最近、交互浴ブームやサウナブームが巻き起こったりと、なにかと話題になっている銭湯。
筆者も最近そんな銭湯の魅力にハマり、週数回のペースで通うようになったうちの一人ですが、今回はそんな銭湯という場所でなんとDJイベントが開催されるという情報を聞きつけ、行ってみました!
こんなのアリ!?銭湯でDJイベント
東京都台東区にある、稲荷町駅から徒歩5分の銭湯「日の出湯」で開催された銭湯サイレントフェス™、その名も『ダンス風呂屋』。
今回が3回目の開催となるこのイベントは、その名の通り、銭湯の浴室がダンスフロアになるDJイベントだそう。
「銭湯で爆音流して大丈夫なの……?」
と騒音問題が心配になりますが、このイベントは「サイレントフェス™」。つまり、スピーカーで音楽を流さない音楽イベントなのです。
そのため、オーディエンス全員が専用のワイヤレス・ヘッドホンを身に着けて、DJやライブを共有します。
それでは、男湯・女湯の各浴室の前に置いてあるヘッドホンを装着し、浴室に行ってみましょう!
男湯女湯行き来自由のDJタイム
「な、なんだこれは……!」
一歩足を踏み入れてヘッドホンを装着すると、そこはまさにダンスフロア!
ヘッドホンから流れる音楽を聴きながら、まわりで踊る人やDJの姿をみていると、空間に一切音楽が流れていないことなんて忘れてノってしまう。
音楽に合わせて激しくダンスする人もいて、まさに風呂屋でフロアが沸いている。
男湯と女湯に分かれている銭湯の構造を活かして2会場で開催されているので、ちょっとドギマギしつつも異性の浴場へ移動することで、別のDJのプレイを楽しむことができます。
それぞれのフロアで演出にも違いがあり、女湯の浴室の壁面には、VJによる「風呂ジェクション・マッピング」が!
男湯ではミラーボールやレーザーの光が会場を満たして、視覚的にもフロアを温めています。
ビカビカに演出されたフロアでノリの良い音楽を聴きながら、ふと我に返ると「そういえばここ銭湯だよな……」というギャップを感じて面白い。
今回のイベントはサイレントフェス™なので、ヘッドホンの音量を下げたり外したりすれば殆ど無音。周囲の人と会話をすることだってできます。
長時間、爆音で音楽を浴び続けるようなイベントとは違って、好きなタイミングで音楽から離れたり、風呂桶や端にあるカラン座ったり、一人ひとりが好きなように楽しめるのもサイレントフェス™の特徴かもしれません。
実は筆者はこういうDJイベントに参加したことがなく今回がはじめてなのですが、何もハードルを感じることなく楽しむことができたばかりか、他のDJイベントにも興味が出てきました。DJイベントの入り口にはぴったりかもしれません。
そんなこんなで音楽を思う存分楽しんでいましたが、そういえばここは銭湯。
DJタイムのあとには、さっきまでダンスフロアだった浴室にお湯を貯めてのお風呂タイムです!
「お風呂タイム」で心ゆくまでリラックス
※特別に許可を得て撮影しています。
浴槽にお湯が入ると、さっきまでまさにダンスフロアと化していた空間とは思えない、見覚えのある銭湯の姿が!
ダンスで流した汗を同じ場所で流してリラックスできる……体も気持ちもスッキリします。
同じ音楽で盛り上がった人同士の間にはどこかゆるい連帯感がうまれ、和気あいあいとした雰囲気のお風呂タイムとなっていました。
最初は首を傾げながら恐る恐る参加した今回の『ダンス風呂屋』でしたが、DJタイムに全力で音楽を楽しんで、そのすぐあとに銭湯でリラックスできる、最高に”チル“で贅沢な音楽イベントでした。
しかし、そもそもなぜこんなイベントを開催しようと思ったのでしょうか?
この企画の主催者であり、このイベントを企画しているOzone合同会社の代表でもある雨宮 優さんと、日の出湯オーナーの田村 祐一さんにお話を伺いました。
場を温めれば人はつながる
──そもそもなぜ銭湯でDJイベントをやろうと思ったのでしょうか?
