美容師歴10年の庄子智裕さんが働くのは、西荻窪駅からほど近い「LEILEI(レイレイ)」という美容室。以前は吉祥寺の某有名美容室で働いていた庄子さんが、職場が変わったこともあって2年半前に引っ越してきたのが、西荻窪でした。
駅にも職場にも近いマンションで暮らす庄子さんの部屋には、“美容師”のイメージからは想像していなかった“オタク”な趣味が詰まった、それでいてしっかりスタイリッシュな空間が広がっています。
名前:庄子智裕さん職業:美容師
場所:東京都杉並区西荻窪
面積:22㎡
家賃:83,000円
築年数:築30年
お気に入りの場所
まさかの「段差」部分「いつも、だいたいこのあたりにいます」と言いながら庄子さんが腰掛けたのは、まさかまさかの“部屋の段差”。立派なソファもあるのに……と思うけれど「どうしてか、ここが落ち着く」とのこと。
「ここに座って、漫画を読んだりテレビを観たりします。漫画やアニメが大好きなので、もはや“ライフスタイル”ですね。ただのオタクですよ(笑)。やるからには“にわか”ではいられなくて、ついついしっかり勉強してしまうんですよね」
そう話す庄子さん、憧れるようなリノベーション物件で暮らす美容師でありながら、オタクであるというギャップ……。部屋のあらゆるところに、“にわか”でいられないストイックな一面が表れています。
この部屋に決めた理由
3ヶ月ほどかけて見つけた部屋は、中古不動産をさまざまなテーマの部屋にリノベーションして貸し出す「REISM(リズム)」に掲載されていた物件。
「特にエリアは絞らずに探しました。とりあえず中央線か井の頭線が通っていれば、どこでもよかったんです」
身長が180cm以上もある庄子さん。家を選ぶときに外せなかったのは、なによりも天井の高さだったそうです。キッチンと部屋を分ける例の“段差”を降りれば、天井がぽっかりと高くなっていて、部屋はかなり広く感じられます。
また、24時間利用できるゴミ捨て場があること、そこがきれいに保たれていたことも、入居の決め手に。
「以前働いていた美容室では、帰りが深夜近くになることも少なくありませんでした。その頃に暮らしていた物件での経験から、自分の生活リズムに合わせていつでも利用できるゴミ捨て場があることが、部屋選びの必須項目でしたね。このマンションには管理人さんが常駐しているので、ゴミ捨て場の管理も行き届いていて、常にきれいに保たれています」
残念なところ
職場が生活圏にありすぎて、オン・オフの切り替えが難しい勤務先が徒歩圏内だなんて、たくさん寝られるしいいですね! と羨ましく思ったけれど「いいことばかりでもないんですよ。職場が生活圏のなかにあるとオン・オフの切り替えができなくて。1日がだらだらと始まってしまうんですよね」とのこと。
なるほど、「休みの日にふらりと入った飲食店で、お客さんにばったり」なんて、気を抜けないかもしれません……。
キッチンをあまり濡らしてはいけなかったり……庄子さんが週一で通うほど大好きな飲食店が「CoCo壱番屋(以下、ココイチ)」。特にココイチの「豚しゃぶカレー」が大好物なのだそう。
「本当は毎日でも食べたいくらい好きなんですが、店員さんに『あの人、毎日来てる』って思われないよう、我慢してます(笑)。どうしても我慢できないときには他の店舗まで足を伸ばしますね」
週一のカレー以外は基本的に素食で済ますとのこと。「見てのとおり、自炊もしません」という言葉のとおり、キッチン兼洗面台である水周りは整っていて生活感がないし、そもそも本格的に料理をするには不向きそうなサイズのキッチンに見えます。
「引っ越してきたときに、『このあたりはあまり濡らさないでください』って無茶言われましたし……(笑)」
いやはや、“おしゃれ”と“生活”の両立って、難しいんだなア……。
収納が少なかったり……「みんなの部屋」にたびたび登場する収納「バンカーズボックス」が、ここにも。もはや、こだわり部屋のアイコン的存在ですね。
「収納がないので、止むを得ずって感じですね」と庄子さんが言う通り、たしかに部屋にはクローゼットなどの収納スペースがなく、その代わりに壁一面に木製棚が取り付けられています。オープン収納だから、きちんと畳んで片付ける習慣につながっていたり、収納の少なさは一方で物欲を抑えるのには好都合だったりと、デメリットばかりでもないそうです。
「どうしても増えていってしまう洋服は、職場の後輩にあげては新しいのを買う、の繰り返し。“美容師あるある”ですね。自分も、これまでそうやって先輩から貰ってきた経験があるので」
打ち放しの壁を生かせていないことオープン収納の棚が並ぶ壁の反対側は、シャープな印象のコンクリート打ち放し。すっきりとしていて、部屋全体としてバランスがいいようにも思えるけれど、「この壁をちゃんと生かしたい」と庄子さん。アートやフラッグを掛けようと、もともと空いていた小さな穴にフックを取り付けてはみたものの、強度が足らずに断念したそう。
