今回私たちは、東京・練馬にある、“ヒュッゲな古民家”と言いたくなるようなお家に伺いました。
今年になって3人目のお子さんが生まれた香川さん一家のお家には、何をするかではなく“どうあるか”に意識を向けた、心地よい空気が流れていましたよ。
プロフィール・名前:香川智彦さん、香川裕美さん、珠希ちゃん、航史郎くん、誠志郎くん
・職業:株式会社OSOTO 代表取締役副社長/フリーコンサルタント/写真家(香川智彦さん)、会社員/udon factory (香川裕美さん)
・場所:東京都練馬区
・面積:67㎡
・築年数:44年
お気に入りの場所
家族みんなが集まるダイニング香川さんご夫妻そろってお気に入りの場所は、部屋に入ってすぐ広がるダイニング。幅2.7mの大きなダイニングテーブルが印象的です。
「僕が仕事をする横で子どもが遊んで、その横で妻が家事をする。そのくらい、この机を囲んでみんなが集まれたらいいなと思って、大きな机にこだわりました」(智彦さん)
料理を振る舞うのがお好きだというお二人。発酵食品のワークショップを開いたりホームパーティを開いたりと、お客さんとこのダイニングテーブルを囲むことも多いのだそうです。
ダイニングテーブルの後ろには黒板が。
ホームパーティではメニューが書かれたり、子どもたちにとっての落書きスペースにもなっているそう。たまに、夫婦のやることリストが書かれることも。
「年度末のやることリストも書かれたりします。確定申告がなかなか消えなくて、この席に座る人はリマインドされている気持ちになるんですよ(笑)」(裕美さん)
料理好きなふたりのキッチン鍋やフライパン、キッチンツールの収納場所もたっぷり
食好きなふたりのこだわりを感じられるのが、キッチン。
「既製品に、プラス15cmの奥行きを足してもらいました。料理するとき、奥行きがあると便利なので」(智彦さん)
シェフ魂を感じるこだわり。
智彦さんはキッチンを「厨房」らしくしたかったそうで、最初は床も水播きができるようコンクリートにしようと思ったといいます。
床こそコンクリートではありませんが、豪快な料理ができるガスオーブンやステンレス製の作業台は、料理好きならではのチョイス。
部屋は11階と高層階にある上、北側の眺望が完全に抜けているため、天気のいい日はキッチンの窓から栃木の山々が見渡せることも。
Photographed by Toshihiko Kagawa
「最初に内覧に来たときは、こんなところに窓があるのは知りませんでした。朝、外の景色を見ながら料理できるのは気持ちいいですよ」(裕美さん)
窓があるキッチン、憧れますね。晴れの日も雨の日も季節を感じながら料理ができる、古民家のエッセンスを感じました。
子どもたちも大好きな小上がり和室ダイニングの奥には、ちょっとした小上がりのスペースが。畳が敷き詰められ、昼は子どもたちの遊び場、夜は寝室スペースになります。
なんとこの小上がりスペース、畳の下は全て収納になっているんです!