雨宮さん:最初は正直思いつきでした。
日の出湯さんを紹介してもらい、オーナーの田村さんと会って実際に日の出湯を訪れてみたら、ロビーのところで知らない人同士がゆるくつながりあっている光景を目の当たりにして、コミュニティが醸成されていることを感じたんです。
でも、これは考えてみればクラブも同じだなと思って、場をあたためれば人ってつながりやすくなるんですよね。
銭湯はお湯を沸かすし、クラブはフロアを沸かす。そこの類似点みたいなものもあって、組み合わせることで相乗効果が得られるんじゃないか?というところで企画に至りました。
DJイベントと銭湯の架け橋に
──実際、『ダンス風呂屋』に来る方は、どんな層の方々が多いんでしょうか?
雨宮さん:特定の層の人が多いとかはないのですが、今回は30~40代の女性が多いですね。全体としては、20~50代まで、銭湯好きから音楽好きまで幅広い方に来ていただいています。
──私はDJイベントは今回がはじめてだったのですが、そんな私でも楽しめて、「DJイベントって良いな」と思えました。
そういう、クラブに行ったことがない人がDJイベントに参加できたり、逆にDJイベントは好きだけど銭湯にはあまり行ったことがないという人が銭湯に行くきっかけになるような場にもなっているように感じました。
雨宮さん:それはまさにサイレントフェス™の魅力だと思っています。「ダンスミュージックは好きだけどクラブは怖い」という人は結構いるようなのですが、銭湯は日常の延長線上にあってふらっと入れるし、入り口も明るいし、煙もない。
音楽が好きであればフラットに来れる場所なので、敷居を下げているという側面はあると思います。
「銭湯離れ」をどうにかしたい。100年以上続く銭湯、4代目オーナーの想い
──最近、廃業に追い込まれる銭湯の話をよく耳にしますが、このイベントを通じて、銭湯にもお客さんが増えたりするのでしょうか?
※都内の銭湯はこの30年で、2600軒から600軒に数を減らしている。
田村さん:たくさん増えるとは言えないですね(笑)
でも、面白いイベントなので、テレビやネットを通じ、「DJイベントやってるんだって!」と入ってきてくれる方は確実に増えました。
話題性としては地元のおばちゃんとか親子とかにも及んでいて、おばあちゃんたちがその話を脱衣所で聞いて、お兄さん『ダンス風呂屋』ってなに?って訊かれることもありました。
見た目で分かるぐらいどんどん人が増えたとはいえないですが、確実に銭湯が話題にされて、銭湯に馴染みのない人が銭湯に行くきっかけになっていて嬉しいです。
──そのために銭湯タイムも設けている?
そうですね、イベントのためだけだったら銭湯じゃなくてもいいわけですし。
でも、銭湯に入らない人が増えて、特に若い人たちが「銭湯離れ」している。そんな中で、こういうイベントに参加していただくことで「気持ちよかったね」と、家の近くの銭湯にも足を運んでもらえる、そんなきっかけになったら嬉しいんです。
──なるほど、日の出湯だけでなく、それは銭湯業界全体に意味のあることですよね。
お風呂と音楽の力が生む、ゆるい繋がり
銭湯でDJイベントを楽しめる意外性に加え、フロアで踊ったあとにお風呂にも入れるという、なんとも魅力的な『ダンス風呂屋』。
今回実際に体験してみて感じたのは、人同士のゆるい繋がりを生む銭湯という場所の力と、音楽の力。
音楽を共有したからこそ、お風呂タイムでは、ゆるい空気感の中、その日初めて会った人同士が自然に会話を交わしている光景も見ることができました。
そして、ここで共有されていた「ゆるさ」こそが、銭湯や音楽イベントが持つ「人と人をつなげる力」の正体なのかもしれません。
フロアもお風呂も沸かせることで人と人を繋ぐこの試みは、きっとこれからの銭湯の未来にも深くつながっているように思えます。
『ダンス風呂屋』は、この1年で3回開催。これからも継続的に開催されるようなので、最近銭湯に行っていない方も、銭湯大好きな方も、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
ダンス風呂屋[Ozone合同会社]
(今回のイベントで使用したサイレントディスコセットも貸し出し)