穴場だと思う街ランキングで2年連続1位に輝く、隠れた人気を誇る北千住。5路線が乗り入れる交通の便のよさや、買い物に便利な街並み、比較的リーズナブルな家賃相場などが理由にあげられる。
そんな北千住駅から徒歩20分、京成線・千住大橋駅から徒歩10分ほどの場所に暮らすのは、建築関係の会社で内装デザイナーとして勤務する田上雄也さん。友人たちとリノベーションした部屋は、1階段に印刷所が入る渋いビル内の1室。若干きしむ階段をおそるおそる上がると……「住所を間違えたかな?」と思うほど、通常の家とは異なる唯一無二の空間が待っていた。
名前:田上雄也さん職業:内装デザイナー
場所:東京都足立区千住
面積:70㎡ 2LDK+土間
家賃:おじさんの持ち物のため無料(セルフリノベーション費用:100万円程度)
築年数:築50年
玄関
お気に入りの場所
リビングの窓際に置いた、カリモクのソファカリモクのソファが置かれたリビング。もともとは畳の部屋だったが、左官関係の友人にお願いして床に改装した。畳を剥がしてレベリング材を流し込み、透明のビットクリア塗装で仕上げたという。
ツルッとした感触の無機質な床と、DIYでラフに塗った白い壁によって、素材感がおもしろい明るくシンプルな空間ができあがっている。休日は、リビングで音楽をかけながら本や雑誌をめくることが多いという。
レトロ感のあるダイニングキッチンダイニングキッチンには、好きだというお酒や、調味料などが置かれている。ネットで5,000円で見つけたイームズのチェアやアウトドアベンチなど、あえて1つずつ異なる椅子がテーブルを囲んでいる。
「基本は自炊してますね。仕事から帰ってきて食事をしたり、お酒を飲んだり。平日はこの部屋にいる時間がいちばん長い気がします」
DIYで作った作業デスク棚の上に板を渡したシンプルなデスクはDIYしたもの。棚に背面板を付けてあるので、厚めの天板を載せても安定している。シルバーの椅子は海軍で使用されていたというエメコ社の「NAVY CHAIR」のリプロダクト。
ホームパーティで活躍する広いベランダリビングの横に続くベランダはかなり広く、眺望は開けていて気持ちいい。家をセルフリノベーションした際の廃材を、古い椅子2脚の上に取り付けたDIYベンチがいい味を出している。
隅田川やスカイツリーが見渡せる屋上ベランダだけでなく、広い屋上まで付いている。この場所を独り占めできるとは、なんとも贅沢だ。
「洗濯物を干している人がいたり、植物に水をやっている人がいたり。ここから周囲の家々の暮らしの断片を眺めるのが好きです。ここで暮らすようになって、屋上付きのマンションっていいなと思うようになりました。次もそういうところで暮らしたいですね」
この部屋に決めた理由
このビルは、親戚の叔父さんがオーナー。ここに暮らすことになった経緯と、具体的にどうリノベーションしていったのかをうかがってみた。
「父の実家はお菓子屋をしていて、1階が工場、2階が社員寮、3階のこの部屋に叔父や父たちが暮らしていたそうです。今は叔父がオーナーになって、1階を印刷所に貸しています。僕はずっと実家暮らしで特に不便はなかったのですが、この部屋が空いているのを聞いて改装したらおもしろそうだなと思って、借りることにしました」
「ここに住みはじめて2年くらいで、リノベーション期間は3ヶ月くらいでしたね。はじめは友人と2人でシェアして住んでいて、水回りや電気関係以外はぜんぶ自分たちで改装しています。壁をぜんぶ白く塗装し直したり、後輩の職人に畳を剥がして床にしてもらったり、ダイニングとベッドルームの間のドアを板でふさいで壁にしたり。全部で3ヶ月くらい、トータルで100万円くらいかかりました」
残念なところ
冬さむく、夏あつい「古い建物なので、冬は結構さむいです。このコンクリートの床も冬は冷たいし、夏はヒンヤリしそうに見えますが、熱を吸収するんであついんです……」
