「あかぎハイツ」の三代目となる赤城芳博さんは、奥様の真樹子さんと一緒にここをおもしろく発展させている。いろいろな地域からクリエイターを呼んでマーケットやイベントを開いたり、建築の専門的な勉強をしたわけではないけれど、一室を自分の手でフルリノベーションして暮らしているのだというから、なかなかの強者だ。
完成までの経緯やリノベーションの魅力についてお話しをうかがってみた。
なぜ、ご自身の手でリノベーションされたんですか?
左:赤城真樹子さん 右:赤城芳博さん
もともと僕はフリーターをしていて、少しずつ家の仕事を手伝うようになり、ゆくゆくは父から引き継ぐべく、今は本格的に「あかぎハイツ」の仕事をしています。はじめは他の賃貸物件で暮らしていましたね。ハイツ内の物件をリフォームするとき、業者さんの作業の様子を見る機会があって、おもしろそうだなって思ったんです。自分でやったらどうなんだろう? と。
それがきっかけで、ベテラン大工さんの解体ワークショップに参加してみました。それで家族に言わずに、自分でこのマンションの一室を勝手にスケルトンになるまで壊しちゃったので、自分が住むしかないなって(笑)。
3年前にはじめて、少しずつ進めていたので、トータルするとそこから1年ほどかけてフルリノベーションをした感じですね。
作業で苦労したところはどこですか?
この建物は築43年で、構造的には骨組み以外の場所は壊すことができます。丸ノコとバールで解体できる部分もあったんですが、水回りの壁なんかはごつくて、ここからはダイヤモンドカッターを装備したディスクグラインダを使っても4日ぐらいかかってしまいました。大変だったけれど、当時の職人さんの熟練の腕がうかがえるサンドされた鉄筋入りブロックなどは、壊すのがもったいないくらいでしたね。
でも、それ以上に大変だったのは、出たガレキの処分。予想以上の量に心が折れそうになりました(笑)。
間取りやデザインはどう決めたんですか?
まずは、スケルトンにしてから間取りを決めていきました。デザイン面は僕はよくわからないので……妻の担当ですね。妻はアンティークな雰囲気が好きなので、Webサイトや雑誌でイメージするデザインを教えてくれて、僕が作業を担当しました。
妻の要望で人が集まれる家になるように、リビングとキッチンを広く確保しました。その代わり、水回りや寝室はコンパクトにまとめています。実は水回りの制約が結構あって、トイレは動かせなかったんです。他にも、この太さの配管はお風呂の排水以外だめ、ということもありましたね。
とはいえ、かなり自由度の高いリノベーションになったのは事実。自分の手で作り上げていく楽しさはありましたね。膨大な設備のカタログの中からキッチン、バスルーム、トイレなど、各パーツを選んでいくのはちょっと大変でしたけど(笑)。
業者さんに依頼すべきところもありますか?
水道設備、ガス、電気の部分は免許が必要なので、すべて業者さんにお願いしました。墨出しはベテラン大工さんにアドバイスをもらって、自分でやりました。ちなみに墨出しは、図面の通りに線を引いていく作業です。床下地は建築当時の墨が残っていたので、それを使いました。下地作りも自分の手でやりましたね。
床や壁、天井の骨組みなども、材料選びから調達まで自分の手でやりましたね。業者さんが入ったのは、免許が必要な部分のみ。価格重視でネットで購入した建材もあるんですよ。
これから「あかぎハイツ」はどう発展していきますか?
もともとは、宣伝のためにリノベーションをはじめたんですよ。築43年ともなると外観・内装も含め、リフォームはオーナーの務めですけど、いわゆる普通のリフォームではつまらないなと思って。新築とは違った魅力がないと、入居者さんは集まりづらいですよね。
自分の部屋をリノベーションした後、直さないといけない空室の部屋も自分でリノベーションしてみました。そこはすぐに借りてくださった方がいますね。また別の1室も、今リノベーションを進めています。
今後は、最近のリノベーション、DIYのニーズに応えて、「好きなようにいじっていいですよ」という貸し出し方もおもしろいんじゃないかと思ってます。入居前にリノベーションする時にオーダーをうかがって、応えられるところは応えたり、棚くらいはDIYでつけていいようにしたり。
そういう意味で、自宅のリノベーションは実験的要素が多かったです。今後も暮らしているうちに、もっとここはこうしたらいいんじゃないかな? というところはどんどん変えて実験していきたいですね。その経験を、他の部屋の改装やリノベーションに役立てていきたいです。もしかしたら、一生完成はないかも(笑)。
編集部ノートあかぎハイツの1階では、もともと「あかぎマート」というスーパーが営まれていたという。セルフリノベーションやイベント運営などを手掛ける三代目の挑戦には、あかぎマート時代から受け継がれている地域住民や入居者への愛情が、背景にあるのを感じた。
レトロで懐かしい雰囲気のエントランスと、オーナー家族による行き届いた管理。ほのぼのとしたあたたな暮らしが、あかぎハイツに息づいていた。
芳博さん、真樹子さんの暮らしのアイデアは「みんなの部屋」にて!
Photographed by Norihito Yamauchi