というわけで、大人も子どもも楽しめる絵本の紹介をしていきたいと思います。第11回は、A・トルストイ作・佐藤忠良絵・内田莉莎子訳『おおきなかぶ』です。
『おおきなかぶ』も、『スイミー』に引き続き、小学校の国語で習った! という方もいらっしゃるかもしれません。そして、日本で一番有名なロシア民話のひとつといっても、きっと過言ではありませんね。
ストーリーはこんな風。
おじいさんが、甘い大きなかぶを作ろうとかぶを植えると、やがて、とても大きなかぶができました。
おじいさんは「うんとこしょ どっこいしょ」と抜こうとしますが、大きなかぶは抜けません。
おばあさんを呼んで来て、おばあさんがおじいさんを引っぱって、おじいさんがかぶを引っぱりますが、それでもかぶは抜けません。おばあさんは、まごをよんできて……「うんとこしょ、どっこいしょ」それでもかぶは抜けません。
最後には、いぬやねこにねずみも加わって「うんとこしょ どっこいしょ」……そして、やっとかぶが抜けました。
「おおきなかぶをみんなでひっぱって抜く話」といってしまえば、それまでなのですが、「うんとこしょ、どっこいしょ」の掛け声や、「おじいさんがおばあさんを呼んできて、おばあさんがまごを呼んできて、まごが……」と引っ張る人がどんどん増えていくところ、「やっぱりかぶはぬけません」や「まだまだかぶはぬけません」の繰り返し効果によって、リズミカルで、なんだか楽しくなってくるのが不思議なんですよね。
そして、訳者の内田さんが「うんとこしょ、どっこいしょ」という言葉を採用したからこそ、『おおきなかぶ』がこんなにも有名になったのではないか、と思うのです。日本語の言葉の持つ響きがとても活きている絵本だと思うので、トルストイの原作をロシア語で読むと、また違った印象かもしれませんね。
大人が読んでいても、一緒におおきなかぶを抜いてみたいな、と思ったりするのですが、子どもたちともなると、「うんとこしょ、どっこいしょ」は大合唱。絵本を離れても、おおきなかぶごっこをしたり、寝ている子どもを起こすときにも「うんとこしょ、どっこいしょ」などと掛け声をかけると、「まだまだぬけません」と言いつつ、だんだん起きてきたりと、絵本が日常をちょっと楽しくしてくれる体験ができると思います。
そして、忘れてはいけないのが、挿絵。よく見てみると、「おおきなかぶ」の全体像が描かれてはおらず、本当におおきなかぶなんだなぁ、ということがわかります。また、疲れてしまったおじいさんの表情にも注目です。
単純なストーリーが、言葉や音のスパイスによって、こんなにも印象深く、つい引き込まれる作品になる。日本語って素晴らしい。絵本って、やっぱり奥が深いなぁと思わせる1冊です。
[福音館書店]
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