学芸大学駅から少し離れた住宅街にそびえるヴィンテージマンション。そこに住まう松永さん夫婦(剛さん、千晶さん)は、うつわと生活雑貨の店「threetone(スリートーン)」を、オンラインにて運営しています。

物件購入とともにリノベーションを行ったというこの家は、実は「threetone」のギャラリーとしても機能します。仕事と私生活が濃密に混ざり合う場所について、お話を伺いました。

この物件を選んだ決め手は、何だったのでしょう?

住み続けたいエリアから決めた。

「何かを絞らないと何も進まないと思って、まず、エリアを決めました。

この辺りには同じ大阪出身の友達が多くて、よく遊んだりするんです。それって地元だとすごく自然なことで、東京でも、そういう地方っぽい暮らしをしたかった。私たちの世代にはなんとなく、“ひとりでは生きていけない感”があると思うのですが、ここでみんなで助け合えば暮らしていけるかなって」(千晶さん)

美しい景色を継承していく。

「この物件の最大の決め手のひとつは、とにかく景色がいいこと。晴れていれば富士山も見えます。朝陽も、夜景もいい」(剛さん)

「前に住んでいた方は、親子三代、代々暮らしてきたらしいんです。私たちに引き継ぐときに、奥さまが『ここからの景色が見られなくなるのはさみしい』と涙を流していらっしゃって……。そういう住まいを引き継ぐんだ、と大切に住みたい気持ちが高まったのを覚えています」(千晶さん)

そもそも、どうしてリノベーションしようと思ったのでしょうか?

「リノベーションに興味を持ったのは、物件を探しはじめた頃、ちょうどリノベーションをしようとしていた友達から話を聞いたのがはじまりでした」(剛さん)

「『threetone』というオンラインショップをはじめて7年。オンライン以外で商品を見てもらう場所や、もっと作家さんとお客さまがつながる場所がほしいと考えていました。担当してくれた設計士さんも、『お店っぽくしてみたらどうか?』って提案してくれて。その方のおかげで『やろう!』って思えたんです」(千晶さん)

自分たちの理想を叶えるのって、難しそうですが……。

「プレゼンシートをつくったよね?」(剛さん)

「家のコンセプトみたいなのを彼がシートにまとめて共有してくれたんです。私は逆に、エクセルに予算を細かく書き出して共有。バランスよくリクエストできたように思います。

自分で手書きした間取り図や、L字のテーブルやハンモックなど、家にほしいもののリストを共有したりも」(千晶さん)

「そのリノベーション会社には、LINEのような独自のコミュニケーションツールがありました。そこに、画像検索したり、ピンタレストで拾ったりした、自分たちがいいなと思ったお店のイメージや内装デザインの画像をどんどん送りました。

最初は、ふたりのイメージが分かれていました。私はマーガレットハウエルみたいな家、彼はどちらかというと古材とかに振ったような、トラックファニチャーみたいな内装イメージ。でも結局、結構譲ってくれたかな?」(千晶さん)

「夫婦円満の秘訣です(笑)」(剛さん)

具体的に、どんな提案をおこないましたか?

センスのいい設計士に、安心して委ねた

「ふたりで、『1箇所くらい明るい色を入れてもいいよね』って話してたんですが、設計士さんは全く首を縦に振ってくれなくて……(笑)。『ベースはシンプルにして、小物かインテリアで遊んだほうが絶対いいから!』って。

もともと店舗設計を手掛けたりしていた方で、そういう観点を入れてくれたんです。とてもセンスのいい方で、ダメなことはダメと、きちんと言ってくださる方だった。だから安心して任せられました」(千晶さん)

「ダイニングテーブルも、最初はL字の大きなものをイメージしていたのですが、設計士さんの提案で分けられるように。そのほうがレイアウトも陳列もしやすいからって。

このライトもすごくよくて、こっちの壁に何かを展示できるように。本当にプロの仕事って素晴らしいなと思います」(千晶さん)

回遊性のある間取り

「壁をぶち抜いて廊下にする、というアイデアは、内見の段階で提案してくれて。それをやって本当によかったと思っています」(剛さん)

「回遊性があるので楽しい。子どもができたら、走り回ったりかくれんぼしたりもできるでしょうね」(千晶さん)

基準は、「器が映えるかどうか」

「器が映えるかどうか、には結構こだわって何度もやり直しました。室内で撮影もするつもりだったので、無垢材にこだわったり。

個人的に、日本の器と杉板の相性がいいと思っているので、ギャラリーには杉板を。

コストもかからず、荒っぽい質感がむしろラフでよかったりしたので、あえて本来下地用の材を選んだりもしました」(千晶さん)

リノベーションで大変だったことは?

