広さ55㎡と聞いて、4人で暮らすには少し狭いのでは……?と思って訪れたところ、ゆったりした広さを感じさせる快適空間でした。その秘訣が知りたい!
ということで、LIXILでプロダクトデザインを手掛ける陽一郎さんに、プランからパーツ発注までできる限り自分で行ったという、リノベ完成までの過程をうかがいました。
ゆったりしたLDK
この部屋に決めたきっかけは?
陽一郎さん、由香さん、1歳と3歳のお子さんたち
「ここに引っ越す前は葛西の賃貸マンションで暮らしていました。仕事で住宅に関わっていることもあり、マンションを購入してリノベーションしたいと、以前から思っていたんです。
そんなとき、ここに住んでいた親族が体調を崩して手放すことになって。幼い頃から来ていた思い出の場所なので、手放すのが惜しかったんです。
妻の実家や僕の職場へもアクセスが便利だし、いいかもなと。そこで、仲介業者を通さない『個人間売買』という方法で購入しました」(陽一郎さん)
個人で売買するって、専門的な知識が必要そうですが……?
「ある程度は必要ですが……登記関係書類の作成など、専門的な部分はサポート会社に依頼することで、安心して進めることができましたよ。
通常、不動産会社に払う仲介手数料がないため、費用がおさえられるのは利点です。
“中古マンションのリノベ”もある意味そうだと思うんですけど、個人が多少のリスクをとることで、快適さやデザインに余力をかけることができる。これからの住まいづくりは、そういった流れが増えてくるんじゃないかなと、僕は思っています」(陽一郎さん)
55㎡という狭さは、気になりましたか?
「僕の実家は静岡で、妻の実家が千葉と、都内から近くはないけれど車で気軽に行き来できる距離なんです。
普段は都内でミニマムに暮らし、気軽に行ける両親の元へは休日などを使って訪れる、2拠点居住を視野に入れて物件を探していました。それに、子どもも15年強経てば巣立つわけですし、それなら広さはそれほど必要ないかなと」(陽一郎さん)
「住まいをフレキシブルに考えているので、もう少し広いマンションに引っ越してここは賃貸に出すか、売却することもあるかもしれません。
区の発表している都市計画なども参考にして、手放すときのことを意識した資産価値という点で優れていると判断できたのも、ここに決めた理由のひとつです」(陽一郎さん)
奥さまは、この狭さが気にかかっていたそうですが……?
「最初は心配でしたね。メンテナンスのことを考えると戸建てよりマンションがいいなとは思っていたんですけど、どんな風になるのか、初めは想像ができなかったので」(由香さん)
「レイアウトを考えて、それをCGに起こして、何度か妻にプレゼンテーションして説得しました(笑)」(陽一郎さん)
リノベプランはどのように進めましたか?
「家づくりの知識をもっと得たい思いもあって、できる限り自分でやることに。
設計は、仕事でもご一緒したことがある.8 / TENHACHIさんにお願いしました。オープンハウスにうかがったことがあり、つくるものが好きだったし、ご夫婦でやられていてお子さんもいらっしゃるので、信頼できましたね」(陽一郎さん)
「設計にかかったのは、トータルで1年ちょっと。ざっくりとしたレイアウトや間取りは事前に僕がつくり、それを共有しながら進めてもらいました。
そのくらいの期間があると、やりたいことも最初と変わってきたり、設計者側からも新しい提案があったり……着地するまでなかなかかかりましたね。1,000万ほどで考えていたリノベ予算が、結果1,800万ほどになってしまいました」(陽一郎さん)
ご夫婦での意見の違いなどはありましたか?
