その桜の名所の近くに住む柚木さとみさんは、料理家として活躍されています。
名前:柚木さとみさん職業:料理家
場所:東京都杉並区
延床面積:95.67㎡
築年数と住宅の形態:築50年の一軒家をフルリノベーション
今回は、3年前に購入した2階建ての中古物件をフルリノベーションした日当たりの良いご自宅で、ご主人と、2匹の猫(くうちゃん、ねるちゃん)と暮らす柚木さんの住まいを尋ねました。
お気に入りの場所
柚木さんのご自宅は、2階建ての戸建で、1階はキッチンとリビングダイニング、2階は寝室、リビング、洗面所などがあります。
中でも料理家ならではのアイデアや工夫が随所に見られるフルオーダーキッチンと、リビングダイニングがお気に入りの場所。
そんなキッチンをはじめとした家全体のデザインは建築家の近藤大志さん、そこに収まる家具や建具を“旅する家具”gleamの高谷弘志さんが手掛けています(三人は高校の同級生なのだそう)。
フルオーダーしたキッチン「キッチンの天板は、gleamにお願いしてインドネシアから持ってきてもらった1枚石です。インドネシアの職人さんが少々ラフで、ちょっとサイズが合わなかったのですがなんとか入れました(笑)。ここに熱い鍋を直接置けるところが便利です」(柚木さん)
壁のタイルは名古屋モザイク工業、ガスコンロは、一般の家庭ではあまり見ることのないリンナイの業務用です。
「タイルはグリーンと白に色を分けています。キッチンを正面に見て左側は壁が白いので、そこに続くキッチンのタイルも白を選んで広く見えるようにしました。仕事柄、料理の試作をすることが多いので業務用の4口ガスコンロを導入しています」
「食器洗い機も業務用です。乾燥機能はありませんが、1分で洗い終わるので本当に助かります」(柚木さん)
キッチンとリビングダイニングの間には、カヌーの廃材から作られたキッチンカウンターが。これもgleamにオーダーしたそうです。
「ここで調理をしたり、試作をしたり。パソコンでレシピを書くことも多いので、天板の下のちょっとした隙間にパソコンをしまえて便利です。
天板の下に隙間があることで圧迫感が減り、リビングダイニングからキッチンにかけて一体感も出るので気に入っています」(柚木さん)
引き出しを開けると、中にはカトラリー類やラップなどが収納されていました。
うっかり手を切らないように、ラップの切り口は上か下にして入れているそうです。こうした小技も参考になりますね。
ゴミ箱が見当たらないと思ったら、キッチンカウンターの下に。
「中は無印良品のゴミ箱なんです。それに合わせて、パレット材の箱を設計してもらいました」
ON/OFFを切り替えられる、リビングダイニングgleamのテーブル、椅子、ソファ、食器棚があるリビングダイニングも、柚木さんのお気に入りの場所です。
「古い船の廃材を生かしたテーブルでは、主に原稿やレシピを書く仕事をしています」
日当たりが良く冬でもポカポカ暖かいので、取材陣がお邪魔したときも、猫のくうちゃん、ねるちゃんが窓際で気持ち良さそうに日向ぼっこしていました。
この家に決めた理由
柚木さんは現在、築60数年の古民家を友人たちとセルフリノベーションしたアトリエ「さときっちん」を主宰されています。
そのアトリエで1ヶ月に2週間ほど開催している料理教室は、予約を開始してすぐ満席になるほどの人気ぶり。
そのほか、ドラマの料理制作やイベント出演など多忙を極める中、4年前にご結婚された柚木さんは、それを機に物件購入を考え始めたそうです。
「結婚するタイミングで『家を買おう』ということになって、それから本気で探しました。以前から古い物件が好きで、中古ばかり見ていましたね。
ある日、不動産サイトにこの家の外観が小さく掲載されているのをたまたま見かけて、『このベランダの柵、かわいい!』とひと目で気に入って。その日はちょうどキャンプに行っていたんですけど、帰りにそのまま見に行っちゃいました」
見つけた時点で築47年を迎えていたという中古物件を実際に見て、どう思ったのでしょうか?
「古家付き土地で売りに出されていたので中は結構ボロボロだったんですが、玄関のガラスとか、柵の模様が可愛くて一目惚れしました。
物件購入にあたって、丸ノ内線・東高円寺駅にあるアトリエまで自転車圏内で通えることも条件にしていました。ここからだと自転車で10分くらいで通えることがわかったので、立地も購入の決め手になりましたね」
リノベのポイント
そうして購入を決断したこの家でリノーベーションをスタート。天井の梁や玄関など、柚木さんが「かっこいい」と感じるものは生かしつつ、家の中は一旦スケルトンにしたそうです。
「夫が建築関連の仕事をしているので、仕事仲間と協力してスケルトンにしてくれました。その後の家づくりはタマケンさん、設計は近藤さん、建具や家具はまとめてgleamにお願いしました。
今から2年前にリノベーション工事が終わりましたが、それ以降も住みながら玄関などをちょこちょこ手を加えていました」
リノベーションする上で、どんなことをポイントに設計や建具、家具のオーダーをしたのでしょうか?