「キャンプギアがたくさんあるので、こうやって収納できるスペースは重宝します。布団も入れられるので、一気に生活感を消すこともできますしね」(智彦さん)
モダンな洗面所洗面所には、ホテルのようなモダンさが。
「明るい気分になるので、黄色い壁紙を部屋のどこかに入れたいなと思っていました。この紺色のタイルも気に入っています」(智彦さん)
一目ではわからない場所にまでこだわりが感じられるお家。洗面所に明るい色を、私も取り入れたくなりました。
この部屋に決めた理由
株式会社OSOTOの副社長でありフリーランスのコンサルタントとしてもお仕事をする智彦さんと、会社員の裕美さん。上京したときから13年ほど練馬に住んでいるのだそうです。
「この街は、僕みたいな地方出身者にはちょうどいい雰囲気なんですよね(笑)。都心へのアクセスがいいし23区の中で一番緑が多いので、都会と田舎のいいとこ取りができるんです」(智彦さん)
「私の地元にも駅前に西友があるんですけど、練馬駅を降りたとき、西友があることに安心したのを覚えています。公園も近くにたくさんあるから、よく子どもたちと出かけます」(裕美さん)
馴染みのスーパーがある街には、自然と親近感がわきますよね。
5年前くらいから、引越しを検討していたというおふたり。最初は、10年後にも資産価値が落ちないブランドマンションなどを見ていたのだと言います。
「不動産の仕事をしていたこともあったので、さまざまな角度から資産価値を計算して物件を探していましたね。今思えば、他人の軸で家を探そうとしていたなと思います」(智彦さん)
そのときはいい物件にめぐり合うことはできず、頭の片隅で物件を探しつつも、一度は諦めかけたのだとか。そしてお子さんが生まれ、価値観が変わっていきます。
「何をするかよりも、どうあるかが大事だと思うようになりました。10年後の資産価値より、今自分たちがどうあることができるかを考えようと思ったんです。そんなときに『てまひま不動産』と出会い、この物件にも出会いました」(智彦さん)
リノベーションをするにあたり、「自分たちにとっての住まいってなんだろう?」と考えたり、どんな場所にしたいのかと考えたそう。
自分たちにとって心地よい住まいは、自分たちにしかわからないもの。ふとしたときに考えてみると、自分が住まいに求めていることや大切にしたいことは何なのか、見えてくるかもしれませんね。
残念なところ:完全な個室がない
取材中、元気に遊ぶ子どもたちがちょっと気になるおふたり
「ひとつの大きな部屋のようになっていて、それぞれの存在を感じながら暮らせることはいいことなのですが、集中して仕事をしたいというときに、個室が欲しいなと思います(笑)」(智彦さん)
たしかに、遊び盛りのふたりと生まれたてのお子さんがいると、とっても賑やか。
「この部屋が完成するときにお腹に3人目がいることがわかったのですが、もっと前にわかっていたら、違う間取りにしていたかもしれませんね(笑)」(裕美さん)
お気に入りのアイテム
オールドチークのローテーブルもともと、オールドチークの扉の板だったというテーブル。おふたりが結婚した当時からダイニングテーブルとして使っていて、今の家に置くときにはアイアンの足を短くして置くことにしたのだそう。
「前はソファがあったんですけど、今の家ではキャンプチェアと一緒に使えて雰囲気もとても気に入っています」(智彦さん)
南部鉄器の鉄瓶「誕生日とクリスマスのプレゼントは、家で使える小物をもらうことが多くて。この鉄瓶は、誕生日とクリスマスを一緒にしてもらったものなんです。毎日使うものがお気に入りのものだと、うれしいですよね」(裕美さん)
パリで買ったストウブなんとも雰囲気のあるこのストウブ、実は日本には売っていないサイズのものなんだとか。
「新婚旅行で行ったパリで買ったものなんです。これのせいで重量オーバーになってしまい、スーツケースに入れていたキャラメルペーストを手持ちにしていたら機内持ち込みできなくて、泣く泣く諦めたのを覚えています(笑)」(智彦さん)
ときどきあのキャラメルペーストのことは思い出すよね、と笑い合うおふたり。素敵なアイテムをスーツケースいっぱいに詰め込む姿が想像できて、ほっこりしてしまいました。
智彦さんのカメラカメラマンとしても活躍されている智彦さんのお気に入りは、日常の風景を切り取るカメラのレンズ。