「物件自体がすごく古いので、耐震の問題や、ローン控除適用の話などの問題に直面しました。おまけに、契約したあとでアスベストが見つかり……。こんなに大きな買い物でも、ブラックボックスってあるんだということを勉強して、ある意味大人になりました(笑)。

去年の8月くらいからはじめて、物件を1ヵ月くらいで決めて、契約を進めつつ図面も同時進行して……。考えることが本当に多かった。物件購入もリノベーションも初めてだったので、すごく濃密な体験ができました。初めて勉強することもたくさんあって、それはそれで楽しかったですね」(千晶さん)

イチから勉強して、ふたりでつくり上げていく充実感もありそうですね。

「スケルトンからできあがってくるまでが、およそ2ヵ月くらい。毎週変化が見られて、まるでわが子の成長を見ているようでした」(剛さん)

「本当は、毎週内覧には来られないんですけど、勝手に毎週見にきては、写真を撮って、お互いに報告し合ってました」(千晶さん)

「図面ではわからないことも、結構ありました。棚の高さとか、図面には書いてあるけれど、実際に見てみる低すぎたりすることも。だから、マメに足を運ぶのはおすすめです」(剛さん)

リノベーションをしたことで、暮らしは変化しましたか?

家で過す時間が、自然と増えた

「明らかに、家で飯を食べる回数が増えました。外で呑んで5000円かけるなら、家に友達を招いて、みんなでいいワインを飲みたいと思うように」(剛さん)

「わたしも、以前は通勤途中に必ずコーヒー屋さんに寄っていたのですが、最近は家で飲むようになりましたね」(千晶さん)

“場”が、行動を後押ししてくれる

「『何かをやろう』という気持ちになったのも、リノベーションをしてから。オンラインショップということもあって、お店もなかなか大きな転換ってないんです。でもひとつ、場所というものがあると、提供できるサービスも全然変わってきます」(千晶さん)

「ここで面白いことをやろうよって呼びかけたときに協力してくれる仲間も増えてきました。いまでは向こうからオファーをいただけることも」(剛さん)

今後、この家をどんな場所にしていきたいですか?

「実は来週(取材当時)、ここで『threetone house』というパーティーを開催します。それを皮切りに、食を通じてひととひとがつながることをコンセプトに、この場所を活用したいと思ってます。

仕事柄いろんなクリエイターさんと出会うことが多いんですが、そのスキルを仕事だけじゃなく生活にも活かしてもらって、一緒に楽しみたい。友達にもそのスキルをお裾分けできると、単純に暮らしも充実すると思うんです」(剛さん)

最後に、これからリノベーションを考えている読者へのアドバイスをください。

「とにかく最初にやりたいことをきちんと整理して伝えること。リノベーション会社にすべてを委ねず、ちゃんと仲間になるためにも。

初めてのことが驚くほど多いし、考えたり決めたりするスピード感も早い。大きな買い物の割に整備されていないことも現実にはあるので、その辺りを経験者に聞いておくのもいいですね。

あと、予算は絶対決めておくこと。それだけで、いろんなことが変わってくると思う」(千晶さん)

「やっぱり、経験者に話を聞くっていうのは大事だと思います。やらないとわからないことって本当にたくさんあるし。『買ってからまたこんなにお金かかるのか!』とか、注意すべき点は多いので」(剛さん)

松永さん夫婦くらい緻密に準備したとしても、見えないことが多いのが物件購入とリノベーション。でも、だからこそ見えてくることや、それによる気持ちの変化や暮らしの充実が、間違いなくというのも醍醐味。

“場”ができて、さらにできることの増えたふたりが、これから「threetone」と住まいをどのように育むのか、楽しみでなりません。


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Photographed by sawako fujii

RSS情報:https://www.roomie.jp/2018/05/431110/