「まずキッチンが大事。それと、暖かい家にしたいというのがありました。結婚する前はアトリエに住んでいたのですが、仕事を優先した間取りになっていたのでベッドなどの生活スペースをぎゅっと狭いスペースに詰め込んでいたんです。
だから、暮らしを見直す家というか、眠る・お風呂で温まる、などが快適にできる家を目指しました。本当は床暖房を入れたかったのですが、予算的に足りなくて諦めました。でもその分、断熱対策に力を入れたので家の中は冬でも暖かく快適ですね」
残念なこと、気になるところ
オープンキッチンの奥に猫が入り込んでしまう「この家で暮らし始めた当初は夫と二人暮らしでした。ところが、思いがけず2019年9月にくう・ねるを引き取ってから、突然猫との暮らしが始まったので、それまでとは勝手が違うことが結構あって。
その代表がオープンキッチン。見ての通り扉がないので、猫たちが奥に入りたがるんです(笑)。その対策で今は仮で柵を置いています」
猫が爪を研いだ壁「気づいたらこんな状態に……。その前に梅酒を漬けている瓶を並べて隠しています」
梅酒の瓶と並んで置いてあるのは、カルデサックで買ったヒバ製のキャットフード入れ。
お気に入りのアイテム
gleamにオーダーした食器棚光の加減で、ゆらいだ模様が浮かび上がるガラスが特徴的な食器棚もgleamにオーダーしたもの。
「サイズも、ガラスも、取手も全てオーダーしました。持っている食器を収納できるだけの容量があること、食器コーナーとグラスコーナーに分けられること、大皿が入るような奥行きが必要なことを伝えて、できあがったのがこの食器棚です」
3人がけでもスッキリしたフォルムのソファこのソファもgleamにオーダーしたそう。3人座れるサイズ感なのに、すっきりとコンパクトな印象なのは肘置きがないから。
「身長170cmくらいの夫が横になって眠れるサイズにしました。夫はたまにここで寝落ちしています。私は仕事をした後にこのソファに座って休憩したり、くう・ねるとたわむれたりして過ごしています」
ソファに置いてあるクッションは無印良品で、インド綿フェアをやっていたときに買ったのだとか。
モロッコ生まれの籐のランプシェード「オルネドフォイユで見つけたものですね。籐、木、鉄、皮など、時間の経過とともに味わいが出るものが好きです」
おおのきよみさんの絵階段の途中に飾ってあるのは、おおのきよみさんの絵。
「初めて絵を買ったんです。見た瞬間からコレだ!と思って。壁に掛けようとも思ったのですが、ここに置いてみたらなんだか収まりが良くて、ひとまずそのままにしています」
暮らしのアイデア
タイルや壁の色とスイッチの色を合わせて統一感を出すスイッチの色が場所ごとに違う柚木さんの家。その理由を伺うと……
「キッチンのタイルの目地がグレーなので、スイッチもグレーに。白い壁のところには白いスイッチをと、ちょっとした色分けしています」
細々して見えるものはパントリーに収納リノベーションするときにパントリーは絶対に作ろうと思っていたという柚木さん。
「食材のストックなど、見えないほうがいいと思うものはパントリーに収納しています。アトリエに持っていくスパイスなども、ここに置いています」
キッチンツールは素材ごとに分けて収納するスプーン、箸、おたまなど、キッチンがごちゃごちゃして困っている方も多いのではないでしょうか? ということで、料理のプロである柚木さんにキッチン収納のコツを教えていただきました。
「ツールを収納するとき、カテゴリーごとに収納しがちですが、木、ステンレスなど素材別に収納するとスッキリ見えますよ。私は無印良品のキッチンツールスタンドに収納しています」
なるほど、大きさや用途ではなくて素材別に分けるんですね。特別な収納容器を用意する必要もなく、これならすぐにでも真似できそう。
そのほか、ボウルなど使用頻度の高いものは、すぐに出せるところに置いておくと作業動線が楽になるのだとか。
これからの暮らし
「実際に暮らしてみないとわからないので、最初から完成形は目指してなかった」と話す柚木さん。
「子供が大きくなったら子供部屋を作ろう、部屋を壁で仕切ろうなど、時間とともに暮らし方は変わっていきますよね。それと同じように私もこれから色んな部分を変えていくつもりです」
「例えば、キッチンの壁に板をつけているのですが、これは全部タイルだとつまらないので面白みをつけるためでもありますし、何年か経ってからにここに棚をつけることも考えています」
なんと、遊び心のあるアクセントだと思っていた木の板は、料理家ならではの布石でもあったんですね。
最後に、“思いがけず”始まった猫との暮らしについても話が及びました。
「猫たちはもともと野良だったからなのか外に出たがるので、いずれ庭にウッドデッキを作ろうと思っています。もともと猫と暮らすことを考えずに作っている家なので、猫も人も心地いい暮らしを目指したい。
猫にとっても、人にとっても心地いい状態の落とし所をこれから見つけたいと思っています」
古き良きものと、新しいもの。人と猫。異なるもの同士が一つ屋根の下に共存し、その家らしさを作っていく。
柚木さんのご自宅に伺って、そう感じました。
完成形を目指さなかったというこの家は、今後どのように変わっていくのでしょうか?
そして、くうちゃん、ねるちゃんとの暮らし方も。
Photographed by You Noguchi
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