そこでROOMIEが厳選した、さまざまなジャンルのショップをご紹介。実際に足を運んでみて、通いたくなるようなショップを見つけよう。
book obscura
URL:https://bookobscura.com/住所:東京都三鷹市井の頭4-21-5 #103
電話番号:0422-26-9707
営業時間:11〜20時 ※2018年1月6日(土)からは12~20時になります。
定休日:火曜日 ※2018年1月6日(土)からは火・水休みになります。
吉祥寺は家具や雑貨のショップも多く、ROOMIE読者にもおなじみの街。しかし井の頭公園を通り抜けた先までは、行ったことがないという人が大半ではないだろうか。
公園を抜けた先は、駅側とは全く違った趣き。静かな住宅街の中に昔ながらの商店街があり、粛々と暮らしが営まれている。今回の取材先は、そんな小さな商店街に新しくできた古本屋「book obscura」。2014年に惜しまれながらも閉店してしまった青山の「book246」で店長を勤めていた黒崎さんが、旦那さまと一緒に今年の10月にオープンさせた。
WEBショップから始め、「印刷所」だったというこの物件と出会ったことで実店舗をオープン。「紙という媒体を記憶しているから、同じ紙を使っている本なら受け入れてくれるはず」と、この場所に決めたのだとか。店内には古書を中心に写真集と美術書が並び、写真やアートなどの展示も頻繁に行われている。並ぶ本の約半分はもともと自身の私物だと話す黒崎さん。写真集愛に溢れたお店について、詳しい話をうかがった。
店主・黒崎由衣さん
コンセプト
「book obscura」の名前の由来は、原始のカメラである「camera obscura(ピンホール・カメラ)」。人びとが見てきた世界を映しだす場となり、作品と人とをつなぐ架け橋になれたら、という想いが込められている。
目指しているのは、「写真集を五感で楽しめる本屋」。コーヒーを出しているのもそのためで、展示内容などによって豆を変えています。例えば今は、開催中の角田明子写真展『JULTOMTEN〜スウェーデンのサンタさん』に合わせて、クリスマスをイメージしたベリー系のスペシャリティーコーヒーをセレクト。そうした味覚や嗅覚、紙をめくる時の触感など、五感をフル活用して、ゆったりと写真を楽しめる場所を作りたいと思っています(黒崎さん)
もうひとつ心がけているのが、「時代のニーズに合ったセレクト」であること。写真というのは歴史と深く繋がっているので、ある時代に撮られた一冊をポンとただ置くだけでは心に深く入っていかないことも。今この時だから発信したいもの、現代へのメッセージがあるものを私たちの視点で選んで提案しています(黒崎さん)
客層
商店街の中にあるため、近所に住むお年寄りから学生さんまで幅広い年代の方が訪れるという。場所柄、吉祥寺を散策中にふらっと入るというより、ここを目的にやって来るお客さんも多そうだ。
毎週のように通ってくださる写真集好きのお客さん、カメラを買ったばかりという若い方、プロのカメラマンさんなど、写真関係の方はもちろん、おじいちゃんおばあちゃんが立ち寄って、読まなくなった本を売ってくれたりもします。
写真を勉強中の学生さんから、「ここに並ぶ写真集の写真と自分で撮った写真の違いがわからないのだけど……」といった相談を受けたり、ということもありました(黒崎さん)
写真に詳しい人もそうでない人も、長く滞在できる本屋にしたいと思っています。井の頭公園を抜けたこの場所に出会えたのも運命的。賑やかな街から公園に入ることでスローな世界に切り替わり、ここで紙をめくりながらゆっくりひと息ついて、再び公園を抜けて「ヨシッ!」って元の世界に戻る。そんな使い方が理想です(黒崎さん)
スタッフおすすめアイテム
有名メゾンのデザイナーを勤めた経験もあるHedi Slimane(エディ・スリマン)が、スペインの音楽フェスティバル「International Festival of Benicassim」を撮影した写真集。すっきりとしたレイアウトに、美しい写真が綴られている。
Hedi Slimaneは、イヴ・サンローランなどのデザイナーもしていた人物。彼の繊細な美意識が活きていて、どの写真もとてもスタイリッシュ。フォルムの綺麗さやなめらかなラインなどは、インテリアにこだわるROOMIE読者さんの感性にも通じるものがあるのではないでしょうか。30代、40代の方が興奮するような、バンドマンもたくさん登場します(黒崎さん)
JGS :WITNESS NUMBER SEVEN Todd Hido
アメリカ出身の写真家Todd Hide(トッド・ハイド)が、廃墟となった部屋などを撮影したシリーズ。写っているのは空っぽの部屋ばかり。どんな人が住んでいたのだろうか、想像しながらいつまででも眺めていられる。
水没した家や亡くなってしまった方の家など、もう誰も住むことのない家ばかり。そこに写るシミひとつに人のいた形跡を感じたり、見ていて飽きません。Hodd Hideは光の捉えるのがとても上手く、誰も居なくなった寂しい空間ではあるけれど、美しさも感じられます(黒崎さん)
番外編カウンター前のショーケースには、売り物ではない大切なコレクションが並ぶ。黒崎さんが本当に好きすぎると話すのは、プラハの写真家「Josef sudek(ヨゼフ・スデック)」。
Josef sudekは戦争で右腕を失ってしまうんですが、それでもプラハの街を取り続けます。しかしプラハはナチスの占領下だったため、写真を撮っているとスパイとみなされて捕まってしまうように……。そんな時代背景もあって、最初は風景写真だったのが徐々にアトリエの中での写真に変わっていくんです(黒崎さん)
今後のショップづくり
「book obscura」を家業にしたいと思っているんですよ。商店街にオープンしたからには、多少なりとも責任があると思いますし、「この街の本屋さん」として孫の代まで続けていけたら幸せですね。今は活気がある通りとは言えませんが、このお店とここに集まる人たちをきっかけに、10年後には喫茶店ができたりなど、他にもお店が増えていたらいいなぁなんて考えています。
写真集ひとつひとつに込められた「きれいの先の意味」をたくさんの人に伝えて続ける、そんな場所になっていきたいです(黒崎さん)
Photographed by Yutaro Yamaguchi