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儲かるかより、面白いか。モンベル辰野社長が掲げる、ユーザーの夢の叶え方

2019/10/31 12:00 投稿

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ROOMIEでも特に人気のある、国産アウトドアブランド、モンベル。

国内のアウトドアシーンにおける圧倒的な知名度を誇り、フィールドに行けばそのブランドロゴを必ず目にしますよね。

モンベルは2017年に社長が交代し、現在は辰野岳史さんが取締役社長を担っています。

そんな辰野社長に話を聞く機会を得たROOMIE編集部。せっかくならばと、SNSをつかって読者から集めた「モンベルに聞いてみたいこと」をぶつけてみました。

優れたコストパフォーマンスを叶える方法、新しいジャンルへの進出、海外と日本のアウトドア事情など様々に話が拡がっていくなかで、モンベルが信じるユーザーの夢の叶え方が分かってきたのでした。

辰野岳史(たつのたけし) 1976年生まれ 大阪府生まれ
株式会社モンベル入社2000年2月コンシューマ営業部所属
専務取締役2007年12月就任
代表取締役社長就任2017年9月1日

価格?品質?どっちが大切なの?

本日はよろしくお願いいたします。

さっそくですが、質問の中でも多く見られたのが「モンベルが製品に対して大切にしているののは品質なのか、価格なのか」といった質問でした。他のアウトドアメーカーよりも比較的手に届きやすい価格なのに、品質も優れているモンベルでは、どちらを重視しているのでしょうか?

「そこは品質ありきですね。価格は結果としてついてくるものなので。コストに関しては度外視してるわけじゃないんですけど、モンベルとしては『良いモノを・安く・親切に』という3つのコンセプトのもと製品を世に送り出しています。

当たり前ではありますが、良いモノであっても手に届かなければお客様のためにならないし、安いだけで使い物にならないのもダメだから。ですので、その枠の中から我々ができる最善のモノづくりをした結果が、今の価格に繋がっているんです」

“当たり前”とおっしゃられましたが、安く製品を提供することをそう簡単に言い切れるものなのでしょうか?

「わざわざ高くするような選択肢を、モンベルでは絶対にしないですね。

意味があって価格が高くなるのは勿論良いと思うんです。我々の製品の中でもフラッグシップの素材を使って世に出すモノだったりすると、価格が非常に高くなることもありますし。

でも、モンベルなりの意味や意義が感じられないモノに、高値を無理につけることは絶対にありません」

なるほど。読者からも「製品のコストパフォーマンスが他のアウトドアブランドと比べてとても高くてうれしい」といった声が寄せられています。一体どうやって価格と品質のバランスを実現しているのでしょうか?

「簡単に言うなら、製品の発想からデザイン面から素材の開発まで、すべて自社で行っていることですかね。一般的なメーカーさんだとそこには商社が入ること多いと思うんですが、その場合にはマージンが発生しますよね。

我々はこのオフィスビル全てに各部署のセクションがあるんです。例えば生産部隊であったり、輸入部隊であったり……。生産に関しては外国で協力してくれる工場があるんですけど、そうした行程のほとんどを自社で済ませられる。これが要因として大きいんじゃないかな。

そういった細かい積算が圧縮され、ノウハウが蓄積されて、リーズナブルなモノづくりに繋がっているんだと思います」

農林漁者業向けアイテムも作ってるけど…?

ここからはコストパフォーマンスから少し外れて、製品開発に関してお伺いしたいと思います。モンベルは農業・林業・漁業といった、いわゆる一次産業に携わる方々向けのアイテムも独自で開発していますが、そのきっかけを教えて下さい。

「一次産業に関わるようになったのは、我々の事業の拡大の中でいろいろな地域との関わり合いがでてきたからなんです。

例えば北海道の東川町にお店ができたんですけど、そこのお客様には農家の方々がいました。皆さん普段の農作業時にモンベルの製品を使ってもらっていたのですが、やっぱりアウトドアでの使用と違うところが傷むんです。

我々のノウハウが活きるのって、やっぱり登山などのアウトドアスポーツなんです。だから片膝をつく、うねを通る、収穫をする……なんてすると、摩耗する箇所が変わるのは当然のことで。

しかしご要望さえいただければ、その先のモノづくりは得意とするところなので、『ならばそれ用のモノを頑張って作ってみようか!』となるのも自然なことなんですよね」

そこに携わる人たちへの支援を第一に考えている、ということでしょうか?