「仕事道具なのですが、カメラは好きです。今Nikonについている単焦点のレンズは特にお気に入り。FUJIFILMのカメラにマニュアルのオールドレンズをつけて楽しんだりもしています」(智彦さん)
暮らしのアイデア
リノベーションをするとなると、悩んでしまうのがそのコンセプト。
おふたりは、自分たち家族も大切な友人も一緒に集まって、ゆるやかに過ごせるような場所にしたいと「ヒュッゲ」をテーマにしたそうですが、元々は4DKに細かく区切られた間取りの物件でした。
「『てまひま不動産』が紹介してくれた建築士さんが、私たちのやりたいことを丁寧に聞いてくれて、様々な提案をしてくれました。
私たちは、家族連れのリノベでよくある間取りは一切求めてなくて、大きなテーブルと置きたいとか突拍子もないアイデアを出していたので、建築士さんも楽しんで設計してくれたのかもしれません」(裕美さん)
そんなおふたりの家には、細かく区切られた間取りをうまく使ったアイデアがいっぱい。
念願のパントリー食器が好きだという裕美さんは、ずっとパントリーが欲しかったのだとか。
「このパントリーでこだわっているのは、冷蔵庫が入る大きさなのと、壁の色です。濃いめのグレーのクロスを貼っていて、そうすることで食器も映えるし、遠くから見ると奥行きがあるように見えるんです」(裕美さん)
小さなスペースを、広く見せる工夫ですね。
そしてパントリーには、裕美さんお手製の発酵食品もぎっしり。
無垢材の床「わが家は裸足で歩くと気持ちいいですから、ぜひ裸足になってください」(智彦さん)
智彦さんがそう言うように、フローリングの床は無垢材が使われていて、木の感触がとても気持ちいい。
子どもたちも無垢材が気持ちいいようで、ゴロゴロ寝っころがって遊ぶことも多いのだとか。
梁をカモフラージュする棚、間接照明古民家をイメージして設計されたという香川さんのお宅。
大きく目立っていた梁も、棚と組み合わせることで視線がズレて気にならなくなったり、間接照明を入れることで天井との差が少なくなったりと工夫がされています。
「建築士さんから棚イメージのスケッチを見せてもらったとき、こんなオシャレなもの置いて大丈夫かしら!と思いましたね(笑)。
梁よりも棚が下がるのでむしろ視界が狭くなるんじゃないかと思っていましたが、やってみてよかったです。建築士さんは、私たちが伝えていることを形にしてくれていると感じていたので、この人が言ってくれているなら、と思い切って任せてみました」(裕美さん)
建築士さんとの信頼関係をつくりながら、ユニークなお家になっていったんですね。
これからの暮らし
ヒュッゲなあり方を大切に、家族や友人との時間も楽しめる家をつくりあげた香川さん一家。
理想的な住まいに見えますが、意外にも、この家にとらわれずにこれからの暮らしを考えているのだとか。
「住所不定、がいいんですよね(笑)。
場所、時間、お金から解放されて自由に生きていきたいです。今はこのサイズがいいんだけど、子どもたちが大きくなったらもっと広い方がいいし、子どもたちが独立したらトレーラーハウスで生活するのがいいかな」(智彦さん)
自分たちが住まうだけでなく、家族も友人も集う場所にしていきたいと語っていた智彦さん。
お家を「集う場所」にしたいのはどうしてなのでしょうか。
「家は自分が素でいられる心地いい空間で、そういう場所で友人たちと過ごしたい。外で会うより、距離が狭まった気がしますしね」(智彦さん)
「まあ、今の家を超える理想の家は、100平米のワンルームかな。あ、書斎くらい置いてもいいけど(笑)」(智彦さん)
はじめは“資産価値”で家を探していたおふたりでしたが、目に見えるモノよりも、何を大切にしてどうありたいかを中心に考えるようになり、今の暮らしにたどり着いたのですね。
ヒュッゲや古民家といったキーワードは出てきましたが、香川さんご一家の暮らしは、自由で枠にとらわれない、世界にひとつだけの暮らしだと感じました。
子どもたちの成長に伴って、どんどん変化していくだろう香川家の今後が、とても楽しみです。
Photographed by Motoki Adachi
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