「基本的に好きなテイストは似ているので、そんなになかったと思います。バスルームのタイルなど、カタログで見るだけではなく、ショールームで一緒に実物を見て決めたり、面倒でもひとつひとつ確認するようにしました」(由香さん)
「ただ、僕はデザイナーという職業柄、つい見た目を重視しすぎてしまって……『デザイン性 vs 使い勝手』のさじ加減は、妻の意見を聞いて調整しました(笑)。
細かいところですが、洗面台はシンプルな1面鏡ではなく、3面鏡に変更したり。フラットなつくりで考えていた玄関は、子どもが遊んで帰ってきたときに、砂が室内に入らないように段差をつけたり……」(陽一郎さん)
バスルームはおふたりのお気に入りの場所。LIXILでもトイレなどのデザインを手掛ける陽一郎さんのこだわりが詰まっています。
キッチンはイケアのシステムキッチンを採用。足りない部分や表側だけ造作することで、うまくコストダウンしています。
キッチンツール掛けは、レールが隠れる構造にすることでスッキリと。
部屋の詳細や冨岡さん一家の暮らし方については「みんなの部屋」で!
ズバリ、狭さを感じさせない工夫って?
玄関脇の小さな階段を上がると、隠れ家みたいなベッドルームが
「いちばん大きいのは、ベッドルームをロフトのように持ち上げて、その下に大きな収納をつくったことです。
部屋をタテに区切ることで、2倍のスペースを確保しています。ベッドスペースのこもる感じが、とても落ち着くんです。照明も少なくして、眠るだけの場所にしています」(陽一郎さん)
「玄関からつづく廊下兼収納スペースに、型ガラスの扉を取り付けているのもポイントですね。
バスルームを囲むようにして、冷蔵庫、パントリー、洗濯機、収納棚などが隠れてるんです。“廊下だけ”の場所にしてしまうと、もったいないので。
透け感のあるガラス扉を採用したので、閉塞感や生活感が薄れていると思います。扉はtoolboxで注文して、搬入は自分で行い、取り付けは大工さんに協力してもらいました」(陽一郎さん)
リノベで一番大変だったことってなんですか?
「発注作業がとにかく大変でした……。通常は設計者や工務店側にやってもらうんですが、ほぼ自分でという方法をとったので。
工事スケジュールに合わせて“いつまでに何が必要か”というリストをもらい、ひとつひとつサイズや個数を確認して発注するんです。さっきお話したガラス扉もそうですし、照明や鏡、ドアノブ、スイッチなどなど。3~4ヶ月間、仕事後に帰ってきてはパーツを探して発注していました。
しかも、工事現場の都合上、早く届きすぎてもダメなんです(笑)」(陽一郎さん)
扉の納品が当初よりもぜんぜん遅れたり、ロンドンで見つけて発注したドアの取っ手も違うものが届いたり、鏡のサイズを間違えて発注してしまったり……。
困ったこともありましたが、終わってみればやってよかったですね」(陽一郎さん)
これからリノベをする方にアドバイスをお願いします
「できあがって住んでみると、小さなことまで結構気になるもの。せっかくだから、細部までこだわったほうが絶対にいいと思います」(由香さん)
「仲介会社を通さずに、個人で設計者を探してお願いする方も増えていますよ。雑誌やROOMIEのようなWebサイトを見ると、担当した設計事務所名が出ていたりするので、気になったところにまずはメールをしてみたらいいと思います。それに、オープンハウスに行ってみるのもオススメ。
発注作業もリストをきちんと読んで、間違えなければできますよ! 設計の過程は、もちろん全部お願いしたほうがラクですが……やってみると学べることがたくさんあります。住まいのつくり方を知れるのはもちろん、人生計画について考えるきっかけになったり、自分のリテラシーも高まった気がします」(陽一郎さん)
編集部ノート55㎡という面積をうまく活用した空間。平米数だけで「これでは狭いかな」と判断してしまうのは、確かにもったいないかもしれません。
それに、家族は変化していくもの。「今」みんなにとっていちばん心地よい形をつくり、その時どきで変えていく。
そう考えてみると、都心でのマンションリノベの可能性が広がりそうです。
Photographed by Norihito Yamauchi
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