東急大井町線の九品仏駅。隣町・自由ヶ丘のハレの雰囲気とは一転、小さな駅を降りると昔ながらの店やスーパーが並ぶ商店街が続き、日常がのんびりと営まれる住宅街が広がる。
料理を通して場を創造するおもてなし夫婦ユニット「てとてと」として活動する、井上豪希さん・桃子さん夫婦、そしてネコの花火が暮らすのは、九品仏駅から徒歩数分のヴィンテージマンション。引っ越してからの約1年間で開いた食事会・料理教室の数はなんと100回という、こだわりのリノベーションを施した仕事場兼ご自宅を訪ねた。
名前:井上豪希さん 桃子さん職業:フードユニット・てとてと
場所:東京都世田谷区
面積:82㎡ 2LDK
家賃:持ち家
築年数:築41年
愛ネコ・メインクーンの花火
お気に入りの場所
てとてとの拠点、家の中心にある大きなキッチンこの家の大きな特徴は、玄関から庭まで見通せるタテ長のLDK。その中央に鎮座するのが、最もこだわったキッチンだ。
てとてとも日々の食事も、料理担当は豪希さんで、平日も朝晩ほぼ毎日料理をするという。生活と仕事の中心でもあるフル活動のスペースだが、道具などはカウンター下に収納され、スッキリとしたモデルルームのような雰囲気。
「キッチンに関しては3日間語り続けられるくらい、細部までこだわりました(笑)」(豪希さん)
両手がふさがっていても開け閉めしやすいよう、収納の扉はプッシュラッチを使用。
スタイリッシュなIHクッキングヒーターは、ドイツのブランド・GAGENAUのもの。磁石を使った脱着式で場所を移動できるコントロールノブに、取材陣も大興奮だった。
「デザインももちろん秀逸ですが、ヨーロッパのIHは電磁波に厳しい基準を設けているので、電磁波漏れが少ないという安全面も、これを選んだ理由のひとつです」(豪希さん)
取材時にはランチをごちそうになった。この日のメニューは「タラのムニエルプレート ラタトゥイユソース」「三種のキノコのスープ」。豪希さんが料理を作り、そのお手伝いとテーブルセッティングを桃子さんが担当。てとてとでは、食事会のテーマに合わせて、料理はもちろん部屋のデコレーションもスタイリングする。
この部屋に決めた理由
結婚を機に引っ越しを考え、最初は賃貸マンションを検討していたという。
「賃貸物件だと自分たちが思い描く部屋が見つからず、広さを求めると賃料も結構高くなってしまって……。試しにリノベーション会社で見積もりを出したら、賃貸の家賃よりもローンのほうが安いことがわかったんです。」(桃子さん)
「この物件に決めたのは、広さと駅からの近さが決め手ですね。てとてとの活動をスタートしていたので、たくさんの人が集まれる場所であること、それと今後子どもができた時のことも想定して、それらを充分確保できる物件を探しました。
九品仏は住む人のための街という感じも好きです。駅直結の商業ビルがあるような、住民以外の人もいっぱい来る街があまり得意ではなくて……」(豪希さん)
ヴィンテージマンションをリノベーションした詳しい理由や過程は「リノベストーリー」にて。
残念なところ
換気扇のスイッチの位置リノベーションは細部まで妥協しなかったため、後悔はほぼない。ただ、完成後唯一気になったのが、キッチンの換気扇スイッチ。
「ちょうど腰に当たる位置に付けたので、移動するときに触れて押してしまうんです。もっと下に付ければよかった……」(豪希さん)
お気に入りのアイテム
益子の陶器市で購入した器キッチン背後の棚には、たくさんの美しい器が並ぶ。中でもふたりのお気に入りは、益子の陶器市で出会った田代倫章さんの器。
「釉薬がひび割れている独特の表情が気に入っています。ちぢれた釉薬の特徴的な風合いは、どんな料理も引き立ててくれるんです」(豪希さん)
木目が美しい輪島塗の器お気に入りの器がたくさんあって、迷ってしまうおふたり。もうひとつ紹介してくれたのが、漆芸家・山田勘太さんの器。