「より快適にカッコよく一次産業を楽しんでもらいたい気持ちも当然あるのですが、本音を言うと“興味”なのかもしれません。

勝機があるとかないとかよりも、モンベルの製品を普段から使ってもらっている方々に、もっと良いモノを試してもらいたい、という興味。

驚く顔が見たいっていうのかな。『あ、この機能欲しかったんだよ!』って言ってもらえるようにはどうしたら良いのか?と、ずっと考えているんです(笑)」

読者の中にはそういった情報をキャッチしている方がいて、「最近農林水産業向けのアイテムを出されていますが、狩猟用のウェアを販売することってありますか?自分も狩猟をしているので、激しく希望しています。」といった声もありました。

「わ、専門的な読者さんだ(笑)。そうですね、狩猟に関して言うと、我々の中でも興味深いジャンルではあります。

今後どういったアプローチの製品を作るかを相談する会議の中では、もう当たり前のことのようにその言葉は出てくるんですよね。

狩猟は生態系を維持するために大切な活動の一つだと言われているので、我々もご協力できることがあればと、視野には入っていますよ」

新ジャンルへ進出するためのモチベーションは?

そうした新しいジャンルに進出していくためのモチベーションはどこから来ているのでしょうか?

「モチベーションねぇ……。売上に関する勝機があるからとかそういうことではなくて、喜んでくれる人がいるかですかね。

だから『いくらの売り上げがそこのマーケットで埋蔵されているから、そのためにモノづくりをしよう』とか、そんな考えは出たことがないんです。我々自身がわからない分野に関しては作れないですからね。

必要なモノを自分たちで考えて作っていくスタンスの中で、全く違うジャンルの何かを作って欲しいと言われても、社内にそのノウハウを具現化する力がないとそれはできないと思うんですよ。

ただ、そのジャンルを意識しながら事業を一歩一歩進めていく中で、ある程度の場所に到達したときにはいつの間にかそれをカバーできるようになっている。そんな長期的考えが我々にはあるので、モチベーションに関しては『興味』を持つこと以外にないかもしれませんね」

興味以外考えていなかった、ですか……。これはすごく強いメッセージだと感じます。

「困っているお客様とか、こういうモノを世に出せば喜んでもらえるかもしれない……。そんな思いつきの部分が『興味』だと思うんですよね。

例えば僕も高さの変わる折りたたみテーブルとかのアイデアを出させてもらったんですが、売れるかどうかとか、他のメーカーでどんなイス・テーブルがでてるとか、正直よくわからないんですよね(笑)」

え、市場調査などはしていないのですか?

「全くしないわけではないんですけど、今何が売れてるんだろうとかはよく分からないんですよね(笑)。自分があったら便利だなと思うモノを続々と作っているので。

そのテーブルを作ったのは、自分の子どもにご飯食べさせるときに、足を何度もひっかけてしまうからなんですよ。そんな中で『椅子やテーブルの高さを変えたいな』と思いついたところから始まったんですよね」

「こんなモノを世に売ったら喜ぶ人がいるはずと思ったら、周りをあまり気にせずに、まずは作ってみる。

モンベルは、遊びを全力でやっている人間の集まりなんです。『我々はこんなモノがほしい!』と考えついたら、まず自分たちで作ることから始めましょう、と考える集団なんですよ」

モンベルが考える機能美って?

モンベルの「ウェアのデザイン」については、読者から一番大きな反応がありました。
「他のどのブランドはどんどんデザイン性を追求しているにも思うのですが、『Function is Beauty(ファンクションイズビューティー)』を掲げるモンベルはそこ見ていないのでしょうか?」、「なんでウェアのデザインにそこまでこだわらないですか?」といった内容です。

そのところ、ズバリどうお考えですか?

