仕事のオン/オフっていうけど、今後、そうやってスイッチが必要な仕事はロボットに置き換わると僕は思っているんです。
これからはロボットでは判断がつかない、心にかかわる仕事こそが大事になってくる。僕のカフェでバイトしてるスタッフにも言ってます。汗がひとすじ流れていたらおしぼりを手渡す、体感温度が高いようなら空調を整える、とかね。
郊外某所の喫茶店を改築したアトリエ、隣接する庭には青々とした家庭菜園が。さらにその脇にあるガレージで、仕事のスイッチは「オン/オフ」せずに「ボリューム調整」で考えるというハックを教えてくれたハイロックさんは言いました。
ハイロックさんは2014年から、東京までクルマで約2時間の距離にある土地にアトリエを構え、行き来をしながら仕事をするスタイルを実践しています。先日は、モチベーション管理やマルチタスクのコツ、暮らしを助ける最新家電(※)について話を伺いました。今回はその記事で書ききれなかった、その日々から得た「2拠点生活の気づき」をまとめます。
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ライフハッカー[日本版]では「#移住」「#多拠点生活」というカテゴリを設けるくらい、このテーマに向き合ってきました。「都会に住むか、地方で暮らすか?」 という迷いのこと。あるいは「本州最後の楽園」になるかもしれない浜松市、「幸福度日本一の街」福井の暮らしといった土地のこと。そして、オランダ、スウェーデン、フィジー、マレーシアといった海外のこと。
ただ、移住の手前には「住む環境を変える」という選択肢もあるものです。アパレルブランド「A BATHING APE®」のグラフィックデザインを手がけて独立後、デザイン、雑誌連載、カフェオーナー、ラジオパーソナリティ、さらには世界中のトピックとモノを紹介する自身のウェブサイト「HIVISION」 管理人も務めるなど、多方面で活動するハイロックさんにとって、東京と郊外の行き来はどのようなエネルギーをもたらしているのでしょうか。
ガジェットを愛する一方で、「仕事ではなるべくPCやスマホの画面と向き合わないというのがベースにあります」と話すハイロックさん。彼がこの地で得た、学びとは。
心の豊かさや大らかさは「面積」で変わる
ハイロックさんは週に3日のペースで東京へ向かっています。ラジオの生放送や仕事の打ち合わせが多く、宿泊せずに日帰りがほとんどだそう。
用事をまとめて、なるべく東京へ行く機会は減らそうとしているんですよ。でも、東京に住んでいる頃と比べると一日の密度は濃くなった気がする。情報に対しても、自分のアンテナから入ってきたことを短い時間で容器に満タンにしたい意識が強くなった。
郊外の暮らしは、インプットできる情報や偶然は少なくなる代わりに「駐車場が少なくて停められない」「満員電車に乗らないといけない」といった細かなストレスの積み重ねが少ないといいます。常に自分を変化させていきたいと考えるハイロックさんは、「人の心の豊かさや大らかさは、暮らしにおける一人あたりの面積に比例してくる」と話します。
東京みたいに密集していると一人当たりの面積が小さくなるけれど、田舎に行くほど面積は大きくなる。自分用の農園を持ったり、自分だけのガレージや広いアトリエなんて、東京ではやりにくかったことをいまはやれている。すると、大したことでイライラしなくなってくるんだよね。
もちろん、自分も東京に15年住んでいたし、それはマイナスではない。年齢や環境の変化によってのチョイスだよね。それに「自分そのもの」ってなかなか変わらないから、環境を変えていくのが自分を変える一番の近道なんじゃないかな。
「チョイス」と「無駄」を意識する
仕事の中心が東京であるハイロックさんは、インターネットによって情報スピードが速くなり、高速道路や新幹線で移動も早くなった現状があるからこそ、郊外が「アリ」な選択になってきたと感じています。それは仕事において効率を高めた先に「何がしたいか」という問いにもつながります。
僕の幸せって、いろんなことをチョイスできることなんだよね。コーヒーもインスタントがあればハンドドリップもある。そこをあえて無駄なハンドドリップを選ぶと得られることも多い。
今はテクノロジーで効率的かつ便利になって、無駄なことに時間を使えるようになったよね。変な言い方だけれど、無駄なことをするために時間を稼げるようになった。
効率化で生まれた時間にさらなる仕事を入れれば、従来よりもずっと仕事ができる(本人が望むかはさておき…)わけですが、あえてその時間を「自分のための無駄」に使う。その時間を感性やセンスを磨くことに当てられれば、ともすると仕事の質も変わるかもしれません。
