そんな古きよき風情漂うローカルに、新たな風を吹き込まんと2018年5月にオープンしたのが、韓国バル「charisso」です。
テーブル2席とカウンターで構成されたミニマルで親密な空間で楽しめるのは、エゴマとキムチをトッピングし、ごま油の風味を効かせた「濃厚キムチーズカルボナーラ」といったオリジナルメニューから、ポッサムやチーズダッカルビといった、いわゆる韓国料理まで。
(写真右から時計回りに)三元豚のポッサム盛り820円、チーズに溺れるダッカルビ720円、濃厚キムチーズカルボナーラ720円
一方、店の内装は、“いかにも韓国料理店”といった様相にはあらない。木とアイボリーを基調にした内装は、どちらかといえば洗練されたカフェのよう。
それでいて、どこかひとの温もりや落ち着きを感じるのは、さもありなん、実はもともと屋台タイ料理屋だった物件を、セルフリノベしたというのですから……。
どういった経緯で、セルフリノベをすることになったのでしょう?
(写真左から)店主・渡辺卓永さん、渡邉祐介さん
「店を開くにあたって、実際に韓国に渡って現地のひとたちが通う料理店を回りました。
そのとき案内してくれたのが兄の友人だったのですが、彼から『内装を頼むなら、いいひとがいる』と紹介してもらって。それが、JUGEMUさんだったんです」(渡辺さん)
JUGEMUさん
「僕は、本業は音楽の仕事なのですが、もともと趣味でインテリア雑貨をDIYしては販売していたんです。とはいえ、DIY歴は2、3年程度。内装の経験はほぼゼロでした」(JUGEMUさん)
「3月半ばに依頼して、4月の1ヶ月間で施工。予算として設定したのは、彼の給料も含めて30万円でしたが、最終的に、材料費は15万円ほどに収まりました」(渡辺さん)
写真は、施工前の店内。屋台タイ料理屋ということで許容されていた“味”も、彼らには不要。
オープンキッチン仕様だったカウンターも、大胆に板張りしてしまった。
内装に関する要望は…?JUGEMUさんはこのように具現化
「『K-POPで飾る』『宮廷っぽくする』のどちらかにパターン化された韓国料理店の内装には寄せたくなくて。
最初に彼に伝えたのは、カフェのような落ち着く雰囲気で、女性ウケしそうな内装にしてほしい、ということでした」(渡辺さん)
「僕個人としての目標は、彼らがあとからインテリアをそろえて配置しやすいような“バックスクリーン”をつくることでした。
そうすれば、内装を担当した僕だけの趣味趣向じゃなく、彼らのニュアンスも残せる。だから、『僕はこう思うけど、どう思う?』と都度訊くようにしていました」(JUGEMUさん)
あくまでDIYは趣味の範囲内だったにも関わらず、これだけのものができることには驚きです。
「設計図を描く、といったことはしていません。ホームセンターや材木屋にある材料を見て、やりたいことや予算と照らし合わせながら考えていったような感じ」(JUGEMUさん)
「進め方も、最初に材料を全部そろえてからはじめるのではなく、区画ごとに取り掛かっていきました。
1ヶ月かけて完成したときは、『本当にここまでできるんだ!』って、自分でも驚きで。もちろん、『しっかりとした技術があれば、もっとできたのに……』と思う部分もありますが」(JUGEMUさん)
特に苦労した部分について教えてください
研磨を制する者が、塗装を制す「一番時間が掛かったのは、研磨作業でした。もともとの木材は着色された状態だったので、削るしかなかった。木材という木材すべてです。
僕を含めアマチュアって、研磨せずにそのまま塗装していくひとも多いと思う。でも、そうすると必ず失敗します。色がうまく入り込まないし、仕上がりの質も落ちてしまう。だから、いくら面倒くさくても順を追って塗装するのは大事なんです。
ちなみに研磨には、80、120、150、180、240、320、最低でもこれくらいの番数は使った方がいいと思います」(JUGEMUさん)
こだわりのポイント
タイルの配色、よーく見ると……「僕から『どうしても』とお願いしたことのひとつに、カウンターのタイルがあります。タイル専門店でカタログを見ながら、最初にいいなと思ったのがこれでした。
ちょと無理やりですが、実は、韓国の国旗をイメージして配色しています」(渡辺さん)