シャワーの温度の調製が難しい離れのように、土間部分に増築されたバスルーム。田上さんの前にここで暮らしていた建築士が増築したものだそう。給湯器の調子が悪くて微妙な調整が難しく、熱湯か冷水しか出ない……。
「真夏以外は冷水はキツイので、熱湯でなんとかやってます(笑)」
お気に入りのアイテム
フィリップ・スタルクのスツールリビングに置かれているオブジェのようなスツールは、フィリップ・スタルクの「PRINCE AHA」。素材感のある部屋にエッジのある家具が置かれているため、空間にリズムが生まれている。
「クリスマスツリーを小脇に抱えるように持てることから、クリスマスチェアとも呼ばれるみたいです。家具が持つ、そんなちょっとしたストーリーを知ると、より愛着がわきますね」
昔集めていた、ファイヤーキングのマグカップベッドルームにDIYした棚の最上段には、昔集めていたというファイヤーキング・コレクションが並ぶ。
元同居人が装丁した本
船をテーマにした書籍の装丁を再考するという企画展をまとめた本
以前ルームシェアしていた友人は、学生時代のバスケサークルの先輩で、現在はデザイナー。彼が装丁した池波正太郎の『剣客商売』が本棚に並んでいる。引っ越していって間もない元同居人の部屋は、本当に今さっき出て行ったかのような生活感が残っていた。
謎の文字「SNJ YEAH」のシルクスクリーン室内の壁にプリントされている「SNJ YEAH」という謎の文字。実はこれ「SENJYU」の「YEAH」、つまり「千住の家」、この部屋のロゴなのだという。友人と考えてシルクスクリーンをつくり、壁や玄関に置かれた板にプリントしたもの。そんな洒落が隠れているとは……。部屋づくりを楽しんでいることをうかがえるエピソードだ。
暮らしのアイデア
物選びの基準は、部屋に並べたいかどうか押し入れやDIYした棚を利用した“見せる収納”派の田上さん。気を付けないとごちゃごちゃしてしまいそうだが、空間が広いこともあり、うまく抜け感がつくられている。ただラフに置いてあるようにも見えるが、全体的に物が少なくすっきりとした印象。半透明の衣装ケースの中の洋服まで、きれいに畳んである。このひと手間もすっきり見せる秘訣かも。
「物を隠して収納できないので、部屋に置きたいな、並べたいな、というものを自然と選んでいる気がします。隠したくないというか、並べるという行為自体が好きなのかもしれません」
ハンガーラックは、フックを等間隔に並べて活用上部にフックを等間隔に設置して、そこにハンガーをひとつひとつ掛けている。
「普通は棒を付けるところですが、生活感が出てしまってあまりかっこよくはないかなと。それでこの方法を思いつきましたが、あと数着しか掛けられないですね」
棚は収納する物に合わせてDIYするシューズラック、食器棚、本棚など、棚はサブロク板などのリーズナブルな木材を用いてDIY。収納したい物や場所に合わせてつくれて便利。レールやL字金具はあえてゴールドをチョイスすることで、白い壁に映えるアクセントになっている。
これからの暮らし
「実は8月にここを退去しなければいけなくなって。DYIPで改装可能物件を探しているところです。一度こうやってリノベーションした部屋に暮らしたら、普通の壁や床の部屋には住めないですね。ここまでの完成度と広さは難しくても、30㎡くらいの広さの部屋を、またイチからリノベーションしたいです」
セルフリノベーションした家で暮らすおもしろさを実感してしまった田上さん。ちなみに、田上さんと同じようにDIYして暮らしたい人も「DIYのHow toサイトはたくさんあるし、どんな工具がどこに売っているかが分かればできる」と言っていた。
次はどんな部屋に住むのか、今から楽しみだ。引っ越しが完了したら、ぜひまた取材させてもらいたい、それほどにセンスとクオリティの高さを感じる部屋だった。
Photographed by Yutaro Yamaguchi