「その後、自転車をスタンドでディスプレイしてみたんですが、部屋が狭くなってしまうので“別の場所”に移しました」
お気に入りのアイテム
職場の先輩に組んでもらった、ヴィンテージパーツのピストバイク“別の場所”というのが、こちら。サイクルショップように天井から吊るし、部屋を狭くしない方法はないかと考えたアイデアだそうです。使っているのは、IKEAのS字フックふたつだけ。クランク以外すべてヴィンテージパーツを使った自転車は、前の職場の先輩に組んでもらったもので、フレームは大阪の「ZUNOW」のもの。
「天井のいい位置に配管があったので、ラッキーでした。よく頭をぶつけてしまうのだけが難点ですね(笑)」
幼馴染が作るキャンドル「OLGA GOOSE CANDLE」は、中学校時代からの幼馴染によるブランド。展示会に行くたびについつい買ってしまうのだそうです。
「並べるだけでかわいいし、だれかにプレゼントするのにもちょうどいいんですよね」
庄子さんの部屋に並ぶのはほとんどが中サイズですが、サイズは大・中・小とあります。「追い風がぐんぐん」「本能を呼び覚ます」「もっとなかよし」など、シリーズごとに掲げられるユニークなテーマもかわいらしい!
見つけたら必ず買うBjork(ビョーク)アイテムBjorkにまつわるものは、見つけるととりあえず買ってしまう庄子さん。なかでもデッキがお気に入りで、棚の目立つ位置にディスプレイしてあります。
玄関にもデッキが置いてあったので、スケーターなんですね、と言うと「“スケーター”ではなく“スケートボードが好きな、普通のひと”です(笑)」と念押しされました。
コーチジャケットやスウェット、さまざまなロゴつきのキャップなど、「スケートをやりはじめてからできた知り合いの店や展示会で買った」という洋服が並んでいたのが印象的。
どっぷり浸かる、漫画やアニメ「『ちはやふる』はバイブルですね」
噛みしめるように言う庄子さん。スケートなどメインストリームのカルチャーにも精通していながら、“オタク”にもいそしむ、その辺りのギャップこそが親しみやすさの所以だろう、と僕は感じました。実はこの取材中も、テレビではBGMとして『Fate(フェイト)』を流してくれていました。
「なんでも、いちいち“うんちく”がすごいんですよね(笑)。後輩にもよく、『はいはい、はじまったよ』なんて言われますし…(笑)」
そんな“うんちく”も、「ハマるからには、しっかり本気で勉強する」という勤勉さの賜物。スケートにも漫画にも、いちいち真面目なのがいい!
暮らしのアイデア
クリアファイルを“アート”に『ちはやふる』のほかに愛読しているのが、『鋼の錬金術師』。journal standard Furniture(ジャーナルスタンダードファニチャー)で買ったヴィンテージライクな棚の上に“セル画”が飾られているところを見ると、なるほど、こちらもかなり好きな作品のようです。
「実はこれ、クリアファイルなんです。IKEAで買ったシンプルな額縁に入れるだけでアートに見えますよね」
固定概念にとらわれなければ、家具選びの幅も広がるこの部屋に引っ越すときに、唯一持ってきたものとして教えてくれたのが、珍しいデザインのテレビ台。
「実はこれ、業務用のキッチン収納なんです。引っ越し前にネットオークションで落札して、1万5千円くらいでしたね」
同じように、ベッド台として使っているパレットも、ネットオークションで買ったもの。「1×1mのパレットをサイズオーダーして並べただけ」と、なんとも簡単で真似したくなるアイデア。ひとつ4千円ほどなので、お金をかけずに実践できそうです。
ポプリは、アパレルショップのインテリアに倣って部屋に漂ういい香りが気になってうかがうと、「アパレルショップ『YAECA(ヤエカ)』に置いてあったのを真似した」というこちらは、透明の器にポプリの中身を移し替えただけのもの。もう2年くらいそのままだというが、玄関を開けた瞬間からいい香りがしていた。
「たまに霧吹きで湿らせると、香りが復活しますよ」
これからの暮らし
「ひとりで暮らせるうちに、デザインの強い部屋で思いっきり好き放題やりたいと思って」と選んだリノベーション賃貸。キッチンや収納など妥協した部分もあるから、次の更新のタイミングで引っ越すことも考えているのだそうです。
凝り性で、どんなことにも真面目に取り組む庄子さんだから、次の部屋もきっと溢れんばかりの趣味と親しみやすさに満ちた空間になるに違いないと、僕は確信しています。
Photographed by Masahiro Kosaka
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