ラクをしようとしたのが、マイナスにも、プラスにも働いた「このテーブルも、彼の手作りなんです。
もともと彼にお願いしてつくってもらったのは四つ足のものでした。ただ、3名以上が多方面から座ると、どうしても足が邪魔をしてしまうことに気づいて……」(渡辺さん)
「それで作り直してもらってできたのが、これです。“ただ作り直す”以上のいいものができ上がってきて、満足しています」(渡辺さん)
「この麻紐は、実は部屋の掃除をしていたら偶然出てきたもの。当初は支柱を塗装しようと思っていたんです。でも、『また、研磨か……』と(笑)。そこで、ラクするために麻紐を巻くことに。
結局3脚分合わせて250mくらいの麻紐を巻く作業と比べると、研磨の方が断然ラクだったことに気づいたときには、後の祭りでした……(笑)。そのときできたマメが、いまようやく治りかけているところです」(JUGEMUさん)
ジモティーで、叩き売りを狙え
「この食器、実は銀座のウェディングの会社で使われていたもの。どうやら会社が潰れてしまったようで。ジモティーでいろんな小物を叩き売りしていたのを偶然発見したんです。
メニューブックも、同じウェディング会社のもの。もともとは賛美歌の歌詞ブックでした。1個100円で仕入れて、賛美歌を剥がして、そこにステッカー貼ってメニューにしてます(笑)」(渡辺さん)
初めてのセルフリノベ。そこで気づいたこと
「セルフリノベをしながら気づいたのは、もちろん技術も大切ですが、いい道具さえあれば、ある程度のことはできるということ。
もちろん世界を見渡せば、『少ない道具でこんなこともできます!』なんてのもあるけれど、いい道具を使えばそれだけで上達も早いと思います。初心者なら、なおさら。
あと、今回頻繁に利用したのが『カインズホーム』でした。木材を100円でも買ったら、そこにある工具をすべて、しかも無料で使わせてもらえるんです。工具の手持ちが少ないというひとは、ぜひ活用してみてください」(JUGEMUさん)
「そうそう、もうひとつ。『ジョイフル本田』に説明会に来ていた塗料メーカーの部長さんと仲良くなって、メールや電話で木工塗装について教えてもらったり、木材屋さんを紹介してもらったりしました。
そういったホームセンターの催しでプロフェッショナルに積極的に話し掛けるのはいいかもしれません」(JUGEMUさん)
これからの展望は?
「以前の屋台タイ料理屋を知っているひとには、とにかくびっくりされます。知らずに入ってきてくれたひとも、『おしゃれ!』と写真を撮ってくれたり。
JUGEMUさんにつくってもらった内装を、女性やカップルに楽しんでいただけていて嬉しいです」(渡辺さん)
「実は地下にもスペースがあって、当初はそこも同時にリノベーションする予定でした。ただ、オープンまでの1ヶ月間では全然足りなかった。
今後集客がある程度増えてきたら、取り掛かりたいですね」(JUGEMUさん)
「個人的に、JUGEMUさんは専属デザイナーのような立ち位置。今後は、内装のみならず、いろんなことをお願いしたいと思っています。
本業の音楽の力も活かしてもらい、店内BGMもディレクションしてもらいたい」(渡辺さん)
「僕はとにかく、オーナーのやりたいことを実現していくだけです」(祐介さん)
「本当に、JUGEMUさんや、料理人の祐介がいないとお店が成り立たないです。たぶん僕が一番なにもできないんじゃないですかね……(笑)」(渡辺さん)
“プロフェッショナルじゃないけれど、お願いしてみよう”、“経験がないけれど、できるんじゃないか”という、それぞれの信頼関係でつくりあげた空間。
非の打ち所のない仕上がりとはいかないまでも、“見る人が見れば”という高い水準をクリアできたのは、ひとえに“やってみる”という挑戦の賜物でしょう。
そんな彼らとこの店が、ローカルに新しい風を吹き込みつつ、街のひとに受け入れられていくことを願うばかりです。
charisso
東京都渋谷区笹塚2-10-6今井ビル1F
京王線笹塚駅から徒歩5分
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Photographed by Yutaro Yamaguchi
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