所有するものを減らし、人びととシェア(共有)する「シェアリングエコノミー」の考えが広がっています。
そのひとつが、使っていない家や部屋があるなら、それを必要としている人に貸そうというホームシェアリングサービス。
今回訪れたのは、旅のプラットフォーム・Airbnbを利用し、タイムシェアリングを実践している部屋。昼は環境広告会社「サステナ」のオフィス、夜はゲストハウスになっています。
代々木公園にほど近いマンションの一室。そこには心からのおもてなしと新しい暮らし方、仕事のやり方がありました。
名前:マエキタミヤコさん職業:プランナー、デザイナー、コピーライター
場所:東京都渋谷区
面積:約40㎡ 1K+ロフト
賃料:16万5千円
築年数:築13年
この部屋を選んだ理由
マエキタミヤコさん
「この部屋をAirbnbに登録したのは、2016年です。
もともとは、当時大学生だった若者たちと活動する事務所のような役割で使うために借りて、仕事を独立したことでわたしのオフィスにもなりました」
「そのときから、遠方からやってきた仕事仲間やクライアント、友人たちがよく泊まりにきていたんです。
ここは代々木公園にほど近く、仕事をするにも観光をするにも便利な場所なので、重宝されていましたよ」
昼はオフィス、夜はゲストハウス。タイムシェアリングをはじめたきっかけは?
ミヤコさんと、ゲストのマイクさん
「外国の知人が日本に遊びに来た際、偶然Airbnbでこの部屋の近くに滞在したことをきっかけに、その存在を知りました。
たまにうちに泊まる方のなかには、人の家に泊まるのは気をつかってしまう……という方もいたので、それならAirbnbに登録すれば“ホテルを利用する感覚”で、気がねなく利用してもらえるんじゃないかな? と考えたんです」
ちょうどお昼に、マイクさんの好きな「ざんぎ」をつくってくれたところでした
環境広告会社「サステナ」の代表であるミヤコさんのオフィスは、SOHOの形態。デザイナーやライターなどクリエイティブな仲間が思い思いに仕事をし、ときにはランチをつくってゲストと一緒に食べることもあるのだとか。
「サステナは、持続可能な社会を目指す広告会社です。タイムシェアリングは、時間と場所を共有する、これからのシェアリングエコノミーだと思っています。
仕事のやり方や旅行の仕方は、時代に合わせて“変えていっていい”ものとわたしは思うので。なんにでも所有欲が強すぎると、持続させていくのは難しいんです」
残念なところは?
正直、困ったゲストが来たことは……?
自宅やオフィスをホームシェアリングとして提供する際、どうしても気になるゲストの「倫理観」。物を壊されたり、騒音を立てたりなど心配は尽きないように思いますが……。
「Airbnbに登録を決めた時、『部屋をめちゃくちゃにされるよ!』と、反対した友人もいましたね(笑)。でも実際にはじめてみると、驚くほどみなさんお行儀がいいんです」
「日本はホームシェアリングについては後発なので、そうした誤解があるのかもしれませんが、もともと海外では休暇や仕事など長期で家を空けるとき、旅行者に部屋を貸すビジネスが確立しています。
ゲストの方がきちんと勝手を知っていて、わたしが出社する前に部屋をきれいに掃除をしてくれる方までいるんですよ(笑)」
溶けたキャンドルたち
「前に一度あったのは、飾りで置いていたキャンドルに火をつけて、放置しちゃったゲストがいたこと(笑)。大ごとにはなりませんでしたが! でもおかしくって、キャンドルをそのままにしてあります(笑)」
お気に入りの場所
自宅のように過ごすことができるカウチ(ゲストのマイクさん)取材当日、Airbnbを利用して滞在していた、ゲストのマイクさん。アメリカ・サンフランシスコ在住のマイクさんは仕事で来日中で、ミヤコさんとはすっかり意気投合し、ミヤコさんは仕事のアドバイスを求めることもあるのだとか。
そんなマイクさんに聞いたお気に入りの場所は、大きな窓から日差しが降りそそぐカウチ。本を読んだり仕事をしたり、まるで自宅のようにくつろぐマイクさんが目に浮かびます。
都心の景色が広がる屋上
共有で使用できる屋上からは、新宿の高層ビルが見渡せます。住人たちはここでビールを飲んだり、景色を眺めたりできるというから羨ましい!