「んー。まず、ファッションはオシャレですよね。オシャレは機能とは繋がらなくても良いと思うんです。

モンベルはアウトドアメーカーなので、まず必要とするのは機能。そこで、機能をスポイルすることなく一生懸命カッコよく作っているつもりなんですが、ファッションのサイドから見ると、どうしてもシンプルなんだと思いますね」

ないがしろにしているわけではない、と?

「我々が掲げる『Function is Beauty』とは、機能美を追求したところに形が宿る、という考え。

職人気質な考えとでも言うんですかね。機能を生み出した結果、自然と美しさが宿る、と信じているんです。

アーバンだとかを見てない訳ではないんだけれども、『山でも着れる街着』は作りたくないんです、強いて言えば『街でも着れる山着』」

「なので、ファッションを意識して作っておられるところはそれはそれでいいと思うし、選択肢としてはありだと思います。アウトドアの業界といっても、各社のスタンスがそれぞれありますしね。

でも、フィールドに行って実際に記憶に残るのは、そこから見る風景ですから。服のオシャレさも重要ではあるんですけれども、しっかりと機能のある服で快適に山行を楽しんでもらいたいと思いますよ」

今後もモンベルが作り続けるのは、「山でも着れる街着」ではなく「街でも着れる山着」なんですね。

「そうなんです。もしくは『山から降りても恥ずかしくない服』くらいの感覚ですかね。

なので、『Light & Fast(ライトアンドファスト)』とか、『Function is Beauty』という言葉を使ってないがしろにしているワケではないんです」

日本と海外のプロダクト事情の違い

次はちょっとコアな方からの質問です。「日本と海外のアウトドアプロダクトの事情に大きな違いはあるんでしょうか?」。

これは海外に進出されるモンベルに私も聞いてみたいところです。

「これはありますねぇ。ただ、海外といっても一括りにできない部分が多々あります。ヨーロッパの中でもドイツもイタリアもスペインも全部違ってくるんです。同じアメリカでも州によって違うし、山間部と海岸部でも違うし……。

例えば、お客様のニーズにおいて分かりやすく言うならば、日本には四季がありますよね。だからオールウェザーでいつでも着られるという技術は、日本が一番進んでいるのではないかと思うんですよ。

アメリカのブランドですとメッシュ製のテントとかありますからね。これは乾燥した大地で寝袋だけ敷いて寝ることを考えて作られているけれど、日本でそんなことやって雨でも降ったらびしょびしょになるじゃないですか(笑)。

そういう意味でニーズやプロダクトの性質は土地によって変わってくるので、国内外ではかなり違ってきますよ」

「面白いところで言えば、韓国のモンベル、『モンベルコリア』の場合はLSグループの一角で運営しているんです。

モンベルコリアは、ライセンスプロダクションの形をとってモンベルのロゴマークを入れた製品を自社開発してるんですよ。そこで我々にとってはびっくりするような製品もつくるんです」

そこに抵抗などはないんですか?

「その国におけるニーズであることが理解できれば、モンベルの製品として作ることを認めながらやっています。

韓国の山の事情も、今は一昔前からのピークが過ぎて、自然に対しての考え方が変わってるところなので。そうなると製品の事情だって日本と違ってくるのは当然です」

同じモンベルの名を冠しているといっても、国ごとによってプロダクトの性質が大きく変わってることがあるんですね。

「そうです。ロシアで取り扱ってるところだと、ウラジオストックにしても日本に近い側だとジャパンサイズが売れるんだけど、サンクトペテルブルクとかだとヨーロッパサイズじゃないと売れなかったりとか。

一つの国とはいえ、人種が違うので当然なのかもしれないんだけどね。その国の気候とかフィールドに出た時のコンディションによって服の形も変わってくるんです。そんな事情の中でも、日本に世界中のメーカーの製品が入ってきているのは、やっぱり四季があるからなんだと思いますよ」

モンベルが見据える未来とは

社長が代替わりしたモンベルは、製品を通じてユーザーと繋がる以外にも、例えばイベントやツアーのような催しを続けていく中で、企業としてどんな未来を作っていきたいのでしょうか?