ハイロックさんが大事にする「チョイス」と「無駄」は、仕事のコミュニケーションにおいても、ひとつの観点になっています。Amazonなら欲しい本にすぐたどり着ける一方で、本屋なら目当ての隣から「付加情報」を得られる良さがあります。それがいらない情報ならチョイスして見捨てればいいだけです。
自然循環を意識して暮らす。人間のデフラグである瞑想も使う
仕事のベースは「なるべくPC画面と向き合わない」こと。できれば全てのことをアナログで済ませたい派ですね。
人間の「循環」を考えると、コンピューターが間に入るのは自然ではない。PCやスマホの画面を見る癖がつくとずっと見てしまうけど、ネットって道具の一種だから、それって料理しないのにずっと包丁を持っているようなもの。不必要なら置いたほうがいいし、もっといい方法があるかもしれないと思っていたい。
「循環」は、ハイロックさんが現在の生活をするようになって学んだ、良い生活を送るために必要な観点だといいます。教えてくれたのは、庭に設けた家庭菜園こと「ハイロックファーム」でした。大工に切ってもらった木を自ら組み上げ、食物がよく育つという「赤城山の土」と「金澤バイオの土」をブレンドした自慢の畑です。
ハイロックファーム最初の作品が間もなくfix。命を育てるってとてもクリエイティブだ。人間が手を貸すことはできるが結局は天任せ。趣味の盆栽によく似ている。#無肥料無農薬 #自然農 #dieterrams
A post shared by ハイロック (@hirock_fnd) on Nov 7, 2017 at 9:55pm PST
アトリエを訪れた当日、ハイロックファームには2種類のブロッコリーが。ハイロックさんのルールは不耕起、不除草、不施肥、無農薬の「自然農法」で育てること。この農法を説いた福岡正信の著書『わら一本の革命』には大きな影響を受けたといいます。
自然農法 わら一本の革命 1,296円自然循環の大切さを考えるようになったんです。たとえば、作物につく青虫を全部殺すと、それを狙う虫がやってこないから自然循環が絶たれる。人間の生活も一緒で、日の出に起きて、日没で寝てという自然循環を断ってしまうから「不規則」な生活になる。
なるべく自然に身を委ねていくほうが良い生活が送れることは畑から学んだことですね。人類だって能力が高い人もいれば、そうでない人もいて、それも「社会の循環」だから。循環を考えると、無駄なものは何もないと思えるからさ。
そして、ハイロックさんにとって「循環」のひとつになっているのが瞑想。多くの本から「毎日同じ時間に、同じ場所ですることが大事」と学んだことから、朝や日中はスケジュール次第でリズムが崩れがちのため、就寝前に20分の瞑想を続けているそう。
寝る前の瞑想で集中できないのは心残りがあるとき。明日の準備ができてない、メール送り忘れてるとか。その最後のチェックにもなっているんだよね。
あと、夢って、脳が情報を整理している、コンピューターでいう「デフラグ」の最中の断片が見えたものという説を信じていて。瞑想は脳を整理する働きもあるから、デフラグ済みの脳でぐっすり眠れるんだよね。
ハイロックさんが車で東京へ向かうのも、瞑想と似たような効果があるのだとか。手足は運転に取られて頭しか使えないことで、物事を考えたり、アイデア思いついたり。向かっていく時間で仕事モードのボリュームを徐々に上げていきながら切り替えるといいます。
瞑想は「呼吸をすること」を確認する、言い換えれば「今、生きていると知る」作業でもある。3年間毎日、瞑想を続けているんだけど、人間が振り回されていることって過去と未来のことばかりで、「現在」は心配事には入っていない。
その過去と未来に向いちゃった意識を「現在」に集中することで頭がリフレッシュするっていうロジックだから、運転は瞑想に近い。
先日の記事でも「インデックス仕事術」(※)とも呼べる方法を紹介してくれたハイロックさん。その裏側には、このアトリエをベースにした生活で得た体験が生かされていました。
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何もいきなり移住しなくたって、まずは郊外での暮らしから試してみるのも「変化」には違いありません。ハイロックさんの働き方は首都圏ベースの実例として、試みるに値する参考になるのではないでしょうか。
Image: 千葉顕弥
Source: HIVISION, 金澤バイオ, Amazon
(取材・文/長谷川賢人)
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