お気に入りのアイテム
大きなワークデスク(ミヤコさん)取材風景
「サステナを一緒に立ち上げたデザイナーが、厳選して買ってくれたデスクです。大きくて仕事も打ち合わせもしやすいし、電源が出る穴もあって便利なんですよ」
暮らしのアイデア
ルールはなるべく少なくしたい基本的にはタイムシェアリングを設けているミヤコさんですが、ゲストが滞在する時間帯は自由とのこと。仕事に支障はないのでしょうか?
「Airbnbに登録する際に『ハウスルールを設けてください』と言われるのですが、なるべくルールは少なくしたいと思ってます。
例えば、フランス人の男の子が滞在したとき、日中はロフトでずーっと寝ていたことがあったんです。聞いてみると日本のクラブが好きで、夜な夜なナイトライフに出かけていたんですって。
一応タイムシェアリングではあるのですが、それならいいやって。せっかくここを選んでくれたのだから、どうぞ自由に過ごしてくださいというのがわたしのスタンス」
「仕事はどこでもできるし、いろんな人との出会いが仕事につながることもあります。変えていいところはルールにとらわれず、柔軟性があっていいのではないでしょうか」
押しつけではないおもてなしを基本的な調理器具や調味料が置かれたキッチンには、ミヤコさんが吟味し、選んだものが並びます。そこにはミヤコさん流の「おもてなし」の心が。
「せっかくここを選んでもらったのだから、ここでしかできない体験を楽しんでもらいたいと思っています。ゲストがリラックスできるホスピタリティを大切にするのも、心がけていますね。
だからゲストが仕事のミーティングでここを使うのもOKですし、そのときにお茶を出したり、お手伝いもして(笑)。わたしもいろいろな人と知り合えるのを楽しんでいるんですよ」
「それに、海外からのゲストには、日本の一般家庭のごはんのおいしさをぜひ味わってもらいたいので、料理を振るまうこともあるんです。そのためには本当においしく、そしてからだにいいものを食べてほしい。
お米や野菜は低農薬のものを使うことで日本の家庭料理を知ってもらえたらうれしいですね」
ミヤコさんは、生産者の顔が見える安心・安全な食品を販売するセレクトwebショップ「品品(しなじな)」も運営されているそう。ここにも社名「サステナ」の語源であるサステナブル(持続可能)が根づいています。
「好きな仕事をして、からだにいいおいしいものを食べる。そしてまっすぐにからだを伸ばして寝る。そんな当たりまえの環境を提供することが、わたしにとってのシェアリングエコノミーかもしれません」
かつて、バックパッカーとしてチベットを旅した際、見ず知らずの人に助けてもらったことがあるというミヤコさん。
お礼をしようとすると、「自分にではなく、いつか自分と同じくにの旅行者がいたら、親切にしてあげてほしい」と言われたそう。その優しさと心強さは、今でも忘れらない思い出。
オフィスをタイムシェリングとして旅行者に提供することを決めたのは、そのときの恩返しと笑いながら話してくださったのが印象的でした。
世界中の旅人が集い、語らい、仕事をするホームシェアリングサービス。「シェアエコノミー」という新しい暮らし方には、単なるサービスやビジネスではない、これからの社会に必要なエッセンスが散りばめられているようです。
ミヤコさんのおもてなしとおしゃべりは、時が経つのも忘れるほどの楽しさと、また会いに行きたくなる懐かしさがありました。
ミヤコさんのお部屋に泊まりたい方はこちら!
Photographed by Yutaro Yamaguchi