば教えてください。
「いまはやらないといけない仕事もありますが、あまりにもテンションが違っていて、なかなか向き合えていません。でも、書いてますよ。いま書けることを書いている。
この状況だからこその男女の関係や親子の関係というものがどういったものかを考えるのは、絶対のちにつながっていくことだと思っているので。
自宅での過ごし方については、それこそ読者のみなさんこそ達人だと思うので、むしろ僕が教えてほしいくらいです(笑)。
ただ、いま個人的にやりたいと考えているのは、ベランダでのキャンプ。そのために、1年前くらいにテントも買っていたくらいです。
もともと、家の外から聞こえてくる都会の音が好きなんです。工事の音やクルマの音などを聞いていると心地いいですし、鳥のさえずりなど、都会でもこんな音が聞けるのかというような発見もある。
いまはとくに街が静かで、まわりの電灯も点いていなかったりするから、やたらと星空も綺麗。都会だと思っていた東京にも、意外と自然があることに気づくかもしれない。ベランダキャンプをするなら、いまが絶好のタイミングなんじゃないかと思っています。
おわりに
ここだけのハナシ、取材を終えたボクは、その足でベランダに置くチェアをポチってしまいました。
配達には思ったより時間がかかっているのですが、「到着したら、あんなコトやこんなコトして過ごしたいな〜」なんて考え待ちわびる時間は、なるほど案外ワルくない。これが監督の言っていた「日常のなかの些細な目標」か!と、ポンと膝を打つのでした。
まだまだ非常事態は続きますが、ちいさな楽しみを見つけることで暮らしにハリを出す。それが、ボクらにいまできることのひとつかもしれません。
そして椅子が届きました!
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