「漆器は完成までにとても時間がかかります。漆を塗る前の木地が完成するまで、乾燥などの工程を含め数年。よく見かけるのは表面がつるんとした漆器ですが、この漆器はきれいな木目を活かすために目はじきという塗り方をしているものです」(豪希さん)
万能に活躍する、燕三条の包丁豪希さん愛用の包丁は、金物の街として知られる燕三条のメーカー・グレステンのアップシェンクナイフ。持ち手が一段高く、切るときに手がまな板に当たらないように工夫されているため、細い刃でもコレ1本で刺身、肉、野菜まで切ることができる。
「キッチン道具は、ネットで調べたりして探します。あとは、テレビのドキュメンタリー番組で職人さんが紹介されていたりすると気になってチェックしますね(笑)」(豪希さん)
豪希さんがトルコで購入した、現地の家族が手づくりする絨毯グリーン以外壁にはほとんど装飾がない、スタイリッシュな空間。唯一飾ってあるのがこの絨毯だ。昔バックパックでいろいろな国をまわっていた豪希さんがトルコで購入したもの。
「家族で絨毯をつくっているお宅にお邪魔して、製作を見学させてもらったんです。絨毯自体ももちろんすてきですが、完成までにとてつもなく手間や時間がかかっていることがわかり、そのストーリーも含めて心を動かされて。将来家に飾りたいなと思い、購入しました」(豪希さん)
お互い持ち寄ったアラジンのストーブ取材日に部屋をあたためていたのが、2台のアラジンのストーブ。結婚前にそれぞれの部屋で使っていたものを、持ち寄ったものだ。花火もストーブの前がお気に入りの様子。
ハンスJウェグナーのヴィンテージソファリビングスペースに置かれているのは、豪希さんがひとり暮らしの時から使っているハンスJウェグナーのヴィンテージソファ。どうしても欲しくて、こだわって購入したものだそう。昔から好きなテイストが変わらないため、以前の家からそのまま使っている家具が多い。
暮らしのアイデア
見せるもの・見せないものを徹底する
細々した食材のストックなどは、広いパントリーに収納
「いつでも人を呼べるように、LDKはなるべく生活感を出さないように気を付けています。見せたいものはディスプレイするように配置し、見せる必要のないものは隠す!」(桃子さん)
洗濯機のすぐ近くに、物干し用ランドリーバーを設置LDKの左側の壁の中には、寝室、ウォークインクローゼット、パントリー、バスルームと洗面所、トイレが並ぶ。洗面所に置かれた洗濯機の上には、衣類をそのまま干せるようにランドリーバーを設置。ワンアクションで家事が済む便利なアイデアだ。
これからの暮らし
フードユニットの活動をする上で、とても理想的といえる環境に暮らす豪希さん、桃子さん。ふたりが考える、これからの暮らしとは?
「ここに長く住むつもりではいますが、リノベーションするのが思った以上におもしろくて。ライフスタイルに合わせて、住む場所や住み方も変えていったらいいんだなと思うようになりました」(豪希さん)
「最近てとてととしてキャンプをはじめて、アウトドア飯の会を開催しているんですが、そうなってくるとどんどん増えるキャンプグッズをしまう場所を考えなければいけなくて……。その時々の変化に合わせて、家を柔軟に考えていきたいですね。次は一軒家にも住んでみたい気もしています!」(桃子さん)
「日常」と「てとてと」の仕事、どちらの時間も心地よく過ごせる住まいを手に入れて1年。夫婦として、料理ユニットとして、これからも楽しい変化がたくさん待っていそう。
リノベーションのやり方や過程は「リノベーションストーリー」にて自宅であり仕事場。夫婦フードユニットの「理想の住まい」のつくり方(九品仏)|リノベストーリー
Photographed by Kenya Chiba