「社長が変わったから企業としての考えが変わることはないですね。この立場は預からせてもらってる仕事ですので。

会長(編注:辰野勇氏。現社長のお父様でモンベルの創業者)の『自分たちが欲しいモノを作っていく』という思いからこの会社が興ったわけなので、基本的にはアウトドアを楽しんでもらうために、よりよい製品を提案していきたい。この軸がブレることはありません。

その枠の中で、事業的にはどんどん変わっていったりはするかもしれません。例えば先ほどの一次産業の話でもそうだけど、前に進んでいる中で、モンベルの共鳴域に賛同してもらえる方々が増えていって、ハッと横を見ると、いつの間にか繋がっていたなんてことも起きているわけですし」

「僕、今この立場になってお話しさせてもらってるときに、自分の口で伝えなきゃいけないと思っていることはここなんですけども……。

モンベルの店舗に足を運んでくれるお客様って、夢持って来ていただいているんです。『初めて登山をやりたい』『今年は縦走やってみたい』『冬山にチャレンジしてみたい』。そんな自分なりの夢を持って来てくれている。

その夢を実現するためにお手伝いすることこそが、最大のミッションなんです。それは知識であり、モンベルアウトドアチャレンジでのガイドであり、製品であり……。それらを通じて夢の叶え方をお伝えすることが、我々が存在する理由なんですよ」

辰野会長が掲げた7つのミッションを実現させつつも、ユーザーのためのモノづくりを粛々と続けていくことが重要、ということですか?

開発の段階で生まれたワレットのプロトタイプを見せてもらいながら

「粛々と……。言葉にするとちょっと寂しく聞こえるけれど、やっぱりそうなりますね。

我々としてはやっぱり、アウトドアを楽しんでいる皆さんのためにモノづくりを続けていくスタンスは変わらないと思います。それが近未来であり長期の夢であり、粛々とした動きなんだけど、同時にそれは継続的なプロジェクトでもある。

そういう意味では、良質なモノづくりを通じて、より良いアウトドアライフのお手伝いをすることが、モンベルが掲げる未来になるのかな」

“モノづくり”を大切にしていく、というのはユーザビリティをとことん考え抜いていることと同義だと思うので、今までのお話からすると、とても納得できる未来だなと感じます。

「夢っていうのは大それたことのように聞こえてしまって、人によっては“非現実的”な意味に捉えられがちだと思うんだけど、結構近いところで乗り越えられることって沢山あるんです。

目の前のことを一つ一つやっていたら道になっていた、みたいなこともあるじゃないですか。それに近いのかもしれないです。

でも勘違いしたらいけないのが、『ユーザーの欲しいモノだけを作る』だと、これはプルビジネスになるんですよ。ユーザーの声をきっかけにして、我々自身が欲しくなってしまうような、より良いモノを作り上げるのが重要なんです」

モンベルのユーザーが求めているモノを、さらに超えていくようなモノづくりを、ですね。

辰野「そうそう。お客様の期待を超えていけるような新しいモノづくりを、ということです!」

インタビューを終えて

モノづくりやガイド活動などを通じて、ユーザーの夢を叶え続けることこそが、モンベルが存在する理由であり未来でもある。

身近で、リーズナブルで、使い勝手もいい。そんな僕たちにとってポピュラーになり過ぎていたモンベルには、職人気質の粋なフィロソフィーが確かにありました。

まわりの環境に左右されることなく、前に進みながら裾野を広げることを選択するモンベルが放つメッセージは、軸があるからこそブレない強さを感じます。

来週は奥多摩に行きたい。来月は少し遠出して、テント泊にチャレンジしたい。そんな希望が次々と溢れてきて、晴れた休日が待ち遠しくてたまりません。

おまけ

インタビューを終えたあと、「モンベルがおすすめする頭から爪先までのコーディネートを教えて下さい」という質問があったことを辰野社長に伝えると、

「無責任なことを言うとその方の命に関わっちゃうから、どんな時期に、どんなフィールドで着たいのかを細かく聞いておいて下さい。そしたら、売るほどある製品のなかから、きちんとお選びしますよ(笑)」

と嬉しそうに答えてくれました。

この質問を下さった方、良ければROOMIEのSNSにもう一度コメントを下されば、編集部が責任持って辰野社長にお伝えしますよ!

Photographed by Kaoru Mochida

mont-bell 公式サイト

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